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アンチエイジング最前線

      2016/11/29

アンチエイジング最前線

老化や寿命には、個体や細胞レベルでさまざまなメカニズムが関係しているが、現在、最も注目されているのが、細胞のDNAの末端にあるテロメアという部分である。 ヒトの細胞を培養すると、どのような好条件下であっても、約五〇〜六〇回で分裂を停止してしまう。これは、細胞分裂でDNAが複製されるたびに、テロメアが短くなっていくからだと考えられている。そのため、テロメアは「生命を刻む時計」といわれている。年をとるとテロメアが短くなることは、人間の体でも確認されている。 ところがヽテロメアを新たに継ぎ足すテロメラーゼという酵素があることがわかった・アメリカのジェロン社は、この酵素を使ってテロメアを継ぎ足し、培養細胞の延命に成功した。このことが一九九八年一月に報道され、同社の株取引が停止になる騒ぎが起きたのだった。 とはいえ、寿命はテロメアだけに支配されているわけではない。臨床レベルでテロメアの短縮を防ぐ方法が実現したとしても、はたして本当に二百歳まで生きられる時代がくるのかどうかはわからない。けれども、遺伝子レベルでの最先端の研究を背景に、より長生きができ、しかも、若さを維持しながら長生きできる道筋がかなり拓けてきた。 遺伝子レベルの治療を享受できるできない、あるいは、受ける受けないは別にして、年をとっても若さを保ち、長寿を可能にする方法が次第にわかってきたのである。

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老化のメカニズムはここまでわかった!

百二十歳に迫れるか、超えられるか

秦の始皇帝の時代から、不老長寿は人類の夢だった。当時はもっぱら、天然自然の草木などに不老長寿薬を求めた。人の寿命が有限であることはわかりきっているがヽいったい何歳まで生きられるのだろうか。 寿命とは、人間や動物が何歳まで生きるかということで、つまり、一人ひとりが生きた年数を表わしている。 社会的、または医学的な意味での寿命には、最大寿命(限界寿命ともいう)と平均寿命がある。最大寿命は人間あるいは動物の中でいちばん長生きした年数であり、平均寿命は人間あるいは動物の集団が平均してどのくらい生きられるかを表わす。

さまざまのデータから、ヒトの最大寿命は百二十歳くらいと考えられている。 このように、限りがある命であるが、遺伝子の研究が進むにつれ、命や寿命について細胞や遺伝子レベルで新事実が次々と解明されようとしている。 その象徴が、命を刻む時計といわれるテロメアと、それに関係する酵素のテロメラーゼの発見である。遺伝子DNAの端にあるテロメアという部分は、細胞が分裂するたびに短くなり、テロメアが短くなっていくということは、細胞が老化していることを表わしていると考えられている。 アメリカで、このテロメアを長くすることに実験で成功したとの報道がなされ、最大寿命は二百歳も夢ではない、との見解が発表されるや、長寿論争がいっきにブレイクした。
最大寿命は延ばすことができるのか・また、平均寿命を延ばすことができるのか。
さらには、たんに長生きするのではなく、若さを、たとえば五十歳くらいの若さを保ちながら八十歳、九十歳と生きられるのか。
そういった希望が、最先端の研究の中に見えようとしている。
もし、遺伝子レベルで不老長寿の薬が開発され、自分の意思で寿命が選択できる時代がくるとすればヽ人生そのものが変わってくるだろう。実現すればぜひ恩恵をこうむりたいという人もいれば、そういう薬に頼ってまで長生きはしたくない、自然にまかせて老いるほうがよいという人もいるだろう。
科学が進歩すると、人々の寿命や生命に対する考え方自体が変わってくるかもしれない。また、先端医療技術に関しては、倫理的な問題もはらんでいる。とはいえ、長寿への道筋が拓かれてきたことは確かである。

老化のメカニズム
人はなぜ、老化し、死に至るのだろうか。それが解明されるには、近代科学の発達まで待たなければならなかった。老化のメカニズムに関する学説が生まれてきたのは、せいぜい過去百数十年のことである・
老化のメカニズムにはいろいろな説があるがヽ大きく分けると次の二つがある・
(1)寿命は生まれたときからプログラムされている。
(2)個体の内部環境および外部環境でのアクシデントにより寿命が決まる・たとえば、活性酸素によって遺伝子DNAが傷つくことがこれにあたる。
これまで、老化についてはさまざまな仮説が立てられてきた。主なものに次のような説がある。

◆神経内分泌説
若いときはホルモンの分泌が盛んで、とくに脳下垂体ホルモンは種々の末梢ホル
モンの分泌にも影響を与える・しかし、年をとるにしたがってホルモンの分泌が低下し、個体は老いていく。
◆遺伝子説
私たちは生まれながらに特異的な遺伝コードをDNAに持っており、この生物学的時計によって寿命が決まる・つまり、細胞分裂の回数が決まっており、最後には分裂が停止して死に至る・DNAを修復するDNAもあるが、それにも限界があるとする説。
◆活性酸素説
活性酸素が細胞を破壊するという説・私たちは酸素を吸い、細胞がこれを使ってエネルギーをつくるが、使いきれない酸素が活性酸素となる。もともと、酸素の分子は一個の原子とニ個の電子から成っているが、活性酸素は電子をIつしか持たないの
で、不安定で、何かの物質と結合して安定したがる・それが細胞に付着すると、細胞が破壊されたり、DNA、RNAの合成を低下させたりする。
◆老廃物説
細胞分裂の回数は、細胞の出す老廃物により決まってしまうという説・年をとるごとに老廃物がたまり、細胞分裂の回数を少なくしてしまう。
◆ヘイフリックの生物学的時計説
レオナルド・ヘイフリック博士が提唱した説・老化は各細胎内にある生物学的時計によって決まる・つまり、各細胞は五〇回しか分裂しないとするもの。
◆胸腺免疫低下説
胸骨の上に胸腺がある・胸腺は生まれたときは重さが二〇〇〜二五〇グラムある
が、六十歳を過ぎると三グラムになってしまう・胸腺は免疫機能を保つ作用がある。年をとるとこの免疫能力が低下して死に至るという説。
◆ミトコンドリアDNA変異説
細胎内にはミトコンドリアがあり、ここではエネルギーをつくっている。活性酸素がこのミトコンドリアに結合して、この作用を低下させてしまう。そして、細胞の老化が始まる。
◆エラー破局説
蛋白質は細胎内で合成されるが、これはDNAの指令を受けて行なわれる・しか
し、ときとしてこの指令が突然狂い、蛋白の合成が正確に行なわれないことがあり、それが老化の原因になるというもの。
◆結合組織説
人間の皮膚や腱、靭帯、骨、軟骨にはコラーゲンファイバー(結合組織)が十字状に張り巡らされている。年をとっていくと、この網目状の網目が増えて血管などが圧迫され、栄養は届かなくなり、老廃物は出なくなり、老化が進むという説・
◆自己免疫説
免疫力は生きるために必要なものであり、人間の体にとって異物なものに対して体は抗体をつくる・ところが、免疫機構はときには過剰となり、もともと人間の体の内にあるものを異物と間違って認識して抗体をつくり、抗原抗体反応を起こす。これが自己免疫疾患で、それによって老化が進むというもの。
◆カロリー過剰説
摂取カロリーは、過剰であるよりも制限されたほうが長生きするという説・動物実験によって確認されている。
◆遺伝子変異説
放射線などの影響を受けて遺伝子が変異して老化、がん、死に至るという説。
◆テロメア学説
染色体の両脇にはテロメアというDNAと蛋白の複合体が帽子のようにかぶさり、染色体を安定させている。染色体が分裂するたびにヽこのテロメアは短くなり、ある回数分裂すると染色体が不安定になり、細胞は自衛のためにそれ以上の分裂をやめる。
以上、老化のさまざまな説を紹介したが、これらは、どれが正しいとか、どれが間違っているとかということではない。さまざまな説を背景に、さらに新たな説が打ち立てられてきたと考えられる。
テロメア説は、遺伝子説やヘイフリックの生物学的時計説を説明した説であり、ミトコンドリアDNA変異説や遺伝子説はテロメア説に集約される・
今日では、冒頭に述べたように、寿命は生まれたときから遺伝子レベルでプログラムされており、さらに、体の内部環境および外部環境でのアクシデントによって変化する、と考えられている。ただし、遺伝子プログラム説は絶対的なものではない、とも考えられている。

「いかに若さを保ち、健康に長生きするか」
人間も含めて、動物の一生は、誕生してから死ぬまでの時間的経過から、「成長」「成熟」「退行」という三つの過程に分けられる・そして、〈老化〉とはこのうち退行期のことをいう。
最近よく見かけるエイジングとか加齢とかいう言葉は、老化と同義に使われていることが多いが、これらは「時間的経過」を総称したもので、文字通り齢を重ねていくことである。それが老化の意味で使われているということは、それだけ老化ということが大きな課題になっていることにほかならないだろう・
その背景には世界的な長寿化の傾向がある・中でも日本は飛び抜けた長寿を実現しており、二〇一五年には人口の四人に一人が六十五歳以上の高齢者という超高齢社会を迎えると予想されている。
長寿はめでたいことである。長生きは大昔から人類共通の願いだった。しかし、物事には何事も裏と表がある・すでにわが国では、痴呆老人などの介護を必要とする高齢者のことが社会的な問題になってきている。これは長寿の裏返しで、長寿を実現したからこそ出てきた問題であるといえよう。
いくら長生きをしても、ボケたり、寝たきりであっては、長寿も虚しいものとな
る。すでに長寿社会が半ば実現しているからこそ、健康長寿のための方法が求められている。さらに言えば、せめて五十代くらいの若さを保ちながら八十代まで生きられれば、老後はまったく違ったものとなるだろう。
もし八十代になっても五十歳程度の若さと体力、脳の若さが保たれているなら、現役でバリバリ仕事もできるし、それを老後と呼ぶのには無理が生じる。
そうしたことから、老化のテーマの1つとして、「いかに若さを保ち、かつ健康に長生きするか」ということが、現在の、そしてこれからの大きな課題としてクローズアップされてきた・そういう社会背景もあって、近年、生命科学分野の研究の進歩が著しく、遺伝子の解明が進む中で、「人はなぜ老いるのか」という研究が一大テーマとなってきている。

