〜作用機序・種類・使い分け・注意点〜
導入:なぜ糖尿病に薬が必要なのか
糖尿病は「血糖値が慢性的に高い状態」が続く病気です。
放置すると動脈硬化が進み、心筋梗塞・脳梗塞・腎不全・失明・足壊疽などの重篤な合併症を引き起こします。
食事療法や運動療法は基本ですが、それだけで血糖コントロールが難しい場合は 薬物療法 が必要になります。
現在は数多くの薬が開発されており、患者さんの体質・合併症・ライフスタイルに応じて使い分けられています。
糖尿病治療薬の比較表
薬の種類 | 代表薬 | 主な作用 | 効果 | 副作用 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
ビグアナイド薬 | メトホルミン | 肝臓での糖新生抑制、筋肉での糖利用促進 | 空腹時血糖改善、体重増加なし | 胃腸障害、まれに乳酸アシドーシス | 世界的に第一選択薬、心血管保護効果あり |
スルホニル尿素薬(SU薬) | グリメピリド、グリベンクラミド | 膵臓からのインスリン分泌促進 | 強力に血糖低下 | 低血糖、体重増加 | 古くから使われる即効性のある薬 |
DPP-4阻害薬 | シタグリプチン、テネリグリプチン | インクレチン分解抑制 → インスリン分泌増加・グルカゴン抑制 | 食後血糖改善、低血糖リスク低い | 膵炎リスク、関節痛まれにあり | 日本で特に処方数が多い、安全性が高い |
SGLT2阻害薬 | ダパグリフロジン、エンパグリフロジン | 腎臓での糖再吸収抑制 → 尿に糖を排出 | 血糖・体重・血圧を下げる、心腎保護効果 | 尿路感染、脱水、ケトアシドーシス | 最近注目度が高い薬、ダイエット効果も |
α-グルコシダーゼ阻害薬 | アカルボース、ボグリボース | 小腸で糖分解酵素阻害 → 糖吸収遅延 | 食後高血糖を抑制 | お腹の張り、ガス | 日本人の食生活に合う、食直前服用 |
チアゾリジン薬 | ピオグリタゾン | インスリン抵抗性改善、筋肉・脂肪で糖取り込み促進 | インスリン感受性改善、中性脂肪低下 | 体重増加、浮腫、心不全悪化 | 脂質改善作用もありメタボ型に有効 |
グリニド薬 | ナテグリニド、ミチグリニド | 膵臓刺激で短時間のインスリン分泌促進 | 食後高血糖抑制 | 低血糖(SUより軽度) | 食直前に服用、作用時間短い |
インスリン注射 | 超速効型、持効型など | 直接インスリンを補充 | あらゆる血糖を強力にコントロール | 低血糖、体重増加 | 1型糖尿病必須、2型でも重症例に |
GLP-1受容体作動薬 | リラグルチド(ビクトーザ)、セマグルチド(オゼンピック/ウゴービ) | 満腹中枢刺激、インスリン分泌促進、胃排出遅延 | 血糖改善+体重減少効果 | 吐き気、膵炎リスク | 注射薬、近年「痩せ薬」としても注目 |
第1章 糖尿病の種類と薬の必要性
- 1型糖尿病:自己免疫反応で膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンが出なくなる → インスリン注射が必須
- 2型糖尿病:生活習慣や遺伝でインスリン抵抗性・分泌不全が進行 → 経口薬+場合によってインスリン注射
👉 日本人の糖尿病の大半は 2型糖尿病。主に経口薬から治療が始まります。
第2章 経口血糖降下薬の種類と特徴
2-1. ビグアナイド薬(メトホルミン)
- 代表薬:メトグルコ、メトホルミン
- 作用:肝臓での糖新生を抑え、筋肉での糖取り込みを増やす
- 特徴:体重増加を起こさず、心血管保護効果も報告
- 副作用:胃腸障害、まれに乳酸アシドーシス
2-2. スルホニル尿素薬(SU薬)
- 代表薬:グリメピリド、グリクラジド、グリベンクラミド
- 作用:膵臓を刺激してインスリン分泌を促進
- 特徴:強力に血糖を下げる
- 副作用:低血糖、体重増加
2-3. DPP-4阻害薬
- 代表薬:シタグリプチン(ジャヌビア)、アログリプチン、テネリグリプチン
- 作用:インクレチン(GLP-1)を分解する酵素を阻害 → インスリン分泌促進・グルカゴン抑制
- 特徴:日本で非常に多く使われている、安全性が高い
- 副作用:まれに関節痛・膵炎リスク
2-4. SGLT2阻害薬
- 代表薬:ダパグリフロジン(フォシーガ)、エンパグリフロジン、イプラグリフロジン
- 作用:腎臓での糖再吸収を抑え、尿に糖を排出する
- 特徴:体重減少、血圧低下、心不全や腎保護効果
- 副作用:尿路感染、脱水、ケトアシドーシス
2-5. α-グルコシダーゼ阻害薬
- 代表薬:アカルボース(グルコバイ)、ボグリボース(ベイスン)、ミグリトール
- 作用:小腸での糖吸収を遅らせる
- 特徴:食後高血糖を抑える、日本人に適した薬
- 副作用:お腹の張り、ガス
2-6. チアゾリジン薬
- 代表薬:ピオグリタゾン(アクトス)
- 作用:インスリン抵抗性を改善、筋肉・脂肪での糖取り込みを促す
- 特徴:中性脂肪を下げる効果あり
- 副作用:体重増加、浮腫、心不全悪化リスク
2-7. Glinide系薬
- 代表薬:ナテグリニド、ミチグリニド
- 作用:短時間でインスリン分泌を促す → 食後高血糖対策
- 特徴:作用時間が短いので低血糖リスクはSU薬より低い
- 副作用:低血糖
第3章 注射薬による治療
3-1. インスリン療法
- 1型糖尿病には必須、2型糖尿病でも重症例に使用
- 種類:速効型、持続型、中間型、混合型
- インスリンポンプ療法も普及中
3-2. GLP-1受容体作動薬
- 代表薬:リラグルチド(ビクトーザ)、セマグルチド(オゼンピック/ウゴービ)
- 作用:食欲抑制+インスリン分泌促進+胃排出遅延
- 特徴:体重減少効果もあり、肥満合併例で有効
- 副作用:吐き気、膵炎リスク
第4章 薬の使い分け
- 第一選択薬:メトホルミン(肥満が少ない日本でも有用)
- 心不全・腎臓病合併 → SGLT2阻害薬
- 肥満合併 → GLP-1受容体作動薬
- 食後高血糖が主体 → α-グルコシダーゼ阻害薬、グリニド薬
- 高齢者 → 低血糖リスクが少ない薬を優先
第5章 糖尿病薬の今後
- 週1回注射型の新薬(セマグルチドなど)が主流に
- 二重作動薬(GLP-1+GIP作動薬:マンジャロ) の登場で体重減少効果がさらに強力に
- 個別化医療(遺伝子・体質に応じた薬の選択)が進む
第6章 薬を使う際の注意点
- 自己判断で中止・変更しない
- 定期的な血液検査(肝機能・腎機能)で副作用チェック
- 食事・運動療法を続けないと効果が不十分
- 高齢者は低血糖に特に注意
まとめ
- 糖尿病治療薬は大きく 経口薬・注射薬 に分かれる
- 種類は多様化し、副作用が少なく体重減少効果を持つ薬も登場
- 重要なのは「自分に合った薬」を選び、生活習慣改善と併用すること
- 薬はあくまで治療の一部であり、習慣改善と定期受診が欠かせない