サプリ館の公式ブログ

個人輸入代行業者 サプリ館のブログ

糖尿病の最新の治療法2

      2015/12/19

糖尿病の最新の治療法2

なぜ糖尿病患者さんは治療を受けたくないのか

糖尿病治療は患者さんと二人三脚、医者は心筋梗塞などの重大な大血管病を防ぐためにできる限りのことをしながら、患者さんには生活改善などの努力をしていただきます。そのために患者さんの生活環境をよくうかがい、その患者さんに可能で適切な治療を行います。私が大切にしているのは、患者さんを脅さない、無理難題を押し付けないということ。
患者さんが医療から遠のいては元も子もないからです。

糖尿病の薬の個人輸入はこちら

今、日本では糖尿病の患者さんは増え続けています。2007年の調査では、糖尿病が強く疑われる人が約890万人、糖尿病の可能性を否定できない人が約1320万人、合わせて2210万人(「平成19年国民健康・栄養調査」厚生労働省)となりました。10年前と比べて1・3倍にも増えているのです。ところが、20歳以上の「糖尿病が強く疑われる人」であっても、「現在、治療を受けている人」はそのうちの55・7%に留まっていて、残りの人は医療とは切り離されています。
こうした治療開始の遅れや受診率が低いことが大きく関与しているのだと思いますが、糖尿病の人は、男女それぞれ、そうではない人と比べて寿命が短いという結果も発表されています。

日本人糖尿病患者の平均死亡時年齢と日本人一般の平均寿命

日本人糖尿病患者の平均死亡時年齢と日本人一般の平均寿命

この研究論文では、糖尿病患者の平均死亡時年齢は、男性68歳、女性71・6歳で、同時代の日本人一般の平均に比較すると、それぞれ9・6歳、13・0歳も短命だったのです。

糖尿病の薬の個人輸入はこちら

なぜ治療を受けないのでしょう。糖尿病は、自覚症状かあまりないということもあるかもしれません。心筋梗塞など、命の危険にもつながることのある病気だという知識が行き渡っていないこともあるかもしれません。けれど、それと同じかそれ以上に大きな問題として、糖尿病の治療を受けろことになると、普通の生活ができなくなってしまう、だからなるべく受けたくない、と一般に思われているということがあるのではないかと思うのです。
これは患者さんと接していて感じることです。私の外来には、すでにほかで治療を受けていた糖尿病患者さんが転院してくるケースがままあるのですが、治療を始めて血糖値コントロールが予想よりも少しでもうまくいかないと、バツが悪そうに、「先生ごめんなさいねえ。今回はがんばれませんでした。運動も約束どおりにはできなかったし、旅行もしたし。外食も多かったんです。血糖値もあまり測定しませんでした」などと言うのです。
私はこういう患者さんには、「謝ることはありませんよ」ということをお伝えしますが、患者さんのほうは、糖尿病治療の血糖値コントロールはとても厳しくしなければならないもので、それを達成できないとダメだと思い込んでいるわけです。そしてそれが達成できないことがたいへんなストレスになっています。
なぜこんなことになるのでしょう。それは日本では血糖値コントロールの目標値が低く、つまり、ハードルが高く設定され、医者もそれを達成することを厳しく求めるやり方が、長年続けられてきたからではないでしょうか。
その結果、糖尿病になってしまったら厳しくても血糖値を下げるのは当然、どのような薬を使ってでも血糖値を下げればよい効果が得られる、血糖値を下げた分だけ心筋梗塞、脳梗塞が予防できると思われがちなのです。これは正しいのでしょうか。実は最近、驚くべきことがわかってきました。むしろ血糖値を厳しく下げるのは、よくないというのです。

アコード試験が明らかにした真実

2008年2月6日、アメリカで、「アコード試験」と呼ばれる糖尿病治療研究の成果が報告されました。

アコード、アドバンス、VADT試験の結果比較

アコード、アドバンス、VADT試験の結果比較

アコード試験は、糖尿病患者の血糖値を厳格に正常化しようとしたほうが、そうでない場合に比べて、生存率がよくなるということを証明するために2001年にスタートした試験です。血糖値を正常化しようとすれば当然死亡率は下がるはず、なぜそんなことを今さら研究したのかと思う人もいるかもしれません。しかし実際には、こんな単純なことですら、科学的に証明されてはいなかったのです。
アコード試験の対象はアメリカとカナダの糖尿病の患者さん1万人以上です。この人たちを、ヘモグロビンAlcを6・0%未満に厳格にコントロールして血糖値を正常化させるグループと、ヘモグロビンAlcを7・0から7・9%の比較的緩やかにコントロールをするグループとに分け、追跡して比較をしました。
結果は、まったくの予想外のものでした。血糖値を厳格に下げ、正常化させようとしたグループのほうが、死亡率が高く、それも22%も死亡率が高かったという結果になったのです。
対象となった患者さんは2型糖尿病患者で、心臓病があるか、高血圧、高脂血症、肥満、喫煙のリスクのうち少なくとも二つ以上を羅患している人たちに絞られていました。平均年齢は62歳で、糖尿病をわずらっていた期間は平均で10年、ヘモグロビンAlcの平均値は8・2%でした。つまり糖尿病の罹病期間も長く、狭心症や心筋梗塞を含む心血管疾患のリスクがかなり高い人たちです。
追跡期間は5年間と設定されていたので、その期間ではっきりとした死亡率の違いを出すには、リスクの高い人たち、つまり、死亡率の比較的高い人を対象として試験をすることがそもそも必要だったのです。ただ、糖尿病があって血圧も高く、肥満もあるといった人が一般的にも多いのは事実ですから、この実験の対象となった人たちが格別、特殊な糖尿病患者だというわけではなかったと思います。ところが、厳格に血糖値をコントロールすると統計的に明らかに死亡率が上昇するとわかり、当初は5年間の追跡を予定したアコード試験でしたが、3年半で中断されたのでした。
この研究報告は大きな驚きをもって受け止められました。いいと考えられていた血糖値の正常化という厳格コントロールをしていた人々の死亡率が上昇したというのですから、驚きはもっともなことです。
だれもが正しいと思って実施した試験から、結果としては逆の事実が導かれたのです。
この結果は、思い込みで治療をするのではなく、やはり研究成果をもって、正しい科学的な事実のうえに治療が行われるべきであることを示しています。
研究の結論は、糖尿病で心血管疾患のリスクの高い人たちは、ヘモグロビンAlc7%前後の緩やかな血糖値コントロールにするのがよろしいでしょう、というものでした。もともと米国では、血糖値コントロールについていえば、ヘモグロビン旭を7%未満にすることを推奨していましたから、「7%前後」というところが今回の研究で出てきた新しいポイントとなります。
もとの計画が中断された後、厳格な血糖値コントロールをされていた人々も緩めのコントロールに移行し、研究が継続されることになりました。