老化はホメオスタシスのバランスの崩れ

老化を言葉で定義するとどうなるのだろうか。一言でいうなら、体のホメオスタシスのバランスが崩れてくるということである。 ホメオスタシスは、「恒常性」、あるいは「恒常性の維持」と訳される・ 私たちの体を構成している基本単位は細胞であるが、このうち外界の空気などと直接接触しているのは皮膚や粘膜だけで、他の大部分の細胞は外界から遮断され、細胞外液と呼ばれる液体の中で生活している。 そのことから、体の外部で私たちを包んでいる生活環境を外部環境といい、一方、大部分の細胞の生活環境となっている細胞外液を内部環境と呼んでいる。 内部環境の条件としては、浸透圧やペーハー(pH)、電解質(ミネラル)組成、炭酸ガスと酸素のガス組成などがある・これらが常に最適の状態に保たれていてこそヽつまり、内部環境の条件が整っていてこそ、その中で細胞は正常に機能していくことができるのであり、すべての細胞はそうした環境のもと、生きるという目的のために系統立って活動している。 そして、細胞や細胞によってつくられている器官が、内部環境の恒常性の維持を目的として働くためには、個々の細胞や器官の働きを協調、統合して動かすコントロール・システムが必要で、それを担っているのが、神経系と内分泌系(ホルモン系)である(これにもう一つ、免疫系を加える場合もある)。 こうした体の各細胞や各器官が相互に連絡し、コントロール・システムの働きによって内部環境が保たれていることを、恒常性、つまり、ホメオスタシスというのである・ 私たちが生命を維持していくためには、このホメオスタシスを保つことが必要であるが、何らかの原因によって体内のホメオスタシスが乱されると病気になる・そして、その乱れがホメオスタシスを保とうとする自動コントロール・システム(ホメオスタシス機構)の能力範囲内であれば、そのシステムの作用が働いて、いつしか病気も回復することになる。ところが、年をとるとともにホメオスタシスが崩れていき、次第にコントロールが効かなくなってくる。それが老化であり、さらにコントロールが効かなくなると死に至ることになる。つまり、いろいろな意味で体のバランスを整えているシステムが効かなくなっていき、体の機能が次第に悪くなってくることが老化だといえよう。

メラトニンで寿命が伸びた

ホメオスタシスを維持しているメカニズムの一つに内分泌系(ホルモン系)があることは先に述べた。ホルモンにはさまざまな種類があり、それらの働きは次のようにまとめられる。

1.成長と発育
2.生殖と美容
3.環境への適応
4.エネルギーの生産と貯蔵
5.情動と知性をつくる

老化はホルモン分泌の変化によっても現われる・後で触れるが、女性ホルモンの分泌の変化である閉経は、女性の老化を進める大きなきっかけになる。
一般的に、ホルモンは年をとるとともに分泌が低下するが、中でも顕著なものにメラトニンがある。
メラトニンは、脳にある松果体から分泌されるホルモン。このホルモンの分泌
は、昼間、太陽が当たっている間は抑制され、夜、暗くなると盛んになるという特徴があり、睡眠と覚醒のリズムを調節する体内時計に関係すると考えられている。
このことから、アメリカでは、牛の松果体から抽出したものや、化学的につくっ
たメラトニンが、一時、時差ボケや不眠症の薬としておおいにもてはやされた。
アメリカでは、メラトニンはもともと時差ボケの治療に用いられており、体内時計との関係は、メラトニンがブームになるはるか以前から推測されていた。
そこで、この体内時計に関係する機能をうまく応用すれば人間の老化速度を調節できるのではないか、と考えられたことから研究が進められた。その結果、メラトニンには免疫効果を高める、血小板の凝集を抑制する、コレステロール値を下げる、乳がんや前立腺がんに効果がある、などの発表が相次いだ。
またヽ動物実験によって、寿命を延ばす効果があることも確認された・イタリアのピエルーパオリという研究者は、マウスを二つのグループに分け、一方には飲み水に毎晩微量のメラトニンを加え、他方には普通の水を与える実験をした。
その結果は、ただの水を飲んだマウスの平均生存日数が七百十五日だったのに対して、メラトニン入りの水を飲んだマウスは平均で八百四十三日も生きた。つまり、平均寿命が約二〇%も延びたのである。 さらにその後、メラトニンには活性酸素を抑える抗酸化作用があることもわかった。アメリカのライター博士らのグループの研究によって、メラトニンはホルモンであると同時に、活性酸素を抑制する抗酸化物質としても働く、と報告された。 しかも、この抗酸化物質としての力は、作用する範囲が広く、非常に強い。 細胞は、主として脂質の分子で構成されている細胞膜と、液体成分の細胞質でできている。したがって、水溶性の抗酸化物質であるビタミンCは、細胞膜で発生する活性酸素に対抗するには不向きであり、脂溶性の抗酸化物質であるビタミンEは、細胞質で働くには向いていない。 ところが、メラトニンは水にも脂質にも溶けるというめずらしい特性があり、細胞膜にも細胞質にも存在できる。このため、細胞のあらゆる場所で活性酸素に対抗できるのである。 さらには、メラトニンには体内の抗酸化酵素の合成を促進する作用もあることがわかっている。つまり、メラトニン自身が抗酸化物質として作用するだけでなく、体内で抗酸化酵素をつくる力を強める働きをも持っているのである。 メラトニンは大人より子どものほうが分泌量が多く、六歳で最大になり、十六歳頃から減り始め、三十歳ではピーク時の半分にまで低下する。 また、脳下垂体から分泌され、年とともに分泌量が減るホルモンに、成長ホルモンがある・成長ホルモンは体のさまざまな代謝に関係するが、中でも重要なのは、蛋白質の合成と、軟骨発育の促進、脂肪分解作用である。成長ホルモンの分泌は、子どものときに活発で、十八歳頃にピークになり、それ以降は低下していく。 高齢になると運動をしても筋肉がつきにくかったり、また、食べ過ぎてもいないのに脂肪がつきやすかったりするが、その背景には成長ホルモンの分泌の低下も影響しているののである。 このほか、女性の場合の女性ホルモンほどではないが、男性の場合、男性ホルモンのテストステロンの分泌は十八歳くらいがピークで、その後は次第に低下していく。また、男性ホルモンと女性ホルモンのもとになるDHEAという物質の分泌も二十歳頃を境に落ちていく。 このように、ホルモンの分泌の低下によって、末梢の細胞の機能が低下していく。そして、生活環境や生活習慣(ライフ・スタイル)によってその機能が落ちる速度を遅くしているような人では老化が遅らせられているであろうし、逆の場合では老化を早めていると考えられる・ 私たちの体ではこのようにさまざまな種類のホルモンが分泌されているが、総体的に年をとるとともに分泌は低下し、体全体のホルモン・バランスが崩れてくる。そのことが老化ともいえる。 さらには、内分泌系は、神経系とも関係が深く、お互いに影響し合う・狭義のホルモンは内分泌系統を指すが、今日では、神経系や免疫系も含めて広義のホルモンと解釈する考え方が生まれてきた・ホメオスタシスの機構に免疫系を加える考え方があるのもこのためである。 これらホメオスタシスの機構のうち、神経系では神経伝達物質が重要な働きをしている。神経伝達物質は、ストレスや病気などの内外の変化を体が受けたとき、その情報を神経細胞から神経細胞へと素早く伝える物質のことである。最近は脳の研究が進み、脳内にたくさんの神経伝達物質が発見されてきた・ 免疫系は、免疫のシステムの一環として働く免疫物質のことで、免疫細胞から分泌される・代表的なものにインターフェロンがある・ 従来は、これら三つの系統はそれぞれ独立して働くものと考えられていたが、現在では、ホメオスタシスの情報伝達のために相互に働き、影響し合うことがわかってきた・これらのシステムの働きが低下したり、バランスが崩れることによっても、体調を崩したり、病気にかかりやすくなったり、老化が進むことになる。

生活習慣の改善で老化は遅らせられる

では、老化は具体的に体にどう現われてくるのか・いくつか例を挙げてみよう・まず、血管・年をとると起こしやすい病気に、血管の老化といわれる動脈硬化がある・
これは動脈の壁が厚くなることによって起きるが、なぜ厚くなるのだろうか。
体には、どこかが傷つくと自ら修復しようとする働きがある・たとえば、がん細胞というのは、細胞の中にあってその細胞の働きがプログラミングされているDNAが傷つくことによって細胞が突然変異を起こしたものであるが、このDNAの傷も平常では自ら補修されている。つまり、体は自ら補修を繰り返しながら生きているのである。 血管もまた同じで、血管は血流によって常に少しずつ傷ついている。これも自動的に補修されるが、その補修を繰り返すうちに血管壁が少しずつ厚くなっていくのである・つまり、補修を繰り返すうちに体は少しずつ変化していく。 この変化が老化の一つでもある。そして、この補修の能力も年をとるにつれて落ちていき、補修に時間がかかるようになる。高齢者の手術後の回復が若いときに比べて遅いのは、そのためである。 老化は形態にも現われ、厚生省の調査でも、男女ともに四十歳以後、身長、体重がともに減っている。こうした退縮は臓器や細胞にもみられる・年をとると、ゆるやかではあるが、一般的に各臓器や器官は重量が減っていく。その程度は臓器によって異なり、肝臓、牌臓、腎臓などは減少の度合いが高く、脳は低い。また、例外として心臓は年をとると重くなるが、これは動脈硬化と高血圧が原因で心臓のポンプ作用に負担が増す結果、心臓が肥大するからである。 また、老化は細胞の数が減ることでもある。脳の細胞は分裂、再生しないので、年をとるにつれて脳では、神経物質を受け取る神経細胞の受容体(レセプター・外界からの刺激をキャッチする窓口)が少なくなってくる。すると、神経が伝えようとしていることが十分に伝達されなくなる・そのため、記憶力が減退したり反応が遅くなるなどの現象が起きてくる・ 年をとると、体が保持している水分も減る・「体重の約六割は水」とはよくいわれるが、それは若いうちのこと。生まれたての赤ちゃんの頃には六割もあった水分は、高齢になると五割近くに減ってくる・その意味では、老化は体が乾燥していく過程だともいえる・年をとってシワができる原因の一つは、細胞内の体液が減って皮下組織が萎縮することにある。 このほか、たとえば呼吸器系では、肺活量と呼吸する力がかなり低下していき、生殖器系では男性は精子をつくる能力や精力が低下し、女性は更年期を迎え、女性ホルモンの分泌が衰える。

このように老化は全身に現われるが、老化は体の一部分で進むのか、それとも全身的に進むのかという疑問がある・どの臓器から老化が始まるということはわかっていないし、人によって老化が始まる臓器、器官は異なる・注意したいのは、ある特定の部分や臓器、器官の老化が始まると、それが他の臓器・器官に影響し、他の部分や臓器、器官も老化が始まったり、老化が進んだりするということである。だから、あなたに白髪、インポテンスなどの兆候が現われたら、それらを老化のサインと受けとめ、全身の老化を意識し、対策を講じることが求められるだろう・ また、老化が現われる年齢は人によってさまざまであることは、周囲の人を見ていれば明白である。これにも遺伝的要素はあるが、それよりも生活習慣が大きく影響していると考えられている。 老化にともなう病気の多くを、厚生省は「生活習慣病」と定義している。たとえば、高血圧、糖尿病、冠状動脈疾患、脳卒中などは、遺伝的素因も関係しているが、その発症には生活習慣の影響が大きい。だから、遺伝的要素を持つ人であっても、生活習慣によって発症や進行を遅らせることができる、と考えられている。その意味では、生活習慣病という名称は妥当であろう。

女性の更年期と閉経、男性の更年期

女性の更年期と閉経は、老化が明確な区切りとして出現する代表的な例の一つである・老化の指標として劇的な変化を示す臓器のIつが卵巣である・ 卵巣は卵細胞をたくわえ、成熟させる器官であるとともに、卵胞ホルモン(エストロゲン)や黄体ホルモン(プロゲステロン)などの女性ホルモンを分泌する内分泌腺でもある。卵巣は、男子の皐丸と同じように、少女期まではまったく発達しない。しかし、思春期に入って、脳下垂体が性腺刺激ホルモンを分泌し始めると変化が起きてくる・卵胞刺激ホルモンの働きかけによって、卵巣の中の卵胞が卵胞ホルモンを分泌するようになるのである。 また、脳下垂体から分泌される黄体形成ホルモンの刺激を受けて、卵巣の黄体から黄体ホルモンが分泌され始める。これによって卵巣が成長して、卵胞で卵子を育てて、放出できるようになる。こうして生殖年齢に入る。 ところが、やがて四十五歳から五十歳あたりで閉経を迎え、排卵が停止すると、卵胞は見当たらなくなる。それと同時にエストロゲンなどの女性ホルモンの分泌が極端に低下してくる。こうして更年期を迎えることになる・ 女性は、性成熟期の終わり頃、つまり三十五〜四十歳頃から性機能が次第に低下し、四十〜四十五歳頃からの多くの女性では月経周期が不規則となり、月経血量の減少、無排卵、黄体期の短縮など卵巣機能が衰退し、月経の終わりが訪れる・ 最後の月経から一年以上月経がないことを閉経といい、閉経をはさんだ約十年間を更年期という。 更年期は、卵子の数が少なくなり、それにともなって卵巣の機能が低下することから始まる・ピーク時には約二〇〇万個もあった卵子が、更年期に入る頃には数百個まで減る・ 閉経前後の更年期では、ホルモン分泌の変化に体が対応しようとして、その結果、更年期障害と呼ばれるさまざまな全身的症状が現われる・そして閉経後は、性器は萎縮し、全身の老化現象が現われてくる・その代表的なものが骨組轍症であり、また、動脈硬化も進みやすくなる。閉経を境に老化がくっきりと現われ始め、女性は老化の訪れを実感し、意識するようになる。 実際、更年期以後、さまざまな変化や病気が現われるようになる・骨粗しょう症は、閉経にともなうエストロゲンの分泌低下によって進むことがわかっている。エストロゲンは、骨からのカルシウムの脱灰(奪われること)を防ぐ働きをしている。また、高脂血症や、それによってもたらされる動脈硬化、さらに動脈硬化が原因で起きる心筋梗塞や脳梗塞などの循環器系の病気は、閉経前の年代では圧倒的に男性に多いが、閉経後では女性に急激に増えてきて、発症率は男性と変わらなくなってくる。 一方、男性は女性の更年期ほどの明確な区切りはないものの、中年以降では精力が明らかに弱くなり、白髪など老化の兆候が現われてくる。男性については、男性更年期という言葉もあり、気力が低下し、うつ傾向を示すケースも増えてくる。 さらには、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中などの循環器系の病気など、生活習慣病といわれる病気が現われるのも女性より早い。この男性更年期といわれる症状や、さらには中高年からの生活習慣病の発症にも、男性ホルモンの分泌低下が影響している面があると考えられている。

男性ホルモンのテストステロンの分泌は十八歳くらいがピークであるが、それ以後も急激に下がるわけではなく、一般的に五十歳を過ぎてから徐々に下がっていく。ところが、これには個人差があって、六十五歳から七十歳くらいまでは若い人とさほど差がないというケースもある。

日本人に長寿者が多い理由

老化は、個体レベルのほかに、臓器や器官のレベル、さらには細胞のレベルに分けて考えることができる・近年、生命工学の進歩によって、細胞レベルでの老化や死のメカニズムの解明が急速に進んできて、生命や寿命の本質に迫ろうとしている。 細胞はなぜ死ぬのだろうか。 細胞は、遺伝子(DNA)のある核と細胞質に分けられ、細胞質の中には、ミトコンドリアをはじめとするいろいろな細胞小器官が存在する。 このミトコンドリアが老化において非常に重要な役割を持っていることがわかってきた・ミトコンドリアでは、体で消費するエネルギーのもとになるATPがつくられるが、その過程でスーパー・オキシド・ラジカルのような活性酸素がつくられる・活性酸素は、DNAや蛋白質、脂肪などの分子を酸化して、それらの老化を引き起こす。 この活性酸素が体内に大量に発生すると、ミトコンドリア白身の分子が損傷を受けることがわかっている。 活性酸素はミトコンドリアでつくられるが、ミトコンドリア自身、活性酸素によって傷つけられるというわけである。 体が老化するにつれて、ミトコンドリアに発生する活性酸素の量も増えることがわかっている。ミトコンドリアは、活性酸素によって傷つけば傷つくほど、さらに活性酸素をたくさんつくるようになり、悪循環に陥ることになる。ただし、ミトコンドリア自身に、傷を修復する働きがあることもわかっている。 財団法人岐阜県バイオ国際研究所の田中優嗣遺伝子治療研究副部長は、「日本人には長寿を実現させる型のミトコンドリア遺伝子を持っている人が多い」と、一九九八年一月に発表している。 口の中のミトコンドリア遺伝子を取って調べてみると、遺伝情報のある一万六五六九個のアミノ酸配列のうち、五一七八番のアミノ酸がアデュンである型のA型の人と、シトシンであるC型の人とがいる。 この型と長寿や生活習慣病との関係を探るため、田中氏は、一般献血者と百歳以上の高齢者、大学病院の入院患者(四十五歳以上)を対象に、それぞれ、どの型が多いかを調べた。その結果は、A型が、一般献血者では四五%、百歳以上の高齢者では六二%、大学病院の入院患者では三九パーセントを占めていた。つまり、長寿の人にA型が多く、体調のよくない人(入院患者)ではA型が少なく、普通の人(一般献血者)ではA型とC型が約半々という結果が得られたのだった。 この結果から、ミトコンドリア遺伝子がA型の人は病気になりにくく、長生きすると推測できる。また、人種や民族によって違いがあり、日本人にはA型が多く、欧米人にはほとんどいないという。 ちなみに、このときの調査では、あの長寿姉妹のきんさん、ぎんさんのうち、姉の成田きんさんの型を調べており、その結果はA型であった。二人は一部性双生児であるので、妹の蟹江ぎんさんもA型ということになる。 ミトコンドリアに異常があると、さまざまな病気を引き起こす・関係のある病気として、脳や神経の難病など、すでに数十種類がわかっている。糖尿病の中にもミトコンドリアが原因のものがあることが、矢崎義雄・国立国際医療センター病院長や、門脇孝・東大講師などの研究によって明らかになっている。 また、最近注目されている、「細胞の自殺」といわれるアポトーシスでも、それが起きるメカニズムにミトコンドリアが決定的な役割を果たしていることがわかっている・アポトーシスが始まると、さまざまな酵素がミトコンドリアから飛び出し、細胞を攻撃し、破壊し、死に至らしめる。 こういったことから、現在、ミトコンドリアの解明が新しい治療法につながる可能性があるとの観点に立って研究が進められている。