厳しすぎる血糖値目標がストレスを生む

2008年2月6日の記者会見でアコード試験の報告を行ったのは、米国最大の研究機関である国立衛生研究所(NIH)の所長、ネーベル博士でした。
米国国立衛生研究所は、19世紀末に設立された米国で最も古い医学研究機関で、ヒトゲノム計画を策定し、ヒトゲノムを解読したのもここです。その研究費は、2007年度には285億ドルにも及んでいます。1ドル100円としても、年間約3兆円にもなるわけです。
糖尿病治療においても、同研究所の研究成果がなければ、現在までの進捗はなかったであろうといわれています。例えば、過去には糖尿病網膜症の患者さんのうち5年以内に45万人が失明すると予測されていた時期がありましたが、米国国立衛生研究所の研究をもとにした新しい治療のおかげで、現在では9000人に減少しました。
この米国国立衛生研究所のトップである所長のネーベル博士が記者会見を開いたのですから、世界中のメディアの耳目を集めたのは当然です。そこで発表されたのが、アコード試験の予想に反した経過と、糖尿病で心血管疾患のリスクの高い人たちの血糖値コントロールは緩やかなものにするほうがよいという驚くべき結論だったわけです。
2008年2月7日の『ニューヨーク・タイムズ』紙は、米国心臓病学会会長のドーブ博士のコメントを掲載しています。「過去50年にわたり血糖値を下げることばかりを議論してきた。過去の研究はこれが正しいということを示唆してきていた。この研究(アコード試験)の結果には混乱させられ、動揺しています」というものでした。
このコメントこそが、これまで糖尿病に立ち向かってきた医者たちの本音を示しているものと思います。血糖値の正常化が死亡率を上げるなどということは医者としても信じがたいのです。しかし、結果には真摯に向き合わなくてはなりません。そこには、考えもしなかった何かが潜んでいるからこそ、予想外の結論が導き出されたわけですから。
クリーブランドクリニックの心臓血管内科科長のニッセン博士も、「多数の薬を使用しているので、予期しない薬害が起きた可能性がある」とコメント(前出『ニューヨーク・タイムズ』紙)しています。
厳格な血糖値コントロールをめざしたグループでは、血糖値を正常化しようとするあまり、薬がかなり多めに使われていたことは間違いありません。インスリンも一日に4?5回打たれていた人も含まれていますし、血糖も一日に7?8回測定していた人もいます。
薬害があったとしたら、それを明らかにすることは、今後の血糖管理に大きな影響を与えることになるでしょう。
さて、ネーベル博士の会見の2日後、2月8日になって、アコード試験運営委員会の副議長で、アメリカ糖尿病協会の医学・科学委員長のビューズ博士のコメントが『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載されました。次のような内容です。
「糖尿病患者さんの場合、目標とする血糖値レベルが低すぎると、心理的に強く圧迫を受け、私はこんなにがんばっているのに、それでも達成できないというのがストレスになっている。このことが、研究の結果が予想外のものだった原因の一つではないか」アコード試験の結果が発表されて以来、私は外来で、心筋梗塞などのリスクの高い患者さんが「先生ごめんなさい」と言うたびに説明をしています。
「あなたの場合、高血圧もあって、高脂血症で悪玉コレステロール値も高い。そういう方には厳しい血糖値コントロールでは、むしろ心臓病の危険があるのです。最新の研究の結果からそれがわかっでいますから、緩やかなやり方でいいのですよ」
ところが、患者さんは「先生は優しいからそんなことを言ってくれるけど、血糖値が悪いのは私のせいです。自分のことなのだから、もっとがんばります」と言って帰っていきます。テレビの健康番組や新聞・雑誌の健康記事で、高名な糖尿病の専門の先生が、「厳格な血糖値コントロールが必要です、血糖値はできるだけ正常に近づけるようにコントロールしましょう」と連呼してきたのですから、患者さんの頭にはそれが刷り込まれていま
す。その呪縛から解き放たれるのは容易なことではありません。一生懸命、食事を整え、運動をして、自分を律しながら、厳格な血糖値コントロールをめざす高い目標を達成しようと努力し、そして、つまずいてはがっくりと自分を責めてしまうのです。
ピューズ博士が述べているように、厳しすぎる血糖値目標がストレスを与え、死亡率の上昇にまで寄与しているとすれば、これは由々しき事態といえるでしょう。
そしてまた、強く糖尿病が疑われている人のうち、受診をしている人は半分程度にしかすぎないという日本の現実を思わずにはいられません。
杓子定規に、厳格な血糖値コントロールをしなければならないと患者さんに強要しても、患者さんがその気にならないのであれば意味がありません。しかも、かえって死亡率を高めるなどということになれば、もってのほかです。死亡率を上げるということまでにはならないとしても、受診意欲をそいで、患者さんの「医療を受けたい」と思う気持ちをくじけさせてしまうことがあれば、糖尿病が放置されることになり、結局は心筋梗塞や脳卒中を増やすことにつながりかねないと思います。
患者さん1人ひとりには、それぞれに人生観があり、ライフスタイルがあり、これはできない、したくないという線があるわけで、医者のほうがその気持ちを汲み取ったうえで相談にのることが大切だと思います。身内の方で、インスリンを打たれていて、足を切断しなくてはならなくなった経験をお持ちの場合、インスリンというキーワードが脳裏にトラウマとして刻み込まれている場合もあるのです。
こんなケースがありました。血糖値が目標の値に達することができずに医者にインスリン注射をすすめられ、それがイヤでならず、半年も家にこもっていたという人が、私のところに転院してきました。よく話を聞き、私の意見を伝えて、なんとか外来で飲み薬を開始することができました。すると、ヘモグロビン斌でいうと、12%ものとんでもない高い血糖値から、少なくともコントロールの緩やかなレベル、8%にまで低下させることができ、現在まで2年が経過しています。
この患者さんの場合、インスリン注射について話そうとするだけでも、もう話を聞きたくないという態度が露わになります。そのような患者さんの気持ちをわかって差し上げ、そのうえでタイミングを見ながら、血糖値コントロールは大切だということをわかってもらえるよう心を砕いていると、心は通じるものです。今では自宅での自己血糖測定をすることも聞き入れてくれました。ここまでくればかなりいいと思うのです。自己管理をしてもらうことで、過剰な栄養摂取も減りましたし、軽い運動もするようになってくれました。

血糖値コントロール、待たれる国際基準

日本では血糖値コントロールの評価として、5・8%未満が「優」、6・5%未満が「良」だとして、「優」「良」を目標とし、まず6・5%未満をめざすことが求められます。欧米の目安は7・0%とされますが、実は欧米と日本ではヘモグロビンAlcを測定する標準物質が異なるため、若干、その値に差が出てしまいます。
欧米でデータを採用したのは、「UKPDS(ユーケーピーディーエス)」と呼ばれる、イギリスの糖尿病合併症予防についての研究です。3867人の糖尿病患者さんの治療と10年間の追跡を行い、1998年に発表されました。この研究では、血糖値と血圧を下げると合併症は減るという結果が出ましたが、そのときに、合併症のリスクが減少するのがヘモグロビンAlc7・0%だと出た。そこで、欧米では血糖値コントロールの目安としてヘモグロビンAlc7・0%を採用することになったわけです。
日本では、「クマモト・スタディ」と呼ばれる研究がもとになっています。日本人の糖尿病患者さん110人を対象にした、治療と6年間の追跡をした研究で、強化インスリン療法といって、一日に3、4回インスリンを注射して、できるだけ血糖値を正常化しようとしたグループと、従来のインスリン治療をしたグループとで比較をしたものです。
その結果、糖尿病網膜症と糖尿病腎症について強化インスリン療法を行ったグループによい成績が出たというもので、その数値がヘモグロビン后6・5%であり、1995年に発表されたこのデータがもとになって、日本の血糖値コントロールの目安となりました。
私は、この「クマモト・スタディ」にはいくつかの疑問を持っています。一つは、患者さんたちに重症の低血糖がほとんど起きていないこと。インスリンの治療では必然的に低血糖が起こるのですが、それがないのです。低血糖の問題については後で詳しくご紹介しますが、これは糖尿病治療、特にインスリン治療を受けている患者さんにはとても困った問題です。それが出ないというのも不自然な印象を受けました。もう一つは、インスリン強化療法では必ず見られるはずの体重増加もほとんど起きていない。これもまた臨床の現場から考えると不自然に感じます。
研究自体がきちんとしていない、と言いたいわけではありません。ただ、研究に参加したのは熊本大学と二つの関連病院だけで、なにしろ対象が110人という限られた人数であり、追跡期間も短い。例えば、医者の言うことをよく聞いてくれる人といったような、条件のそろった患者さんが集まってしまったなどの可能性があります。あるいは、研究としては少数の医師が、短期間に少数の患者をこまめに診て、インスリン量を変えたり、食事・運動のアドバイスをしたりすれば、血糖値コントロールも体重管理も容易です。実際の臨床からはかけ離れた実験であったのではないかと思えます。
もっと大勢の患者さんを対象に、たくさんの医療機関の協力を得て、医師の思い込みや研究者の思惑が排除される条件で、検証されるべきではないかと考えられるのです。
厳格な血糖値コントロールこそが必要という日本の糖尿病治療の根拠は「クマモト・スタディ」にあるわけですが、今必要とされているのは、国際的な血糖値の統一基準なのです。

緩やかな血糖値コントロールでいい理由

さて、血糖値コントロールが緩やかであるほうが死亡率が下がる、というアコード試験の研究報告は、最終的に、2008年6月12日号の『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に発表されました。この雑誌に掲載されるということは、研究としての質が優れていることの証明でもあります。
この、世界中で話題になったアコード試験について、日本の専門家で言及している人は少ないのですが、2008年6月21日の第50回老年医学会で、東京医科歯科大学の下門顕太郎教授が取り上げられました。「別の研究では死亡率が厳格コントロール群で上昇するわけではない、という報告もあり、厳格にコントロールすれば、必ずしも死亡率が上がるわけではないようだ」というコメントをされています。
厳しいコントロールをして死亡率が上がるという結果と、死亡率が変わらないという結果の両方の研究があるならば、厳しいコントロールをしても、こと死亡率に限定すると、よいことはないわけです。ですから厳格にコントロールせず、緩やかなコントロールがいいというのが素直な考え方だろうと思います。
下門教授の指摘された別の研究とは、「アドバンス試験」と呼ばれるオーストラリアの研究です。世界20カ国が参加した1万1000人以上を対象とした研究でしたが、その中に、厳しく血糖値コントロールをすると、腎機能障害が22%程度減少したという結果が出ています。このアドバンス試験と、先のアコード試験の「厳しく血糖値コントロールをすると死亡率が22%上昇した」という結果、この両者を秤にかけて、どちらの治療を選ぶのか、というわけです。
折しも、2008年6月、米国糖尿病学会が開催され、アコード試験とアドバンス試験の、両者の研究が発表されました。会場の空気は、どちらかといえば、緩やかに血糖値コントロールする方向で話はまとまっていたと、ジヤーナリストは伝えています。
またさらに別の、「VADT(ブイエーディーティー)」と呼ばれる研究の結果も少しだけご紹介したいと思います。これはアメリカで行われた試験で、1800人近くの糖尿病患者さんを対象にし、治療と6年間の追跡を行ったものです。2009年に発表になったその結果は、厳しい血糖値コントロールをした患者さんと緩やかな血糖値コントロールをした患者さんでは、心筋梗塞などの冠動脈疾患の発症には違いがないことが確かめられました。
これら三つの異なる研究での結果の共通した点として、厳格な血糖値コントロールを求めてみたものの、実は、大血管障害といわれる病態については、何もいい結果を残さなかったということが挙げられます。
この三つの研究報告からは、血圧や悪玉コレステロール(LDLコレステロール)値が高い糖尿病の患者さんや、喫煙をし、肥満である糖尿病の患者さんのような心筋梗塞などを含む心血管疾患のリスクが高い人は、ヘモグロビン故を7・0?7・5%くらいの緩やかなコントロールにするのが理想的である、という考え方が妥当だと結論付けられるでしょう。
ところが日本では、ヘモグロビンAlcのコントロールとしては、6・5%未満を求めており、また正常値を5・8%としていますから、糖尿病患者さんたちは、ヘモグロビンAlcが7%を超えるとなると、これはもうガックリしますし、うつうつとしてしまいます。7?7・5%くらいでもいいんですよ、ということであれば、かなり気が楽になって、余裕をもって治療を続けることができるようになります。実際、日本人の糖尿病血糖値コントロールの平均値は、現在7・0?7・5%のあたりになってきていますから(Diabetes?Research and Clinical Practice 2006 ; 73 : 1 98‐204)かなり多くの方が、いいコントロールになってきたといえます。
この章で紹介してきたような、世界で認められた研究で「血糖値コントロールが緩やかなほうが、かえって死亡率が下がった」という結果が出たという、この最新の正しい情報は、いち早く、患者さんにお知らせすべきです。
「それなら、治療をしてみようか」「これならがんばれるんじやないか」そう、患者さんに思っていただける、一つのきっかけになるのではないでしょうか。すでに治療を始めている患者さんにとってもヽ治療への理解が深まり、もっとがんばるモチベーションになるのではないでしょうか。そういう意味でも、メリットは計り知れないと思います。医者の側にとっては、必ずしも、いい情報ではないかもしれません。緩やかな血糖値コントロールとは、安易にインスリンを導入しないやり方ですから、結局は収入増加に結び付きません。しかし患者からすれば、それだけ費用のかからない、痛みのない、面倒の少ない治療です。患者さんには、自らにとって厳しい情報と同じように、「朗報」もまた受け取る権利があります。医者はそれを伝える必要があると、私は考えています。

ヘビースモーカーは糖尿病になりやすい

糖尿病を招き、悪くするのは食生活の乱れと運動不足、そしてそれによる肥満といわれます。もちろんそうですが、実は見逃せないのは喫煙とストレスです。この二つの要因は、日本ではまだまだ軽く見られがちですが、糖尿病をはじめとする生活習慣病から体を守るにはこの二つについて、真剣に考える必要があります。
喫煙は糖尿病の発症率を上げる、という研究報告があります。スイス・ローザンヌ大学のヴィリ博士らが行ったもので、1992?2006年に発表された喫煙と糖尿病やほかの糖代謝疾患との関係を調べた25の研究を分析したもので、この結論は2007年に発表されました。
合計120万人ものデータベースを詳しく調べたこの研究からわかったことは、喫煙者は喫煙しない人に比べて、1・44倍も糖尿病になりやすいということでした。それも、一日20本未満の人と20本以上を吸う人とでは、20本以上の人(ヘビースモーカー)のほうがより糖尿病になりやすく、非喫煙者と比べると1・61倍も発症リスクは高まります。以前は吸っていたけれどやめた人はどうかというと、もともと吸わない人よりは多いけれども、吸い続けている人よりはなりにくいという結果です。

糖尿病と喫煙の関係

糖尿病と喫煙の関係

やはり今すぐ、タバコはやめるべきでしょう。
ところが、2006年の調査では、日本人の喫煙率は23・8%(「平成19年国民健康・栄養調査」厚生労働省)で、男性は約40%、女性では10%とされています。徐々に減少してきているとはいえ、まだまだ高いのか実態です。
喫煙が悪いということは糖尿病に限らず、あらゆる病気で自明の理ですが、禁煙したいと思ってもなかなかできないのが人間の常です。それでも、公共の場所で喫煙ができなくなってきていることもあって、外来で、「だんだんタバコを吸う環境が厳しくなってきたから、ここらへんでタバコをやめたい」という相談を受けることが多くなっています。
では現在、「これなら必ずタバコをやめられる」という有効な手段はあるのでしょうか。患者さんがよく言うのは、タバコの値段についてです。「一箱1000円になるならやめます」という人が大勢います。タバコの値上げは禁煙を促すアプローチとしてかなり有効なようです。タバコ増税が実現すれば、功を奏すかもしれません。

効果のある禁煙の方法とは
最近の禁煙の取り組みでは目を見張るものがあります。その一つは奈良女子大学の高橋裕子教授がすすめるインターネット禁煙マラソンです。m一年の成果で1000人以上の参加があり、1年後の禁煙率で見ると年によっては75%の成功率があるといいます。その秘訣は、なんといっても手厚い温かみのあるアドバイスのようです。禁煙を始めて4週間は、24時間態勢で、5人の禁煙経験者がインターネット上でサポートするということです。
どうしても吸いたくなったとき、いつでも相談できる相手がいるのは、禁煙を続けるための助けになります。例えば酒席でも、両脇をタバコを吸わない人で固めるといったアドバイスも重要です。夜中に一人で淋しくなったとき、つい一本吸いたくなる、その一歩手前で、話を聞いてくれる人がいれば助けになります。あるいはまた、タバコを買い置きしないでおくということも大切です。
効果があると思われる禁煙補助薬も登場しています。メディアで大きく報じられたこともあって、問い合わせをよく受けますが、これは2008年5月に発売されたバレニクリン酒石酸塩(商品名「チャンピックス」錠)です。この薬は、禁煙を始める日を決め、その1週間前から服用します。1週間はタバコを吸いながら薬を飲むわけですが、実際に使った患者さんは、「だんだんタバコがおいしくなくなって、自然にタバコの数が減っていった」と言います。そして禁煙すると決めた日、すなわちチャンピックスを飲み出して8日目にタバコをやめますが、かなり有効に作用するようです。
この薬は、2007年に薬のノーベル賞といわれる米国ガリアン賞をとったことでも知られますが、今までとはまったく異なる禁煙効果があることは間違いないと思います。
これまでの禁煙補助薬はいわゆる「ニコチンガム」や「ニコチンパッチ」で、どちらもタバコの成分であるニコチンを含んでいます。これらの薬は、少量のニコチンを口の中の粘膜や皮膚から取り入れて、タバコを吸うのをやめようというものでした。
それに対して、この薬にはタバコの成分であるニコチンに似た作用が少し含まれているところがミソです。そのためタバコをやめてもこの薬を飲めば、それほど苦しくなりません。しかもこの薬を飲んでいるときにタバコを吸っても、タバコで得られるはずの満足感が得られないのです。
飲み薬を服用しながらタバコを吸っていて自然にタバコの本数が減少していく、という説明で、禁煙を始めることに前向きになる患者さんもいます。毎日40本くらい吸っていた人でも完全にやめられたという例もありますから、この薬について医者に相談してみるのも、禁煙へ向けた一つの方法ではないかと思います。