活性酸素こそ老化の元凶

活性酸素が、がんをはじめさまざまな病気や老化の発生に関係していることは、今日では一般の人にも広く知られるようになってきた。そしてさらに、最近になって、実は活性酸素はテロメアの短縮も早めるとわかってきたのである。

活性酸素と老化の関係が注目されるようになったのは、エネルギー代謝が大きいほど寿命が短いという事実が明らかになってきたからである。食べすぎや運動のしすぎはエネルギー代謝を高め、酸素を余計に消費する分、活性酸素を過剰につくることになる。 体にとって必要な栄養素でも、多すぎると害になるように、過剰な酸素は活性酸素をつくりやすく、細胞にとっては危険となる・ 培養した細胞を使った実験でも、酸素が多すぎると寿命が短くなることが確認されている。そしてそれは、酸素によって、細胞の分裂のたびに短くなるテロメアの短縮が早められるからだと考えられている。 過剰な酸素が体に害をもたらすことは、重症患者や早産児に行なう酸素吸入による事故によって発見された・保育器内の乳児に過剰に酸素を与えてしまったところ、乳児網膜症で失明してしまったのである。このことがわかってきてからは、たとえば、肺機能が低下した患者に五〇パーセント以上の濃い酸素を吸入させることは禁止されている。 活性酸素にはスーパー・オキシド・ラジカルや過酸化水素などがあり、周りの物質を酸化させる働きが強い。活性酸素は活動性に富んでいる酸素で、DNAの材料になっている核酸のほかにも、生命の担い手である蛋白質や脂質をも破壊する。 活性酸素は、細菌やウイルスなどの外敵に体が対抗する免疫の働きによっても生じる・これらの外敵が体内に侵入すると、好中球やマクロファージなどの細胞が活性酸素を出して攻撃をする。そのとき、結果的に活性酸素が私たちの体の細胞を攻撃するとヽ傷口や歯肉が赤く腫れたり、胃炎になったりする。 肝臓で薬を代謝して解毒するときにも活性酸素が発生するし、ある種のホルモンをつくる酵素反応によっても発生する・活性酸素は私たちが酸素を利用して生きている限り体の中でつくられ、体を守るために働いている。活性酸素はがんの原因になるがヽがん細胞の抑制にも働いているのである。 しかし、過剰につくられると、直接、遺伝子DNAを傷つけて細胞をがん化することがある・細胞膜をつくっている不飽和脂肪酸を酸化して過酸化脂質をつくり、これが活性酸素と同じように働いてDNAを傷つけることもある。細胞膜の中の蛋白質を酸化して細胞膜を変質させるいう悪さもする・細胞膜はいろいろな物質の出入りを調整しているが、その働きが失われてしまうのである。 血液中のコレステロールのうち、LDL(低比重リポ蛋白)が活性酸素によって酸化すると、酸化LDLになる。すると、マクロファージがこれをどんどん食べて血管壁の中に入り込み、血管を狭くし、動脈硬化が進んでいくことになる。 また、細胞の酵素が活性酸素によって酸化されると、代謝がうまくいかなくなって老化の原因になる。 糖尿病で血液中の血糖値が高い状態が続く場合や、ダウン症候群の場合にも、活性酸素が盛んにつくられるために寿命が短くなると考えられている。 長寿ということでは、老人性痴呆のうち、アルツハイマー病が健康な長寿を妨げる要因として立ち塞がっているが、アルツハイマー病の原因の1つとして、脳の酸化があると考えられている。つまり、活性酸素は動脈硬化を促進し、脳の働きを低下させるのである。 活性酸素は、放射線の作用によっても生じる。放射線は太陽の光に含まれている・太陽の光には、人の目で見える可視光線と、見ることのできない紫外線や赤外線が混じっており、その中で紫外線は活性酸素を発生させ、がん発症の原因になる。また、よく知られていることであるが、レントゲン撮影も放射線を放出する。 このほか、活性酸素はディーゼル・エンジンの排ガス、ストレス、喫煙、過剰な飲酒、農薬、食品添加物、薬などによっても体内につくられる・ その活性酸素に対抗して、私たちの体ではスカベンジャーと呼ばれる掃除屋がつくられる・このスカベンジャーの代表的なものにSOD(スーパー・オキシド・ディムスターゼ)という酵素があるが、年をとるとともにSODはあまりつくられなくなり、その働きも弱くなってくる。 そして結果的に体内に活性酸素が多くなり、がんを引き起こしたり老化を進めたりすることになるのである。 アメリカ国立老化研究所のカトラー博士は、SODの働きと寿命の関係を調べた。寿命の異なる10種類以上の哺乳類について調べた結果、SODの働きが高い動物ほど、つまり、活性酸素を除去する働きが強い動物ほど長寿で、しかも、人間のSODの働きはほかの動物よりも高いことを突き止めた。

寿命は遺伝子に支配されている?

人間を含め、あらゆる動物の寿命は遺伝子によって支配されているが、老化の過程はそれほど厳密に遺伝子によってプログラムされてはいない、と現在の生命工学では考えられている。老化を解明する適当なモデルとして研究が進められてきたものに、遺伝性の早老症がある・早老症は、老化や寿命が遺伝子によって明らかにプログラムされているケースである。早老症をもたらす病気には、ダウン症候群、コケイン症、ウェルナー症候群などがある・早老症では、若い年齢のときに老化の現象が現われ、寿命も比較的短い。 一般的に老化には個人差があるが、早老症のそれは一般的な老化とはまったく異なる・極端に老化が早く、ひどいケースでは子どものときから老化が現われ、小学生のうちに死に至ることもある。 これら早老症を引き起こす病気の中で、研究者だちから現在最も注目されているのが、ウェルナー症候群である。この病気は、全身の動脈硬化が進行し、さまざまな生活習慣病が現われ、平均寿命も五十歳程度である。しかも、ウェルナー症候群の人で老化とともに発症する病気や死因は、一般の人の場合と非常に似ている。白髪が目立ち始め、白内障が現われ、糖尿病や動脈硬化、骨粗しょう症が起こるのである。発症する年代が早く、その点が違うだけである・ウェルナー症候群の人たちの死因を調べたある調査で、いちばん多かったのががんで、次が動脈硬化が原因の病気だった。がんで死亡した人たちの年齢は二十五歳から四十二歳だった。 ウェルナー症候群を世界で最初に発表したのは、ドイツの眼科医ウェルナーで、一九〇四年のことだった。彼は、若いのに白内障にかかり、強皮症を併発した患者が同一家系に四人もいることを報告した。 この奇病を世界的に知らせたのは、このページの最初の方で紹介した、アメリカの解剖学教授、レオナルド・ヘイフリック博士である。 人の細胞は五〇回から六〇回分裂を繰り返すと寿命が尽きることが実験で確認されているが、ヘイフリックは、ウェルナー症候群の患者の皮膚細胞では、その半分程度の細胞分裂をした時点で細胞が死んでしまうことを発見した。

この研究によって、ウェルナー症候群の患者の早期老化の理由が、彼らの皮膚細胞の寿命が極端に短いことにあると解明された・ウェルナー症候群の人たちは、細胞の寿命が短いぶんだけ老化が早く進み、その結果、若くして死に至ってしまうのである。 さらに、一九〇四年のウェルナーの発表から約九十年を経た一九九〇年代になって、ウェルナー症候群の原因になっている遺伝子が発見され、研究者や学者たちに衝撃を与えることになった。わずか一つの遺伝子の突然変異によって、早期老化現象が起きるとわかったからである。ウェルナー症候群に共通していたのは、第ハ染色体にある遺伝子の突然変異だった。 一般的に、特定の病気の発症には多くの遺伝子が関係し、一つの遺伝子によって起きることは非常にめずらしい。ちなみに、ほかの早老症では、コケイン症候群では第二番目の染色体と第10番目の染色体に異常がある・ウェルナー症候群は、たった一つの遺伝子の異常によって起こることから、希有なケースであり、研究者たちに衝撃とともに関心をもたらすことになった。

老化を引き起こす遺伝子とは

最近、ヒトの胎児胚を培養した細胞と、ハムスターやマウスなどの動物の培養細胞との融合を行なうことによって、人の老化に関係する遺伝子が染色体のどの部分に存在するかの解明が進んできた・ これまでの研究によって、老化遺伝子として、第一染色体、第二染色体、第六染色体、第七染色体、第11染色体が、さらに、遺伝子に突然変異をもたらす遺伝子としてクロトー遺伝子が発見されている。 これらの遺伝子は、細胞の遺伝子に突然変異を起こさせ、老化を進め、死に至らしめる。 しかし、これら老化遺伝子が実際にどのように働いて細胞を老化させ、死に至らしめるか、現段階ではその具体的なメカニズムはほとんど解明されていない。これらの老化遺伝子をクローニング(細胞培養によって遺伝的に親と同じ個体を作り出すこと)して、DNAの塩基配列を調べ、このDNAからつくられる蛋白質の性格を解明すれば、この問題を解決する鍵が得られると考えられている。