喫煙大国がタバコをやめたわけ

タバコは生活習慣病の原因の一つですし、動脈硬化を進ませます。2006年にイギリスの医学誌、「ランセット」誌上で発表された大規模な試験でも、タバコが心筋梗塞に及ぼす悪影響については再確認されています。この研究は、52カ国、2万7089人を対象にした大規模なものですが、喫煙者が心筋梗塞になる確率は、非喫煙者に比べると、2・95倍であることが証明されました。一方で、受動喫煙者であっても、1週間に21時間以上受動喫煙をしていると、心筋梗塞の確率が1・62倍になることがわかりました(Lancet?2006 ; 368 : 647‐658)。
あるいはまた、タバコは歩くことで得られる認知機能低下予防の効果を減らすということが、アメリカの研究報告に記されています。しかもますます悪いことに、高齢社会になるにつれ、タバコによる害で肺がんが増えてきています。
禁煙の機運が日本国内で徐々に高まりを見せている今、なんとか、マラソン方式や飲み薬による方法を組み合わせ、禁煙を実現して、問題を解決していきたいものです。
そんなふうに禁煙について思いをめぐらしていた折、スコットランドで、町全体が禁煙活動に取り組んだ結果が報告されました(NEJM 2008 ; 339 : 482‐491)。これを見てやはり医師たるもの、気持ちを強く持って、地域医療としても、禁煙を促進することが大切だと強く感じました。
スコットランドは、イギリスの北方に位置する地方ですが、歴史的背景から行政的には独立しています。そのスコットランドで、2006年3月から、すべての公共の場での禁煙が法的に義務付けられました。
その理由として、スコットランド政府が出しているパンフレットには、タバコの害が詳細に記されています(BMJ 1995 ; 311 : 471‐477)。
①スコットランドでは、一年にタバコで1万3000人の人が亡くなっていること。
②肺がんが、ほかのどのがんよりも人を殺すこと。
③90%の肺がんがタバコによるものであること。
④スコットランドでは、喫煙者による副流煙の影響で、これまで一度もタバコを吸ったことがない人が年間1000人も亡くなっていること。
⑤タバコ禁止法令により、肺がんと冠動脈疾患による死亡を年間219人防げること。
⑥同じく、脳卒中と呼吸器疾患での死亡を、年間187人防げること。
⑦30分間タバコの煙にあたるだけで、健康な成人は冠動脈の血流が減少すること。
⑧長期にタバコの煙にさらされると、肺がんの率は24%増加し、冠動脈疾患は25%増加すること。
これらの理由をもって法律を制定し、遵守しなかった場合には高額の罰金を科すというものです。禁煙が必要な場所に禁煙標識を立てなかった場合は、罰金として約4万円(200ポンド)支払うことになります。禁煙場所でタバコを吸った場合は、約1万円(50ポンド)支払うことになります。
イギリスはもともと喫煙大国で、大半の人がタバコを吸っていた歴史があり、その結果として肺がん大国でもあったわけで、その汚名を返上したいという意気込みが、このパンフレットの説明からも読み取れます。
同じイギリスですが、ロンドンを含むイングランドでは、当時はこうした法律は制定されていませんでした。しかし、2007年7月になって、イングランドでも同様の法律が制定されています。つまり今ではイギリスは、スコットランド、イングランドのどこに行っても、タバコがつきものとされていたパブでさえも、タバコは吸えないのです。日本では、酒を飲んで帰ってくると、服がタバコのにおいで臭いということはよくあります。これを当たり前に受け入れているところから意識を変える必要があるのではないでしょうか。

地域ぐるみの禁煙で、心臓病が減った

スコットランドの研究というのは、九つの病院について、心臓病で運び込まれた患者さんの数が、禁煙法制定前10カ月と、制定後の10カ月で違いがあるのか、また、当時は法律のないイングランドとの比較を行い、違いがあるのかを調査したものです。
対象の九つの病院は、スコットランドの全人口510万人のうち64%の心臓病患者をカバーしています。ここでいう心臓病とは、正確な言い方をすれば、急性冠症候群と呼ばれているもので、急性心筋梗塞、不安定狭心症、心臓突然死を含んだものです。300万人ほどを対象とした大掛かりな研究であり、したがって信憑性の高いものであることがわかります。これによると、法律制定前には3235人の心臓病による人院がありましたが、制定後には、2684人に減少していました。これは17%もの減少です。イングランドが同じ期間で4%の減少であること、通常のスコットランドの減少率も3%であることを勘案すれば、地域ぐるみでの禁煙によって、4倍から5倍にも達する大きな減少があったと受け止めることができます。
これまで一度もタバコを吸ったことがない人たちへの、タバコの影響も改めて明らかになりました。禁煙法制定後、心臓病で入院する非喫煙者は21%も減少しました。また、タバコの煙にさらされると、それに比例して血液中のニコチンが増えますが、法律制定後には非喫煙者の血液中のニコチン濃度が低下しました。つまり、タバコを吸わない人も、副流煙でタバコの害にさらされていて、心臓病に影響することがはっきりしたのです。ですから禁煙法の制定は、とりわけ非喫煙者に福音をもたらす、有効な手段であることが証明されました。
公共の場所でタバコを吸えなくするという行政手段をとることは、たいへんな努力が必要なことは間違いありませんが、これにより非喫煙者がタバコから守られ、結果としては、心臓病にならなくてすむとすれば、すばらしいことです。禁煙の努力を町ぐるみでしていく重要性を、思い知らされた思いです。
しかしながら、これは開業医のレベルでできることではありません。為政者との協議が必要だろうと思うのですが、スコットランドの研究のようにかなり信頼性の高い結果が出された場合、医者の側から為政者に働きかけることも容易になってくると思います。
実際、世界保健機関が制定した「たばこ規制枠組み条約」の8条には、「室内の労働環境、公共の輸送、室内の公共の場所、適切であれば、他の公共の場所での、タバコの暴露から守る法律、政策、行政を制定すること」とあります。
スコットランドの公共の場所でのタバコを禁止する禁煙法はこの条約に基づいて制定され、良好な結果を収めたわけで、ぜひとも、日本政府に世界保健機関の精神を遵守してもらいたいものです。ことに非喫煙者が心臓病をつくられる、肺がんにさせられるとすれば、非喫煙者の健康を守る義務が、行政機関にはあると考えるのは当然のように思われます。

ロンドンの喫煙事情と日本

私の友人、スペイン人のピラーは、ロンドン在住で保育園の先生をしています。日本好きで、3ヵ月の夏休みには日本全国を回るバックパッカーです。2008年に我が家に2週間滞在した折、ロンドンのタバコ事情について聞いてみました。
ピラーはロンドンの大学で保育士の資格を取り先生になったので、2008年当時、すでにロンドンには5年ほど住んでいました。つまり、公共の場所でのタバコ規制の法律が制定される前と後のロンドンを知っているということになります。
職場の保育園には20人の先生がいて、そのうちタバコを吸うのは1人、ピラー自身は喫煙しません。
保育園は小学校も併設されているものですが、その敷地内では一切タバコが吸えないということです。2005年の文部科学省の調査では、日本の保育園や学校の半数くらいは敷地内全面禁煙となっているようですが、分煙や建物内禁煙の域を出ないところも多いようです。ロンドンでは、空港でも一切タバコが吸えません。つまり、敷地内全面禁煙です。
日本では建物内禁煙であっても喫煙スペースが設けてありますが、そうした施設もないので、愛煙家はたいへんなようです。バスの停留所でも喫煙は禁止されているそうです。それではどこでタバコを吸っていいのかと聞くと、ショッピングセンターであれば、その敷地の外や、歩きながら外でということらしい。ロンドンの街中では、すでにタバコを吸っている姿をだれかに見られるのは、社会的に悪いものとして映るようになってきているといいます。だからロンドンの愛煙家は、隠れてこっそり、どこか外で吸っているのでしょう。
ピラーから見ると、ロンドンの人たちは、性格によるところが多いのか、公共の場所での禁煙禁止を素直に受け入れ、それを遵守しているそうです。また、ロンドンのタバコの値段はとても高く、20本で約1000円(5ポンド)くらい。それでも、ロンドンの男性の喫煙率はまだ20%ほどもあるそうです。もちろん日本の男性喫煙率、40%に比べればとても低い数値ではありますが。
いずれにしても、2007年、公共の場でタバコを吸うことを禁止する法律が制定され、その結果、人目につくところではタバコが吸えなくなったことは明白で、受動喫煙は劇的に低下していることでしょう。
ピラーは、日本のあちこちを旅行して、レストランなどでタバコを吸っている人がいるのでたいへんショックを受けたようです。というのも、日本という国はスペインの人から見ると先進国であるので、当然タバコについてもロンドン並みの対応があるものだと思っていた、それが違うというので驚いたというわけです。
スペインでも、就職の面接では喫煙するか否かを聞かれ、喫煙する人は就職が不利になるといいます。なぜならば、喫煙をするための15分から20分ほど時間のロスが、仕事中に生まれるからということです。

「タバコは医薬品」と考えるメリット

公共の場でタバコが吸えないのは、イギリスだけではありません。米国、フランス、イタリア、アイルランド、ニュージーランドでも法的な縛りが出てきています。日本がそれを追うことに問題はないはずです。また、紹介したスコットランドの研究は、科学的にも信頼に足る研究で、法的に公共の場での禁煙を義務付ける重要性をはっきり示してくれました。また、それ以前にも八つの研究で同様の方向性を示すデータを提示していることから考えても、法的な整備の重要性は、もはや疑う余地がないところまで来ているように思います。
まずは、喫煙しない人を、タバコの煙の害から守るという発想で、地域社会のコンセンサスが得られるといいことだと思います。タバコに関する環境への取り組みは、さらに先進国では進んでいます。ハーバード大学のプラント博士は、「米国では早ければ2009年には、タバコそのものが、食品医薬品局の管理下に置かれる」とする記事を、2008年7月のアメリカの医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』(NEJM 2008 ; 359 : 445‐448)に寄稿しています。つまり、タバコを薬として政府が管理する可能性が高まったということです。
薬となると、タバコには発がん性のあるタールがどのくらい含まれているのか、依存性をもたらすニコチンの濃度はどれくらいなのか、そのほかの成分は何がどのくらい含まれているのかを明確に記さなくてはならなくなります。タバコの宣伝に、「少ないタール」とか、「軽い」とか、「とっても軽い」という文句が並びますが、このような宣伝はできなくなるだろうと、記事は伝えています。
なにより重要なことは、依存性がない程度にニコチンを少量にしたタバコが将来的には発売されるだろうということです。食品医薬品局としては、依存性があるとわかっている薬品であるタバコを、そのままで販売することはできないでしょう。またタールの量にしても同じことがいえるでしょうし、そのほかの成分で危険性のあるものがあれば、含有させることができなくなるわけです。ですから、タバコが、薬品として管理されるメリットは計り知れないように感じます。米国のこの取り組みがぜひとも成功して、世界中にいい影響を与えてくれることを願います。少なくともアメリカでこの法律が成立することが、日本でのタバコ論議を盛り上げていくいい契機になるだろうと考えています。

ストレスと糖尿病
タバコと糖尿病の関係について述べてきましたが、ここからストレスと糖尿病の関係について考えていきます。
ストレスはさまざまな病気にかかわります。糖尿病、気管支ぜんそく、不整脈、片頭痛、眼精疲労、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、過敏性腸症候群などなど、ストレスが原因になったり、ストレスによって悪化したりすると言われている病気はたくさんあります。ストレスのほうもいろいろで、災害や事故などの大きな問題がストレスになることもあるし、日常のちょっとしたできごとや圧迫感を感じることなどもストレスになります。
ストレスが多いと糖尿病になりやすいということは、大規模な日本の調査で判明しました。
この調査は、40?69歳の男女約5万6000人の方々を10年間追跡したもので、そ
れによると、日常のストレスが「少ない」グループと比べて、「普通」や「多い」グループは糖尿病発症のリスクが高くなる傾向かあることがわかりました。

ストレスと糖尿病発症の関係

ストレスと糖尿病発症の関係

ストレスが「多い」グループと「少ない」グループとを比較すると、男性では統計学的に明らかに「多い」グループの糖尿病の発症が多く、女性でも統計学的には明らかとはいえないものの、ストレスが多いほどリスクか高い傾向があったのです。
この調査では、せっかち、怒りっぽい、競争心が強い、債権的などの行動パターンを取る「タイプA行動パターン」の人と、その反対の行動パターンの「タイプB」の人とで、糖尿病の発症が多いかどうかも見ています。すると、女性のタイプAの人は糖尿病の発症が多くなっていて、これは、タイプAの行動パターンの人が日常でストレスを多く感じるということにかかわるようです。ただし、なぜストレスが糖尿病になりやすくさせるのかという問題については、まだはっきりとは解明されていません。
最新の説は、ストレスによって副腎皮質からコルチゾール、膵臓からインスリンといったホルモンの分泌が増大することが原因になるようだというものです(Hormone Res?2009;8:7‐22)。コルチゾールやインスリンがたくさん分泌されると、その結果、細胞からのさまざまな生理活性物質の分泌も促され、それによって細胞の老化が進んでしまう。
細胞が老化すると、今度はインスリン分泌が低下し、インスリンの作用も低下するのではないかというのです。
とにかく、ストレスをため込まないこと、解消する方法を持つことが糖尿病予防のためにも必要です。

子どものころからの食事に注意

糖尿病の予防や治療の基本は食事に気をつけ、運動を継続的にすることです。その目的は内臓脂肪を減らすことにほかなりません。内臓脂肪が減れば、弱まったインスリンの作用を強めることができるからです。
大切なのは子どものころからの食事と運動だと思います。私は小学校と中学校の学校医をしていますが、日ごろから肥満の子どもが多いことには驚かされます。体育が好きとか、部活を熱心にしているという子どもたちであっても、太っている子が多いのは、明らかに食べすぎによるものでしょう。9歳から17歳の男子では、どの年齢でも10%を超える子どもが肥満傾向だというのです(「平成20年度学校保健統計」文部科学省)。
子どものころからの太りすぎは、20代、30代からのメタボリックシンドロームを招きます。思春期の体重やその後の体重増加と大人になってからの糖尿病のなりやすさについては、はっきりした関係が示されています。ですから小さいころから、規則正しい食事、適切な運動を心がけていただきたいものですし、偏食、食べすぎ、不規則な食事、運動不足は、気づいたら直していく必要があると思います。
子どもの太りすぎの原因は、1980年代から脂肪および動物性タンパク質をたくさん摂る食事になってきたことによると考えられます。トータルの摂取カロリーは以前と比べてそれほど変わってはいないのですが、その内容があまりにも変わってきているのが問題なのです。
カナダ・オタワ大学のドボイ博士は、テレビを見るときのスナック菓子と食事時のテレビを見る習慣について、警鐘を鳴らす報告をしています(Public Health Nutrition 2008 ;1 1 : 1 267‐ 1 279)。
平均4・5歳の子ども約1500人について調査をしたところ、4人に1人が一日に2回以上、テレビを見ながら何かを食べており、毎日テレビを見ながらスナック菓子を食べる習慣がある子は、明らかに体重が重いということが判明しました。またこの子どもたちは、炭水化物と脂肪の摂取量が多く、タンパク質、野菜、果物の摂取が少なかったのです。
この報告によると、テレビを見ていると食事に集中できないため、食べるのをやめるタイミングがわからなくなり、その結果食べすぎてしまうということです。カウチポテトの世界が大人から子どもに引き継がれ、かなり低年齢から太りすぎが助長されてきていることは明白であるようです。
ファストフードの登場も大きな影響を与えています。気軽に大量のハンバーガーを食べる、コーラをがぶ飲みする。簡単に食事を済ませたいときには、値段は手ごろですし、オーダー後すばやく食事にありつけ、ある意味、おいしい食事です。
米国・ミネソタ大学のペレイラ博士たちは、ファストフードを利用する食生活習慣が、インスリンが効かなくなることと体重が増加することの両方に悪影響を及ぼすと、報告しています(Lancet 2005 ; 365 : 36‐42)。博士たちは3031人の若者に、「マクドナルド、バーガーキング、ウェンディーズ、アービーズ、ピザハット、ケンタッキーフライドチキンなどに、どれくらいの割合で、夕食、朝食、昼食を食べに行きますか?」とまず尋ね、なんと、それから15年後にも、同様の質問をして、体重とインスリンの効きについての調査をしたのでした。
結論としては、ファストフードレストランを利用する頻度が、週に1回以下の人に比べ、週に2回以上行く人は、4・5kgの体重増加があり、2倍のインスリンの効きの悪さが助長されたというのです。ファストフードを多く利用すると糖尿病につながるということは、学問的にもしっかり証明された事実として、重く受け止めることができます。