細胞の自殺、アポトーシス

細胞の遺伝子が傷ついたりして突然変異を起こすとどうなるのか。実は、そういう変異を起こした細胞には、自殺をするプログラムが備わっているのである。 細胞には、異常なDNA、RNA、蛋白質、脂質をチェックし、それを修正したり排除したりする機構が分子レベルで備わっている。こうして体を正常に保っているのだが、このようなチェック機構は細胞レベルでも働いている。傷んで異常になった細胞はチェックされ、修正されるか排除されるが、そのためにはいろいろなメカニズムが働いているのである・ たとえば、がん細胞のような異常な細胞ができるのを抑えるために、細胞は特殊な自殺の機構を持っている。DNAに異常が発見されると、まず、細胞分裂が抑えられ、増殖が抑えられる・その結果、うまく修復されればヽまたもとの正常な細胞に戻り、普通の活動を続ける・ ところが、うまく修復できないこともある。これをそのままほうっておくと、がん細胞のような有害な細胞に変化するおそれがあるので、このような細胞はアポトーシスと呼ばれる、一種の自殺をするのである。アルツハイマー病やパーキンソン病では脳の神経細胞が減っているが、それは細胞のアポトーシスが原因という説もある・ 前に触れたが、最近の研究で、細胞のアポトーシスにはミトコンドリアが決定的な役割を果たしていることが解明されてきた。細胞のアポトーシスが始まると、さまざまな酵素がミトコンドリアから飛び出してきて細胞を攻撃するのである。 細胞のアポトーシスが始まると、細胞のDNAがすみやかに断片化して、分解する・異常なDNAができたときに、細胞分裂を止めたり、アポトーシスに向かわせたりするときに重要な働きをする蛋白質にp53がある・この蛋白質が欠けているとチェック機構が働かないため、がんになりやすくなる。このことから、p53の遺伝子はがん抑制遺伝子と呼ばれている。ほかに、がん抑制遺伝子としてはRb遺伝子などが発見されており、現在もその数は増えつつある・しかし、チェック機構はいつも完璧に働くわけではなく、ときには異常な細胞ががん化してしまうこともある。 細胞のアポトーシスは臓器や器官、さらには生体を守るための死であるが、アポトーシスを起こすことで臓器や器官の老化が進むことになり、そこに問題がある。では、どのようにして老化が起きるのかというと、アポトーシスによって細胞の数が減るために老化が進むと考えられる・ 愛知医科大学加齢医科学研究所名誉教授の田内久博士(名古屋大学名誉教授)は、一九三八年の夏に招集を受け、日華事変に軍医として約三年半の間、野戦病院で傷病兵の治療にあたるかたわら、日本兵の死体解剖に従事した。その中には栄養失調だった兵士も多く、その人たちの内臓が萎縮し、細胞の大きさが小さいことに気づいた。 そのことに関心を持った同博士は、終戦で帰国した後、高齢で死亡した人たちの解剖を多数行なった。そして、外国の解剖データも参考にして検討した結果から、「栄養失調では体の細胞の一つひとつが小さくなることで臓器が小さくなるのに対し、高齢者では細胞の数が減ることで臓器が小さくなっている。老化して臓器が萎縮するのは、個々の細胞の萎縮によるものではなく、細胞数の減少によるものである」ことを突き止めた。 体の中の細胞でも、とくに脳の神経細胞や心臓の筋肉細胞は、細胞分裂をして新たな細胞を作り出すことはないと考えられている。これらの細胞は、その数が減っても、細胞分裂によって数を増やすことはできない。 細胞分裂を行なう細胞であっても、分裂が止まればどうなるかは、髪の毛を例にとるとわかりやすいだろう・男性型脱毛症といわれる、男性に見られる脱毛症では、毛母細胞が死ぬことによって細胞分裂が止まり、その結果、髪の毛の数が減ってくる。 これと同じように体の臓器の細胞の数が減っていったら、その臓器はどうなるのだろうか。働きは低下し、それがすなわち、老化ということになるだろう。田内博士の見方によれば、体のさまざまな臓器や器官の細胞の数が減ることによって老化が起きると考えられるのである。

注目の最先端医療「不老医学」

生命を刻む時計、テロメア

ー九五〇年代後半、レオナルド・ヘイフリック博士は、人間のある細胞の分裂が五〇〜六〇回程度で止まって死ぬことを確認した。そして一九九〇年代になって、細胞分裂の回数を制限しているだろうと考えられる物質がいくつか発見された。中でも注目されているがテロメアで、この発見によって、不老長寿への期待がいっきに高まってきた。 一九九〇年に、カナダのカルピンーハーレー博士が、細胞分裂のたびにDNAのある部分が短くなるという論文を発表した。そのある部分というのが、DNAの染色体の両端にあるテロメアである。 ヒトの細胞の遺伝子は、二三対の母親由来の遺伝子と二三対の父親由来の遺伝子、つまり合計四六本の染色体から成っている。一個の受精卵から成人に至るまでの発生、成長は、すべて染色体の中に含まれている遺伝子の指令(DNAの塩基の配列)によってコントロールされている・遺伝子は、ヌクレオチド(塩基)という化学物質が連結した糸のように長い分子で、先祖代々、親から子、子から孫へと受け継がれる・体の中で細胞が増えるときも、遺伝子は厳密に複写され、娘細胞へ受け継がれる。 ただし、例外があってヽそれがテロメアという部分である。DNAの複製のメカニズムから、テロメア末端のDNAは細胞分裂のたびに短くなることがわかった。一回の分裂で短くなる長さは50から100塩基ほど。線維芽細胞(骨や関節、靭帯などの結合組織に多い細胞)で実験すると五〇回〜六〇回の分裂で細胞の寿命が尽きるのは、テロメアが一定の長さ(通常、五〇〇〇塩基)より短くなったためであると考えられている。 ハーレー博士によって、細胞が分裂するたびにテロメアが短くなるメカニズムが解明され、ヘイフリック博士が発見した現象を説き明かすことになった。一定回数の分裂によって細胞の寿命が尽きることから、テロメアは「命の回数券」とも呼ばれている。 生まれたばかりの赤ん坊から老人まで、さまざまな年代の人の線維芽細胞を取ってテロメアの長さを調べると、臓器や器官によってばらつきはあるものの、一般的に赤ちゃんでは長く、高齢者では短く、年齢とともに短くなっていることが確認されている。 このことは、試験管内の培養細胞によるレベルではなく、私たちの体の細胞でも、細胞分裂を繰り返すたびにテロメアは確実に短くなっていることが確かめられているのである。私たちの体は細胞で構成されている。その細胞に寿命があるということは、とりもなおさず、個体の寿命に限りがあるということを表わしている。 細胞の寿命がどのくらい個体の寿命と関係するかということになると、いまのところ答えは出ていないが、個体の寿命は、個体を構成している組織や臓器の衰えによって決まると考えられるから、組織や臓器の衰えは、それを構成している細胞の寿命が尽きることによってもたらされることは十分に考えられる・ このように、テロメアの長さが尽きることで細胞の寿命が尽き、それが個体の老化に結びついているのではないか、と考えるのは自然であろう。 人間以外の動物でも、細胞分裂の回数と寿命は関係があることが確認されている。たとえば、寿命が三年ほどのネズミでは一五回程度、寿命が百七十五年のガラパゴスゾウガメでは一二五回くらいで細胞は分裂をしなくなる・しかし、動物の種類によっては、相関しない場合もある。マウスは最大寿命が三・五年で、人間の三〇分の一に過ぎないが、意外なことにマウスのテロメアは人間のそれよりもかなり長いのである。 前述したように、私たち人間の体でも一般的に年をとるとともにテロメアは短くなることが確認されている。しかし、個々人においても、各臓器や器官の細胞では、染色体のテロメアの長さは異なる。年をとったから、あらゆる臓器や器官の細胞の染色体のテロメアが一律に短くなっているとは限らないのである。 また、八十歳前後では、大半の細胞のテロメアはまだ、かなりの細胞分裂を繰り返すだけの長さを持っている。このことから、八十歳前後までは、テロメアの長さが老化や寿命の鍵を握っていないのではないか、という見方もある。テロメアの短縮を抑制する酵素、テロメラーゼ 短くなっていくテロメアに対して、その短縮を抑えるテロメラーゼという酵素がある。 細胞には、脳の神経細胞のように細胞分裂を繰り返さないものも一部にはあるが、体の細胞は普通、50〜60回の分裂を繰り返した後、死に至る・しかし、細胞の中には、明らかに無限の寿命を持っていると思われるものもある。 その1つが生殖細胞である。卵子や精子は、私たちの祖先の脊椎動物が誕生してから、何億年も絶えることなく分裂を繰り返してきた・がん細胞も同じように無限に分裂を繰り返す。 これら生殖細胞やがん細胞のように無限に増殖する細胞では、テロメアの長さを保つ仕組みがあることが解明された。正常な細胞と違って、一般的に、がん細胞では細胞分裂をいくら繰り返してもテロメアが短くならない。それは、テロメラーゼという酵素の働きがあるためだとわかったのである。 この酵素は大部分の体細胞にはないが、生殖細胞には存在する。また、造血細胞のように細胞分裂が盛んな細胞にも、弱いけれどテロメラーゼの働きがある・線維芽細胞のようにテロメラーゼの働きを持たず、寿命に限りがある細胞にテロメラーゼの働きを持たせると、寿命が延長されることもわかってきた。 がん細胞でのテロメラーゼの働きを抑える方法が開発されればヽがんを治すことができる。また、普通の細胞にテロメラーゼの働きを持たせることができたら、細胞は死ぬことがなくなる。そういった望みが出てきて、これらの研究が現在、バイオ・ベンチャー企業や製薬会社によって盛んに進められている。一九九八年一月には、アメリカのバイオ・ベンチャー企業のジェロン社が、遺伝子操作によってテロメアを長くしヽヒトの細胞の寿命を何倍にも延ばすことに成功したと発表した・同社はテロメラーゼの働きを抑えることにも成功している。 ところで、細胞の死に関係する物質や遺伝子はほかにも発見されている。 その一つにフィブロクチンという蛋白質がある・細胞分裂の回数が多い老化した細胞ほど、このフィブロクチンをたくさん持っており、細胞分裂が少ない若い細胞には少ないことがわかっている。このことから、フィブロクチンが増えると細胞が分裂できなくなるのではないか、と推測されている。 テロメアの構造や機能に関わる蛋白質について研究を行なっている東京理科大学生命科学研究所の内海文彰助手(医学博士、薬学博士)によると、細胞の複製(分裂)に関係しているものには、テロメア以外にいくつかの因子があるという。 「染色体の末端にあるテロメアの複製がうまくいかないことには、さまざまな因子が関係しています・たとえば、TRF蛋白質は、テロメアを安定させることに関わっています。また、老化関連遺伝因子のp21は、老化している細胞にたくさん見られますが、この蛋白質はテロメアを長く保つために働いているのかもしれません」 また、テロメラーゼついては、内海氏はこう語っている。 「テロメラーゼというのは、酵素活性のある蛋白質の集団からなる、かなり大きい装置です。現代医学は、それら蛋白質を今、解き明かそうとしているところです」 テロメアやテロメラーゼに関わる因子がすべて解明されたとき、細胞の寿命をコントロールすることが可能になってくるのだろうか。