脂肪のたまりすぎが、摂食行動にエラーを起こす

豊かな食が得られる現代、人間は、病気になりやすくなるという代償を払わなければならなくなりました。もしも人間の体がその環境にうまく順応して、太りもしなければ糖尿病にもならないなら、問題はなかったのでしょう。近代以前、ほとんどの人は十分にゆっくりと食事を食べることはできませんでした。だからこそ摂り入れた栄養を限りなくすべて体に吸収し、できるだけエネルギーとして蓄えるシステムを、人間の遺伝子は長い時間をかけて体の中につくっていったのです。幾度も幾度も飢餓を経験してきた人間は、飢餓に耐えられるだけの体のシステムづくりをしてきたわけです。
研究者は、こうしたシステムづくりの基盤になる遺伝子を、「倹約」遺伝子と名付けています。精妙な命名だと思いませんか。進化医学の観点から生まれてきた考えですが、現在、ほんとうにこのような遺伝子が実在するのか否か、決定的な証拠はないものの、反論もないため、便利な用語として科学の世界では広くこの名称が使われています。
2008年6月、イギリスのアデンブルック病院の研究グループは、脂肪の量の多さ、体重、肥満に影響を与える新しい遺伝子を報告しました(Nat Genet 2008 ; 40 :768‐775)。これはメラノコルチンー4受容体と呼ばれる遺伝子で、1万6876人のヨーロッパ系の先祖を持つ人々の遺伝子を検討した結果、発見されたものでした。
またイギリスのインペリアルカレッジのグループは、1万4639人のインド系アジア人とヨーロッパ系の人々の遺伝子を精査して、同じ遺伝子(メラノコルチンー4受容体)が、
ウエストを2cm分、大きくすることに寄与していることを報告しています(NatureGenetics 2008 ; 40 : 7 1 6‐7 1 8, 768‐775)。
これら一連の研究から、脂肪から分泌されるレプチンと呼ばれる生理活性物質の支配のもとで作用している、さまざまな分子が、肥満に関係している可能性が示されてきています(NEJM 2008 ; 359 : 891.893)。
肥満と関連している遺伝子群が、倹約遺伝子の本体を担う可能性が高いものと考えられますし、これらの遺伝子群が摂食行動を管理する因子なのでしょう。個別の遺伝子に関しては、まだまだ研究が待たれるところですが、現在はっきりわかっているのは、脂肪からレプチンという生理活性物質が分泌されると、主に脳の視床下部に働き、強力な摂食抑制をもたらす、その結果、エネルギー消費尤進作用を示し、肥満や体重増加の制御に関与するということです。そうであるならば、「脂肪から出るレプチンが、食欲を抑えて、エネルギーをどんどん使わせ太らないようにさせるのなら、脂肪があるのはいいことじゃないか?」と思われるかもしれません。そのとおりです。レプチンは脂肪から分泌されます。第一章でご紹介したように脂肪からは、健康にいい働きをする物質も、悪い働きをする物質も分泌されています。
適度な脂肪であれば、さまざまな物質の分泌のバランスがとれ、全体としては健康が保たれるわけですが、そのバランスが崩れることが問題なのです。内臓脂肪がたくさんついてしまうと、悪玉の物質ばかりが増えて、善玉が減ってしまいます。もちろん、レプチンの分泌も減ってしまいます。レプチンの分泌が減ると、摂食行動を管理するシステムにエラーが生じ、ますます太ってしまうことになるのです。

カロリー制限なしの低炭水化物食で減量

飽食の社会に問題があり、さらには遺伝子の働きがかかわっているとわかっても、今現在、太りすぎてしまっている人はどうしたらいいのでしょうか。
大人が体重を減らそうというとき、炭水化物の摂取を増やしたほうがいいのか、減らしたほうがいいのか、ということが常々問題になります。炭水化物を極端に少なくして、カロリーはいくら摂っても大丈夫、そのほうが体重は減るということをすすめている医者もいますし、そういったことを紹介している本が本屋さんにたくさん並んでいます。ただこれまでは、食事の内容や量が体重に影響することはわかっていても、人の場合、実際どのような食事が体重減少に有効なのか、ということは科学的に検証することが難しいため、なかなかはっきりした答えが出ていなかったのも事実です。
ところが、この見解に一定の答えを出す論文が発表されました。イスラエルのネゲブ・ベングリオン大学とアメリカのハーバード大学の研究者らによる食事と体重の関係についての共同研究が行われ、その結果が医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』2008年7月17日号に発表されたのです。論文の結論は、低脂肪食でいこうが、低炭水化物食でいこうが、体重に対する効果は限定的であるという悲観的なものでした。
この研究では参加した322人が、30%の脂肪に制限された食事か、地中海食か、低炭水化物の食事かの三つのグループに分かれて生活しました。
30%の脂肪に制限された食事のグループの摂取カロリーは、女性は1500Kcal、男性は1800Kcalに制限されていました。地中海食のグループは、摂取カロリーは同じく、女性1500Kcal、男性1800Kcalで、脂肪の割合を35%以下とし、オリーブオイルを主に使用するというもの。低炭水化物食のグループは、摂取カロリーに制限はなく、炭水化物を1日20gから開始し、最終的には120gとするというものです。
さてこの研究は、イスラエルの人里離れた核実験施設で行われました。参加者はここで働く人々です。この施設の中には医療部門もあります。食事は昼食が一番大きな食事で、施設内のカフェテリアでするというものでした。配偶者への食事カウンセリングも欠かさない徹底振りです。このような環境で3種類の食事がそれぞれ割り当てられ、食べてみてどうなるのかを検証してみたところ、最初の5ヵ月で低脂肪食と地中海食の人は5kg、低炭水化物食を割り当てられた人は7kg、体重が減少しました。2年経ってみると、最終的に抵脂肪食は3kg、地中海食、低炭水化物食はそれぞれ5kgの体重減少でした。いずれの食事でも、体重に対する効果は残念ながらわずかでしたが、善玉コレステロールを増やすといういい効果がありました。結果としては、どの食事でもいいからそれを守ると少しの体重減少を得られ、それ以上に脂質代謝にいい影響をもたらすというものでした。ただしインスリン抵抗性を検討したところでは、地中海食に分があったようですが、全体の印象としては、低炭水化物食がかなり健闘したという感じを受けます。
低炭水化物食とは、要するにパンやパスタ、米、甘いもの、果物などの量を制限し、サーモンやチキン、豆腐などを積極的に摂るというものです。総カロリーを制限しない食事であったのに、ほかのカロリー制限をした食事と同じくらいまで体重減少を誘発できたわけですから、多くの人から支持を受ける可能性を大いに感じます。

太りぎみ、体重増加のほうが、長寿だった

私は食事の改善は、それほど無理なく、継続してできることが一番大切だと思っています。太りすぎはよくないけれども、無理やりやせることはかえって健康を損なうことにもなりかねないからです。
1997年、老化に関する論文を一本書いただけでケンブリッジ大学から学位を得た、不老不死研究のオーブリー・デグレイ博士は、カロリー制限は人間の場合、老化を遅らせる方法としては有望でないと述べています(オーブリー・デグレイ、マイケル・レイ共著、高橋則明訳『老化を止める7つの科学』日本放送出版協会)。緑虫から実験動物レベルの下等動物では、栄養制限は寿命を延ばすのにかなり有効な手段ですが、人間においては、栄養摂取から老化に至る経路が複雑すぎるあまり、単純に栄養摂取を制限しただけでは、老化はほとんど遅らせることができないという主張です。日本の研究でも、BMIがやや大きめ、つまりやや太めのほうが、寿命が長いということが証明されています。
厚生労働省研究班による大規模調査で、宮城県内の40歳以上の人、5万人を対象に12年間追跡調査をしたものです。これによると、40歳の時点での平均余命は、普通体重(BMIが18・5以上25未満)の人は、男性で39・94年、女性で47・97年です。それに対して、太りぎみ(同25以上30未満)は男性41・64年、女性48・05年と、男女ともに長生きだとわ
かりました。ただし、肥満(同30以上)の人は男女とも普通体重より短命で、やせ(同18・5未満)は男性34・54年、女性41・79年と、一番短命だとわかったのです。
つまり、やせた人は最も短命で、太りぎみの人より6?7歳も早く命を落としています。報告の中でも指摘されていますが、カロリーを減らして個体を小さくしていくと、感染症・のリスクが高くなるのではないかと考えられます。
また、別の、体重増加と死亡率との関連についての研究では、体重が増えるほうが死亡のリスクが減るという結果が出ています。こちらは40?69歳の人、9万人について、20歳のときの体重とそれからアンケート時点までの体重が5kg以上減少したか、54未満の変化(不変)か、5kg以上増加したかに分類して、約13年間追跡をしたという調査です。

20歳からの体重変化と死亡リスク(年齢階級別)

20歳からの体重変化と死亡リスク(年齢階級別)

 

結果として、女性では5kg以上減少した人は不変の人より1・33倍、死亡リスクが高くなり、男性では同じく1・44倍も死亡リスクが高くなっています。ところが5kg以上体重か増加した人たちは、不変の人たちと同じか、むしろ死亡リスクは少なくなっていました。つまり体重の減少こそが気をつけなければいけない問題だというわけです。
健康の秘訣は「よく食べること」健康の秘訣は何か、昔からさまざまなことが言われていますが、レオナルド・ダ・ヴィンチは「よく食べること」という言葉を残しています(ウイリアム・レイ編、夏目大訳『知をみがく言葉レオナルド・ダ・ヴィンチ』青志社)。1400年代に、ダビンチが67歳の生涯をこの健康法で得ることができたことは2000年代に生きる者として考えさせられます。
1400年代といえば、生活活動の必要から運動をしていました。日常生活は歩行が基本で、重い荷物を持つことも当たり前の時代ですから、十分に運動は足りていた、その時代に栄養を摂ることの重要性を訴えていた、ダビンチの科学者としての言葉をとても重く感じるのです。
東北労災病院の赤井裕輝医師は、近年の肥満の増加の原因として、摂取カロリーの増大ではなく、第一に運動不足を挙げています(「糖尿病診療マスター』2008年7月号医学書院)。赤井先生は食事で心がけることは、甘いものの摂取をほどほどにということを強調しています。
運動にむしろ重きを置いて、通勤に長めの歩きや走りを入れる、サイクリングを入れるなどの工夫をして、食べるほうについてはバランスに気をつけ、コンビニエンスストアの利用をしすぎないこと、ファストフードもこれに然り、ケーキも間隔を開けて食べることを守り、カロリー制限という考えをそれほど強く意識せず、ストレスを感じない程度に少なめにおいしくいただく、というのが肥満回避、長生きへの妙薬と私も考えます。だから、糖尿病の厳しい食事指導にも私は疑問を感じています。
日本の糖尿病の食事指導では、一日の摂取エネルギー、摂取栄養素をきちんと管理することが厳格に求められています。80Kcalを一単位として、食品群を六つに分類、詳しく計算して、調味料まで0・何単位とやって、毎日の食事をコントロールしなさいというわけです。これが患者さんにはたいへん負担です。ストレスになるし、食事がチェックされ、ダメだと言われることへの恐怖が、患者さんを医療から遠ざけてしまうことにもなりかねません。それよりも私はほどほどの食事療法と適正な運動をおすすめします。
米国糖尿病学会と欧州糖尿病学会の2008年の合意声明、「糖尿病治療アルゴリズム」においても、食事療法は初期においては意味があるけれども、数年経つと食事療法には必ず限界が来ると記されています。つまり、薬による治療と運動療法とに集約されてくるわけです。
運動をよくしてその効果が得られれば、極端な偏食や大食を改めるのは当然ですが、血糖値コントロールが安定しているなら、食事をむしろ楽しみの範囲として考えてもいいのではないかと思うのです。食品についての耳寄りなデータも、出てきています。
例えば、コーヒーは糖尿病のリスクを減らすというのです。これは厚労省研究班による5万6000人を10年間追跡した研究で確かめられました。

コーヒー摂取と糖尿病発症の関係

コーヒー摂取と糖尿病発症の関係

コーヒーを飲むほによって六つのグループに分け、その後の糖尿病の発症を比較したところ、コーヒーをよく飲む人たちは男女ともに糖尿病の発症が少なかったのです。おもしろいことにこの研究は、ストレスと糖尿病の関係を調べる研究と同時に行われました。コーヒーはストレス時に分泌されるコルチゾールというホルモンの活性化を妨げるなど、ストレスに対してよい効果があることから、同時に調べられたわけです。ところがストレスとの関係はよくわからず、コーヒーをよく飲むと糖尿病の発症を下げるという直接の結果だけが確認されたというのです。なぜ、コーヒーが糖尿病リスクを下げるのかの解明はこれからですが、こうした糖尿病にいいと確かめられた食品を楽しんで飲むというのも、食事を楽しくする方法ではないでしょうか。

運動を続けて食事制限なしで、血糖値が正常化した

外来の患者さんに、運動を習慣にすることで重症の糖尿病を克服した人がいます。
Aさんは公務員で、来院時45歳でした。食生活の乱れから、体重のコントロールも難しかったようで、肥満体型でした。重症だったので一度は入院し、食事と運動のほか、飲み薬で血糖値をコントロールすることにしました。その後、外来で管理していると、血糖値はますます低下して、ついには薬が不要な状態となったのです。それから数年が経ちますが、いまだ、血糖値は正常値を保っています。外来にも熱心に通ってこられ、月に1回、血糖値測定などの定期検査をしています。
一般論でいえば、入院中は食事と運動の指導が守られて治療ができても、自宅に戻るとなかなか指導法が守れず、体重が再び増加、血糖値コントロールが悪くなるという場合が多いのです。また、一年くらいは食事と運動療法を守ることはできても、それ以上となってくると、なかなか難しいようです。もともとの糖尿病が、入院を要するほどの重症であった患者さんが、投薬なしで、まったく正常な状態に、数年余にわたりコントロールできることは珍しいのです。秘訣は何か。
「何をしたらそんなに血糖値をよくコントロールできるのでしょうか」と私のほうからうかがいました。すると、「毎日1時間くらいかけて10kmほど走っています。ただ、お酒はたくさん飲みますし、食事はあまり気にしていません」と言われます。
男性の患者さんの場合、食事制限を強めるとストレスがたまって結局は長続きしないので、お酒も食事も好きなだけ飲んで食べて、運動でそれを取り返すのがいいという人が案外います。Aさんのようにそれが、薬を手放すまでにうまくいくケースは少ないとはいえ、人生もっと楽しみたいという明確な目標を持っている人は、運動にも力が入るようです。
食事・運動療法は始めることも、継続することもとてもきついものですから、それを行うことで、特別な目的をかなえる、というものでなくてはならないのではないかと思います。脳卒中や心筋梗塞になるのを避けるためというのでは、それが真の目的であっても遠いところにあるので、なかなか食事・運動療法に力が入りません。好きな趣味を続けるためにとか、経営している会社の業務にもっと専念したいといった、病気を克服するための具体的で積極的な目標が必要だと思うのです。

走る、歩く、自転車に乗る効果
走るという観点からすると、例えばランニングの大会に出る、自分の記録を伸ばすといったことは一つの喜びとなり、運動を継続する道筋をつけることができます。さらに、練習で走るにしても、仲間がいれば長続きするものです。実際に一緒に走らなくてもインターネット上で友人をつくり、情報を交換したりして、お互い切磋琢磨することもいいことでしょう。雨の日や、自分の体調がすぐれないとき、やはり練習をサボりたくなるのは万人同じですが、自分の仲間が今日もまた練習をした記録をネットに張り付けたりすると、やっぱり次の日には絶対走ってやろうと思うものです。近頃ではランニングのウエアも、さまざまあって、格好よく走るという楽しみもあります。
ジムに行くのは、お金も時間もかかってたいへんですが、外を走るなら、自由に時間も設定でき、自宅を起点にできる気軽さもあって、しかも景色を見て季節を感じる、町の思わぬ姿を知るなど、視覚的にも楽しいし、メリットが多いと思います。そのときに、自分の好きな音楽を聴いたりするのもおすすめです。リアルタイムで走行距離、時間、消費カロリーが把握できる装置をつければ、ランニングにも勢い力が入るというものでしょう。
研究の分野でも、通勤にウォーキングやサイクリングをすることが体によいことは明らかにされています。カナダのトロント大学のシェファード博士は、通勤にウォーキングする場合、片道1・9kmを22分で、行きと帰りの2回歩き、これを週に5回やれば、死亡率を下げる効果があるとしています(Sports Med 2008 ; 38 : 751‐758)。一方、サイクリ
ングの場合は、片道時速16kmで11分間走行し、週に5回で、同様の効果があるとしています。ただし、若い人の場合には、ウォーキングに関していえば、やや速度を上げるか、アップダウンのコースを選ぶかをする必要があります。
そもそも生活全体が便利になり、車社会になって、動かなくなったことから肥満や糖尿病が増えてきたともいわれます。人間は本来、歩くことが基本であるはずで、有史以来ずっと歩いてきた人間が、便利な乗りものができてから、かえって病気を増やしてしまったという皮肉な結果となっているわけです。
歩くだけではなく、生活全体を通しての身体活動の量が多いか少ないかは、死亡とも関連するということが、研究からわかっています。厚生労働省の研究班による、約8万3000人を対象に11年間追跡し、身体活動量と死亡との関連を調べた研究があります。この研究では仕事や余暇の運動などを含めた身体活動を詳しく調べ、運動強度指数と活動時間を掛け合わせたスコアに換算して、一人ひとりの身体活動量を出し、多いから少ないまでの4つのグループに分けて調査しています。結果は、男女とも身体活動量が最も多いグループほど、死亡リスクは低かったのです。特に男性では、身体活動が最も多いグループでは、がんや心疾患のリスクがはっきりと低くなっていて、女性もがんの死亡リスクが明らかに低くなり、心疾患や脳血管疾患でも死亡リスクは低下傾向にありました。