テロメラーゼ療法は寿命を延ばすか

寿命や老化について、遺伝子レベルでさまざまなことが次々と解明されてきた・繰り返すが、その中で現在、最も注目され、ホットな研究が進んでいるのが、テロメアおよびテロメラーゼに関してである。 アメリカ国立老化研究所は、傷つき老化した細胞を、分裂で生じた若い細胞に置き換えることで平均寿命を百二十歳に、最大寿命はそれ以上に延ばすことができる可能性があると見ているという。 そして実際に、テロメラーゼを人工的につくる方法も開発されている。 がん細胞はテロメラーゼが活発に働き、だから、際限なく細胞分裂を繰り返す。がんに対しては、このテロメラーゼの働きを抑える方法が実験で成功しており、アメリカはもちろん、わが国の製薬会社も人の治療に応用すべく、開発にしのぎをけずっている。 東京大学大学院生命理工学研究科の石川冬木教授は、テロメラーゼをコントロールする物質を発見した。 石川教授によると、テロメラーゼ遺伝子の発現をコントロールする物質には二つあり、一つは細胞分裂が活発に行なわれるときにつくられる蛋白質で、もう一つは未熟な細胞が、血液細胞や神経細胞のように、特定の種類の細胞に分化することが運命づけられたときに出てくる蛋白質であるという。 前者はテロメラーゼを増やすように働き、後者は減らすように働く・つまり、テロメラーゼは、細胞が活発に分裂し、なお、未分化なとき(細胞が成熟していないとき)だけつくられるというのである。ちなみに、細胞は分化、つまり分裂・増殖して、それぞれに応じた機能を持つ細胞へとつくられていく。 そのテロメラーゼが発現する条件を満たしているのは、生殖細胞をつくるときと、胎児のとき、さらには幹細胞と呼ばれる細胞が分裂するときだけだという。生殖細胞をつくるときは減数分裂が盛んに行なわれているし、生殖細胞は分化をする前の段階の細胞である。また、胎児のときは、受精卵から体をどんどん大きくするために細胞分裂を頻繁に行なっているし、手足や臓器ができてくるまでは分化しないという条件も満たしている。 幹細胞は、どんどん分裂しながら、いろいろな種類の分化した細胞になるので、大人の体の中にある細胞であるにもかかわらず、この条件を満たしているという。ちなみに、がん細胞もこの条件を満たしている。 では、テロメラーゼという酵素を体の中で働かせれば、本当に不老長寿が実現するのだろうか・また、テロメアを長く伸ばしたり、短くなるのを防いだりする方法は、実際の人間に応用できるようになるのか・さらには、それが可能になったとして、寿命を延長できることに結びついていくのだろうか・ 医学の専門外の人は、テロメアをコントロールする方法が開発されたら、それによって全身のすべての細胞が活発に増殖を繰り返すようになるのではないか、と考えるかもしれない。 しかし、現実には、たった一つの操作によって、全身のすべての細胞の傷を治し、分裂を活発にすることは不可能に違いない。あくまで、個々の細胞レベルでそれができるということに過ぎないのである。 万がてテロメラーゼを体全体で働かせる方法が開発できたとしても、それは非常にリスクをともなうことになる、と石川教授はいう。「全身の細胞の中には、活性酸素によって、そのDNAが完全に切れてしまう場合があります。 しかし、テロメラーゼは、こうして切れたDNAの端にもテロメアをつけ足して細胞を生かそうとすることができます。そして、不完全な細胞が生き残ると、それこそヽまさしくヽがんなどの病気になる可能性があるのです。 たとえば、αサラセミアという貧血を起こす病気は、ある遺伝子が切れて発症することがあるのですが、その切れ目にテロメアがつけ足されて細胞が生き延びるために起きてしまったらしい形跡が見つかっています。つまり、細胞を一つひとつ不老不死にできても、それがその人間に死をもたらす恐れがあるということなのです」 石川教授は、テロメラーゼを利用してテロメアの短縮を防ぐことができても、それがそのまま不老長寿へつながることは難しいのではないか、という見通しを立てている・といって、石川教授は、テロメラーゼ療法が医学の進歩や長寿の実現に役立たない、と考えているわけではない。 たった一つの方法で、誰もが二百歳まで元気に生きられることが現実になれば、それはそれで喜ぶべきことには違いないだろう・ そこまで欲張らなくても、ハ十代から百歳くらいまでの寿命でも、その年齢まで元気で、仕事もできる社会が実現すれば、それで十分意味があるだろう・ 現在、わが国ではすでに世界一の長寿を実現している。しかし、長生きしているからといって元気とは限らない。痴呆や寝たきりの人が増加し、社会問題にもなってきている。年をとることによる、人間としての活動能力や、また、その結果としての生活の質の変化をグラフに表わすとすると、現在の長寿者のそれは、多くが年をとるにつれ、六十代、七十代あたりから低下のカーブが大きくなっていくだろう・がんや脳卒中、痴呆などの病気があれば、その発症をきっかけに急激に下がってくる・この低下するカーブをもっとなだらかに、あるいは低下を遅らせるようにすれば、若さや元気が保たれ、長寿はもっとすばらしい、実りのあるものになっていく。 つまり、誰もが五十歳、六十歳くらいの若さを保ち、百歳くらいまで生きられることが実現すれば、世の中はおおいに変わるに違いない。 その実現に関して、テロメラーゼ療法は期待できるのだろうか。 長寿の実現を妨げている病気には、前にも述べたように、大きく分けて、がんと動脈硬化性の疾患とがある・さらには、アルツハイマー型痴呆の問題もある。 がんについては、すでに大学病院や総合病院などでは、切除したがん細胞のテロメラーゼの活性(働きの程度)を調べ、その後の治療の参考にすることが行なわれている・たとえば、胃がんを摘出した後、そのがん細胞のテロメラーゼ活性が高ければ化学療法(抗がん剤治療)を行なうし、テロメラーゼ活性が低ければ化学療法は行なわない、などというふうに、その後の治療の指針を立てるのに活用している。 石川教授によると、テロメラーゼ療法のがん治療への応用では、細胞レベルの研究では、初期や中期のがんには効果があるがヽ進行したがんではあまり効果が期待できないという。 「がんは、初期のものは治せるようになってきましたが、末期がんに有効な治療法がないことが問題なのです。ですから、テロメラーゼ療法については、末期がんに効果がないのなら、あまり意味があるとはいえないでしょう」 がんとテロメラーゼの関係については、染色体が変異し、細胞が悪性化していく段階で、テロメラーゼが手を貸していることは間違いないと石川教授はいう。また、がん細胞では一般的にテロメラーゼが長く(テロメラーゼの働きが活発で)、進行がんでは必ずといってよいほど長いが、早期がんでは長くない場合もあるという。 がん治療については、石川教授は、 「テロメラーゼの活性を抑制する遺伝子が発見されることを期待している」という。 がんについては、ほかの治療法として、各臓器・器官別に遺伝子レベルの治療が始まりつつある・また、臓器移植という方法もある・ 動脈硬化については、動脈硬化が起こっている血管の内皮細胞ではテロメアが短縮しているといわれている。テロメラーゼ療法によって、動脈硬化が起こっている部分を改善できるのか。理論的には部分的に治療ができるかもしれないが、動脈硬化は全身的に起こるので、一ヵ所を治療したからといって事足れりとはならないだろう・ ただし、テロメラーゼ療法について、部分的な活用として、次のような利用法は可能になるかもしれない、と石川教授は語っている。 「たとえば、貧血にテロメアが関係していて、造血細胞のテロメアが短くなっていれば、それを体外に取り出し、テロメラーゼを作用させてテロメアを長くしてから体内へ戻すというような方法は可能になるのではないでしょうか」

遺伝子治療の現状

テロメラーゼ療法も遺伝子治療の一つであるが、一般的な遺伝子治療は以前から研究が進んでいる。 わが国の遺伝子治療は、一九九五年に北海道大学で重症の免疫不全症(ADA)の小児に試みられて成功。九八年には、国内二例目として、東大医科学研究所で腎臓病の遺伝子治療が始まった。さらに九九年三月には、肺がんの遺伝子治療も始まった。 また、がん抑制遺伝子であるp53遺伝子を使った肺がんの遺伝子治療の臨床試験も九九年に岡山大学で始まった。p53は細胞の増殖を抑制し、異常な細胞をアポトーシスに導く遺伝子として世界中の注目を浴びている。 現在、一般的に行なわれている遺伝子治療は、遺伝子DNAを薬のように体内に注入して病気を治そうとする方法で、一九九〇年にアメリカで初めて行なわれた。 この方法では、入れる遺伝子を、病原性をなくしたウイルス(ベクター・遺伝子導人物質)に組み込むため、運び役となるベクターの優劣が治療の鍵になる・成否は、ベクターに遺伝子が組み込まれる率と、ベクターが体内の細胞に遺伝子を受け渡す率の二点に左右される・このため、世界中ですぐれたベクターの開発にしのぎがけずられている。 また、免疫力を高めてがんを治そうとする、RNAワクチン療法もわが国で始まった。 わが国では遺伝子治療の申請が相次いでいるが、申請中の計画はほとんどがアメリカで行なわれた研究の二番煎じで、「目的は効果ではなく、安全性試験ではないか」という批判の声もある。 そのアメリカでも、著しい効果があった成功例は、重い免疫不全の数例だけだといわれている。海外では九〇年以降、三〇〇〇人以上の患者に遺伝子治療が試みられている。がんが全体の約七割で、残りはエイズなどであるが、効果があったケースはほとんどないらしい。 そのため、糖尿病で重い合併症を抱えている患者など、慢性疾患を対象にする方向へ転換する動きも見えてきている。

ヒトゲノム計画ー進む遺伝子の全容解明

人間のすべての遺伝子を解読しようという「ヒトゲノム」計画が世界中の大学、研究機関などの協力で進められている。ゲノムとは「全遺伝子のセット」の意味である。 ヒトには、その体の設計図にあたる遺伝子が約五万〜一〇万個あって、それが染色体に組みこまれている。この遺伝子の解読では、欧米の大学や研究機関、米国のバイオ・ベンチャー企業が先行していて、すでに一万個が解読済みといわれている。 わが国では、官民による解読プロジェクトがスタートしてまだ日が浅いが、早ければ二〇〇一年にも、残る九万個の遺伝子が解読される見通しであると報道されている・九九年回一月には、日英米の共同研究チームが、二二番染色体に含まれる遺伝子暗号配列を解読することに世界で初めて成功した。 すべての遺伝子が解読されたらどうなるのだろうか・たとえば、遺伝子によって起こる先天的な病気や遺伝子が関係する病気の治療法の開発に役立つし、治療法が開発されれば病気を根治できる・もちろん、遺伝子が解読されたからといって、すぐに治療法が開発できるとは限らないが、開発される可能性はある。 いったい、どこまで開発されるのだろうか・寿命が延びる可能性もそれにかかっている。寿命に関わる遺伝子に働きかける薬であればヽ最大寿命の百二十歳、さらにそれ以上長生きすることも可能になってくるのだろうか・ 薬は、ある人には効いても、ほかの人には重い副作用をもたらすことがあるが、遺伝子には、細かく見ると、血液型のようにいくつかのタイプがあることがわかってきた。それが特定の病気へのかかりやすさ、薬への反応の違いなどに現われると考えられている。遺伝子解明の成果として、その人の持つ「薬物分解酵素」の遺伝子の型によって、効き方の違いが説明できるようになってきた。これを利用するとオーダーメイドの治療ができるようになるだろう・ わが国では厚生省が一九九九年八月、「オーダーメイド医療」の実現を目指し、来年度予算案の概算要求に基礎研究費として約一三五倫円を盛り込んだ。 二〇〇〇年度から五年間をかけ、遺伝子の塩基配列のわずかな違いを見つけ、その違いが病気の発症や薬の効き方の違いなどとどのような関係があるかを探るのだという・抗がん剤が効きにくい患者を調べ、遺伝子のわずかな違いが薬の効きにくい体質に関係するとわかれば、この遺伝子に違いを持つ患者には別の薬を投与したり、一歩進めて、その人だけに合ったオーダーメイド薬も開発できるようになるはずである・ 研究は、国立がんセンターを中心に、全国の国立大学病院で、患者の同意を得た上で数千人規模で血液を採取、あわせて病歴や喫煙などの嗜好も調査する。研究対象の中心となる病気はがんであるが、糖尿病や心臓病などのように患者数が多く、しかも有効な治療法がない病気も対象にしている。 アメリカでは、遺伝子の違いと病気との関連を明らかにできれば特許取得も可能で、大手製薬企業10社が膨大な遺伝子情報を把握するために事業連合を結成するなどして研究を進めている。

女性ホルモン(エストロゲン)補充療法は若返りの妙薬か?

閉経後の女性の老化を防ぎ、若さを保ち、閉経後に起こりやすい病気・症状を予防する有効な方法が、女性ホルモン補充療法である。女性は閉経後、性器は萎縮し、全身の老化現象が現われてくる・その代表的なものとして、肌の衰え、骨組しょう症、動脈硬化などがある・ エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)などの女性ホルモンは、骨の形成や動脈硬化の阻止に働いている。骨の形は短期間では外見上ほとんど変わらないが、実は骨を溶かす破骨細胞が毎日少しずつ骨を溶かしている。しかし一方では、骨をつくる骨芽細胞によって毎日少しずつつくられてもいる。そして、一年間では約三〇%の骨が新しくつくり替えられているという。 年をとるとともに骨が少しずつ減るのは老化による自然な現象であるが、これが急速に進むのが骨組難症で、骨粗しょう症が閉経期以後の女性に多いのは、エストロゲンの減少が大きく影響している。エストロゲンは破骨細胞の働きを抑える作用があるが、エストロゲンは卵胞で作られるため、閉経によって卵胞の機能が消失すると破骨細胞の働きが抑制されなくなり、骨量の減少が進むのである。 ちなみに男性で、女性の卵巣に相当する精巣(睾丸)では、テストステロンという男性ホルモンが分泌される。テストステロンも、それ自体が骨の減少を抑える上に、一部はエストロゲンに変化する・男性は八十歳くらいまで精巣の機能があるから、骨粗しょう症にはなりにくい。 また、エストロゲンは動脈硬化の防止にも関係している。血液中のコレステロールのうち、LDLが活性酸素によって酸化されると、酸化LDLになる・動脈硬化の発症にはコレステロールが関与しているが、エストロゲンには血液中のLDLの数値の上昇を抑え、LDLが血管壁に沈着するのをブロックする作用がある。 エストロゲンは、悪玉(LDL)コレステロールより善玉(HDL)コレステロールの比率を高め、また、血管の柔軟性を高める働きがある・閉経によってエストロゲンが分泌しなくなると、血液中のLDLの数値が上昇し、動脈硬化になりやすくなるというわけである。 実際、閉経前の女性には、コレステロールが関係する高脂血症や、それが原因の一つになって進む動脈硬化や、さらに動脈硬化が原因で起きる心筋梗塞、脳梗塞などの循環器系の病気は同年代の男性に比べてはるかに少ない。ところが、閉経後は男性と同じようにこれらの病気が発症するようになる。高脂血症にいたっては女性のほうが多いという統計もある。 アメリカでは、五十歳以上の女性の死亡原因の約三〇%は心臓疾患であるが、その発症率は閉経後に三倍に増加するというデータもある。 エストロゲンは卵巣と副腎腺でつくられ、その生産と分泌は脳の視床下部によって調節されている。閉経を境にエストロゲンやプロゲステロンがつくられなくなるが、これを薬のかたちで服用し、補おうというのが女性ホルモン補充療法である。女性ホルモン補充療法は、悪玉コレステロールを下げヽ善玉コレステロールを上げることが確認されている。その結果、冠状動脈疾患や脳卒中などの循環器系の予防に有効であることがわかっている。 もともとは更年期の症状をやわらげるための方法として開発されたが、現在では閉経後の病気や障害、老化を予防する目的でも使われ、むしろ、この目的のほうが中心になってきつつある。 閉経後、何年か経って骨量が減り、老人性膝関節症などの骨の変形性疾患などが起こってからでは、どういう治療を行なっても変形を元に戻すことはできない。そのため、そうならないための予防策として閉経前からホルモン補充療法を行なうことが勧められるようになってきた。 アメリカで生まれた当初のホルモン補充療法は、女性ホルモンのうちでも、合成の卵胞ホルモン(エストロゲン)を服用する方法が行なわれ、若返りの妙薬として広まった・ところが、乳がんを増やすおそれがあるという報告があってから、その是非は専門家の間で議論の的になった。一九七五年には、エストロゲンの服用によって子宮がんの危険性が一四倍にも高まるとの報告がなされ、それを境にこの療法はいっきに下火になった。 一方、エストロゲンで乳がんの増加は認められない、との結果が報告された例もあった。事実、乳がん自体が増加傾向にあった病気であり、特定の事柄との因果関係を解明するのは難しかった・やがてヽこの問題は、黄体ホルモン(プロゲステロン)を併用する方法が生まれて、一応の解決をみることになった。現在では、卵胞ホルモンに加え、黄体ホルモンを合わせて服用する方法が一般的になっている。 この併用療法によって、子宮類がんはかえって抑制される。しかし、ホルモン刺激によって乳房が張ることから、それが刺激になって乳がん誘発の原因になるのではないかという見方もある。さらに卵巣がんについては、抑制、発生のどちらにも影響しないと見られている。 けれども、以前行なわれていたエストロゲン単独の服用に比べると、がん誘発のリスクがはるかに低いことは確かである。功罪を比較すればメリットのほうが大きいことからも、婦人科の専門医の間では、特に家系的に乳がんのリスクのない限りホルモン補充療法を受けたほうがよいと考えられている。 この方法によって、女性ホルモンのバランスがとれ、更年期特有の症状が現われることなく、しかも若さを保つことができるからである。ホルモン状態が正常にコントロールされることで、血中のコレステロールが上がることもない。更年期障害のさまざまな症状、たとえば、ほてり、寝汗、腔の乾燥といった、閉経にともなう障害を抑えることは以前からわかっていた。また、アメリカで12万人の看護婦を対象に十年間調べた結果では、閉経後のエストロゲン投与で心臓病の発症が半分に抑えられたと報告されている。