一日の身体活動量(METs)と死亡との関連

一日の身体活動量(METs)と死亡との関連

 

つまり、ふだんから体を動かして働いたり、運動したり、活発な人ほど病気で死亡する危険が減るというわけです。
身体活動が、かつてと比べて驚くほど少なくなっているのは、だれもが実感しているところです。その象徴が車社会ですし、家事でも、なんでも、体を動かさなくてもできるようになっています。しかも田舎はもちろんのこと、都会でも、今さら車がないというような不便な状態には戻れません。とはいえ、歩く距離を延ばさなければいけませんから、積極的にジョギングやウォーキング、サイクリングをしていかないと、さらに糖尿病は増えていくことになるでしょう。

運動は体にいいのか悪いのか、ほんとうの話

マラソンブームといわれます。東京マラソンにも多くの人が参加していて、マラソン人気はまだまだ続くでしょう。
しかし、ランニングは関節に悪いとか骨に悪影響があるなどの、体に不具合が出ると思っている人もいます。あるいは強い運動はがんになりやすいのではないか、という懸念を抱かれている人もいます。逆に、運動は健康によく、長寿のためにもとてもいいという考え方もあります。当然、健康によいという考え方が正しいという仮定のもとに、医者もランニングをすすめているわけですが、しかしながら科学的な実証がなければ、思い込みにすぎないことになります。
運動はいいと思いながら、結果としては、命を縮める結果となったり、身体的に不自由に過ごす期間が長くなったりしたのではたまりません。米国の有名なTVクイズショー「ジョパディー』の司会者アレックス・トレベックが、「運動をして体を壊したので、私は絶対に運動はしません」と高らかに宣言していたことが記憶に蘇ります。1997年のことです。確かに、運動のやり方によっては、膝を悪くしたり、全身疲労がたまったりして、マイナスと感じることがあるのも事実です。はたして運動は体にとっていいのか、悪いのか、ほんとうのところはどうなのでしょうか。
この命題に決定的な回答を与える研究成果が発表されています。
1980年、「病的状態の圧縮」説を出した米国スタンフオード大学のジェームス・フライズ名誉教授は、運動を続けることで、死亡前の身体の不自由な時間を短縮できるという仮説のもと、研究を開始しました。その当時は、激しい運動は高齢者の体を蝕むという考え方が支配的でした。カリフオルニアの284人のランナーと、156人のランナーではない人々について、21年間、1年ごとに、質問表を埋めてもらうアンケート形式で研究は進みました。研究開始時の参加者の年齢は50歳以上で、1週間にほぼ4時間走る人たちが集まりました。研究終了時には、参加者は70歳から80歳に達しており、1週間のランニング時間は76分でした。
結果はどうだったかというと、19年間の統計では、ランナーのうち、亡くなったのは、わずか15%で、ランナーではない人で亡くなったのは34%でした。フライズ教授によれば、
走るということは、平均で16年間、身体が不自由になる時間を先延ばしすることができるとしています。驚くのは、年を経るにつれ、ランナーとそうでない人の間で健康状態の隔
たりが開いていくことです。ランナーは健康状態がよく、そうでない人は健康状態が悪い、その差が広がっていくというわけです。
この研究成果から明らかなのは、ランニングという激しいスポーツを、50歳を過ぎてからしている人でも、体にはとてもいいということです。ですからまずは少しずつ、体に無理ない程度に生活スタイルにランニングを取り入れていきたいものだと思います(Arch?lntem Med. 2008 ; 1 68 : 1 638‐ 1 646)。

運動は老化を止める
フライズ博士の研究からは、運動が老化を食い止める効果を持つという可能性が考えられますが、そのことが一部ですが証明された研究成果もイギリスから出ています。ロンドンのキングスカレッジのリン・チャーカス博士は、運動をしないでいると、老化関連の疾患になりやすいだけでなく、老化過程そのものを進めてしまう可能性がある、といっています。
チャーカス博士は、2401人の白人の双子を対象に、運動レベル、喫煙、社会経済活動レベルを調査しました。参加者の血液を集めて、DNAを取り出し、テロメアの長さを調べたのです。テロメアとはDNAの端に位置する一定の塩基配列です。テロメアは、年齢が上がると短くなるので、老化の指標として見ることができます。
テロメアの長さの単位は1個が1ヌクレオチドとなりますが、?週間に16分しか運動していない、最も運動をしていない人は、1週間に199分の運動をしている、最も運動している人に比べると、200ヌクレオチド、テロメアが短くなっているというのです。これは、最も運動している人はそうでない人に比べて、10歳若いということに相当するといいます(Arch lntem Med 2008 ; 168 : 154‐158)。このように遺伝子の立場からも、運動が老化を食い止めるということがわかったのは、とても興味深いことです。
スタンフオード大学の研究にしろ、キングスカレッジの研究にしろ、運動によって10歳以上も若返るということがわかったのですから、運動をすることが健康長寿につながるのは、もはや科学的にも証明されたことであると言えるでしょう。運動により関節に問題が生じることがあったとしても、それを上手に克服し、運動を続けることが大切であるという結論になります。
高齢者のマラソンの記録から、高齢者の持久力の最大限界の値を求めた興味深い研究があります(田中宏暁「運動による老化制御」、大内尉義編『老年医学の基礎と臨床I』ワールドプラニング)。
この研究では持久力の指数を表すものとして、最大酸素摂取量を使用しています。つまり、高度に鍛えた高齢者の場合は、若者と同じレベルの持久力を持つというのです。
ランナーが老化しにくいことが、このことからも裏付けられていると思います。
また高齢者でも、適切なトレーニングで体力を高めることができることも証明されています。総合すれば、運動経験のない人でも、中年以降になって無理のない程度に運動を開始し、できるだけ高いレベルの運動にまで自分を高めていくのがいいし、それを継続することが重要だ、ということになります。
トレーニングで筋肉が鍛えられると、体はエネルギーを燃やしやすくなり、そうすると脂肪の容量は減少します。結果として、脂肪細胞から分泌されるレプチンの状態が正常化し、摂食行動の制御機構もきちんと動くようになり、肥満も防ぐことができる。つまり体のバランスがとれて、脂肪がむやみにため込まれない状態になる。倹約遺伝子の呪縛からも解き放たれるというわけです。

食事はさておき、とにかく運動をしよう

アメリカの研究では、歩く距離が延びれば延びるほど、認知機能の低下が遅くなるということがいわれています。2004年のハワイからの発表でしたが、もともと日本人だった移住者を対象にした研究で、一日あたり400mも歩かない人は、3・2km歩く人に比べると、認知症の出現が1・8倍にもなったといいます。人種的には、日本人を相手にした研究ですから、十分にわれわれ日本に住む者にも適用される結果だと考えられます(JAMA 2004 ; 292 : 1447‐1453)。糖尿病の予防・改善のために一生懸命歩いていたら、結果として、脳の働きも維持される、そうなればうれしいことです。
現実問題として、糖尿病患者さんが、食事制限をきちんと守り、運動もするというのはとても難しいことだと思います。東京大学医学部付属病院ですら、医師の指導をしっかり聞き入れてくれるのは、患者さんの25%だといいます(門脇孝著「あなたがメタボになる理由』PHP研究所)。
私も、一般の外来では、両方を聞き入れてもらうことはとても難しいと実感しています。
そこで、運動の効果を強調し、運動を推奨して、それが治療に直結することを話します。つまり食事のことはさておいて、運動を治療の中心にするのです。運動が病気を治す、老化を止める、これは患者さんの耳に届くようです。一人でも多くの方に、一日30分の運動に取り組んでもらえればなあと心より願いながら、外来で説得にあたっています。
そしてまた、運動をしっかりやっている人の場合には、薬を飲みたくないという患者さんが多いのも事実です。そういうとき、観察をしっかりと行い、検査はするけれども、患者さんの気持ちを汲んで、できるだけ投薬せずに見守る勇気も、医師の側には必要だと感じています。

糖尿病の薬の個人輸入はこちら

 - 糖尿病