女性ホルモン補充療法はシミ・シワ予防にも効く

前述したように、女性ホルモン補充療法の主たる目的やメリットは、更年期障害の症状緩和ではなく、閉経後の健康や若さを維持することにある。閉経後の若さ、健康は、すでにわが国の女性の平均寿命がハ十四歳を超えた長寿社会にある今、重要なテーマである。 また、骨粗しょう症は、この節のはじめに述べたように、閉経とともに急速に進んでくる・骨からカルシウムが脱灰し、骨がスカスカになり、家の中で転んだだけで骨折する場合もある。七十歳以上の二五%に圧迫骨折があるとも報告されている。 女性ホルモン補充療法は骨租借症の予防にも有効で、閉経時に服用を開始すると、腰骨の骨折を五〇パーセント減らすことができるといわれている・ もちろん、動脈硬化も骨組しょう症も、閉経後の女性すべてに見られるわけではないがヽ閉経後にそれらが急速に進行する人は、女性ホルモンが分泌しなくなったことの影響が大きいと思われるし、さらに、その背景には遺伝的体質が関係しているとも考えられている。エストロゲンにはまた、皮膚の老化を抑制し、皮膚の柔軟性を高める効果もある。皮膚は表皮、真皮、皮下組織から形成されている・エストロゲンはヽ肌のみずみずしさに関係する皮膚のコラーゲンとヒアルロン酸を保つ働きがある・ 本来、皮膚にはコラーゲンと、弾力組織であるエラスチン、さらに水分がある・それが四十歳を過ぎる頃からコラーゲンの量が減り始め、閉経を過ぎると急速に減ってくる・表皮も薄くなるため、水分は失われ、カサカサし、シワも増えることになる。つまり、皮膚の新陳代謝が衰えてくる。年をとると顔にシミができてくるが、それは皮膚の新陳代謝が低下してくるためである・シミのもとになるのはメラニンという色素で、メラノサイトという細胞でつくられる。メラニンは、真皮の中にある組織が紫外線などによって破壊されないようにするためのバリアの役目を果たしている。 メラノサイトは皮膚の基底層にあり、つくられたメラニンは、周りの細胞(基底細胞)に取り込まれ、細胞分裂を繰り返しながら上層に向かい、角質細胞になる。古くなった角質細胞は垢となって剥がれ落ちる・若い頃は約二十八日の周期で皮膚の新陳代謝が繰り返されるが、肌の回復力が低下すると角質細胞がいつまでも剥がれ落ちずに残り、これがシミとなるわけだ・ 閉経を境にエストロゲンの分泌が減少することで、女性の肌から女性らしいみずみずしさが失われていくが、ホルモン補充療法で補うことで、肌にうるおいやみずみずしさ、若さが保たれる・エストロゲンは、エネルギー代謝を高め、エネルギーのレベルを上げて、皮膚のシワやシミをなくすなど、若々しい外観を取り戻してくれる。また、体内でビタミンEやベータ・カロチンのように老廃物を取り除く働きをする。 このように、女性ホルモン補充療法は体の中から若さを保ち、閉経後にも美と健康をもたらしてくれる・もう一つ、若さを保つには、脳の若さの維持も重要であるが、エストロゲンは脳の若さの維持にも効果があるということがわかっている。 一九九九年四月にも、女性ホルモンのエストロゲンが閉経後の女性の脳の老化防止によい影響を及ぼすという研究報告が、「米国医師会報」に発表された・「USA・TODAY」紙によると、この研究は、エール大学の主任研究員、サリーシェイッツ氏のグループが発表したもので、四六人の女性に簡単な記憶カテストを行ない、高性能の磁気共鳴診断装置(MRI)で脳の働きを調べた。 その結果、平均五十一歳の女性では、エストロゲンを投与されたグループと、偽薬を投与されたグループとの間で、脳の血液の流れに明らかな違いが見られた・エストロゲンを投与された女性の脳は、同様の記憶カテストを受けた若い人の脳と変わらない働きを見せたというのである。 エストロゲンは、アルツハイマー型痴呆の患者の精神活動を高めることや、アルツハイマー型痴呆の予防に有効であると、ほかの研究家によっても報告されている。 南カリフォルニア大学で行なわれた三〇〇〇人を対象にした調査では、長期間エストロゲンを使用した女性では、使用しない女性よりもアルツハイマー病の発症が四〇パーセント少ない、と報告されている・ 「米国医師会報」の記事で、シェイッツ研究員は、「これはすばらしい発見といえる。成熟した大人の脳の働きをまだ変えられるということだから・今回の研究は、年齢とともに低下する思考力や記憶力を維持させたり回復させたりする研究の第一歩になる」と語っていた。 ワシントン大学医学部研究員、スタンリー・バージ氏も、「エストロゲンに脳の老化を遅らせる効果や、アルツハイマー病を予防する可能性があることを公表すべきだ」と述べている。 わが国でも、アルツハイマー病の女性にエストロゲンを投与する治療も一部で行なわれている。軽度の患者では一時的に症状が改善したり、悪化しなかったりする効果はあるが、年単位で見ていくと、やはり多くのケースで進行してくる。予防としての効果は期待できるだろうが、治療となると難しいようである。ちなみに、わが国の研究で、女性ホルモン補充療法は、脳の血流量を増やすことや、アルツハイマー病の危険因子と考えられるアポリポ蛋白の血中濃度の上昇を抑える働きなどがあることが確認されている。 繰り返すが、女性ホルモン補充療法の意義は、ホルモンのバランスを整えて老化を遅らせることにある。年齢的には四十代前半から開始し、十五〜二十年続けるとよいと考えられている。問題は、一人ひとりが長期間継続して行なえるかどうかにある・わが国では、て二年は続けても、結局、その後はやめてしまうというケースが多い。 アメリカでは一九八二年から一九九二年までの約十年間にエストロゲンを服用する女性の数は倍になり、現在では、閉経後の女性のほぼ四分の一がエストロゲンを服用しているといわれている。

成長ホルモン療法が脂肪を減らし筋肉を増やす

私たちの体にはさまざまの種類のホルモンがあり、成長や代謝に関係している。それらのホルモンは、年とともに総体的に分泌が低下し、老化の促進にひと役買っている。 実は、ホルモンの低下が遺伝子DNAのテロメアの短縮に関係しているのではないか、という新しい説がある。 総合ホルモン補充療法を行なっているアメリカのPSLEI研究所所長のエドムンド・チエイン博士の著書(『抗酸化への最先端医療法 死と老いへの挑戦」(株)コスモス)によれば、ある種のホルモンを補充することによってテロメラーゼの働きを促進することは、同博士たちの研究によって明らかになっている、と書かれている。 この「ある種のホルモン」とは、成長ホルモンのことで、同著では次のように述べられている。  「成長ホルモンがもっとも多くのホルモンを刺激することも知られています。その  相互関係は十分に解明されていませんでしたが、アルバニー医科大学(ニューヨーク)では、テロメラーゼがホルモンに依存することが議論の余地がないほどに証明されました。 この研究はヒトの子宮内膜細胞を用いてテロメラーゼとホルモンの相互関係について調べたものですが、閉経前の女性の正常な子宮内膜組織の100パーセントに強いテロメラーゼ活性が示され、閉経後の女性の正常組織の100パーセント は弱い活性しか示しませんでした」(要約)同書ではまた、こうも述べられている。 「科学者がテロメラーゼ酵素を用いる方法を発見するまで、私たちはカロリー制限や抗酸化治療のような健康維持の方法を実践することで、老化という病気を追い出そうとしてきました。しかしいま、老化から逃れ、健康な生活と、活力にあふれた人生を実現するものはホルモン補充療法であると断言できます。ホルモン補充療法こそが、私たちのテロメアをできるだけ若く保持することに役立ちます。そして、ホルモン・バランスと、抗老化のための有効な治療のポイントとなるのが、HGH(成長ホルモン)なのです」(要約)要するに、年をとるとともにさまざまなホルモンの分泌が低下し、体全体のホルモン・バランスが崩れることがテロメアの短縮に関係している。さまざまなホルモンの中で、全体的なホルモン・バランスを保つのに最も重要な働きをしているのが成長ホルモンであり、これを補うことでホルモン・バランスが保たれ、テロメアの短縮を防ぐために一番有効、というのである。 ちなみに、同博士は、老化を防ぎ、若さを保つためのホルモン補充療法として、成長ホルモンのほかに、DHEA、プレグネノロン、エストロゲン、プロゲステロン、テストステロン、メラトニン、甲状腺ホルモン、胸腺ホルモンなどの利用を勧めている・ホルモンがテロメアに関係しているという説に立つと、ホルモン補充療法は老化防止、長寿の獲得に有効と考えられ、中で最も効果が期待できるのが成長ホルモンであるというのである。 成長ホルモンは、脳の下垂体前葉から分泌されるホルモンで、その名のとおり、身長が伸びるのに重要な働きをし、成人よりも子どもで多く分泌され、体が急速に成長していく若い時期に最も多く分泌される・これが不足すると〈小人症〉になり、多過ぎると〈巨人症〉になる。 成長ホルモンは、人間が成長を終えた段階から分泌量が減り始め、十八歳をピークに、五十歳では五〇パーセント、八十歳代では二〇%にまで減少する。その作用は、成長期の骨や筋肉の増強に必要だが、成人になっても肉体の維持のために働き続ける・また、その放出は睡眠と関わっており、夜間、睡眠中に最も多く分泌される。 現在では、治療薬としての成長ホルモンは、ヒト成長ホルモンの細胞のDNAを用いて、遺伝子組み換え技術によってつくったものが使われている。以前は皮下注射をする方法だったが、現在ではスプレー式で口の中に噴霧し、口の中の粘膜から吸収させる方式のものが開発されている。成長ホルモンによる治療に詳しい、ライフクリニックの勝開田宏院長はこういう。 「成長ホルモンの分泌低下は、体重の増加、体内脂肪の蓄積、筋肉量の減少、骨量の減少、運動能力の減退、エネルギー全体の減少に直接結びつくと考えられています。 また、循環器系疾患のリスクの増加、免疫系の衰退、皮膚の乾燥、基礎的な代謝力の低下、睡眠障害、HDLコレステロールの低下、集中力の減退など、さまざまな機能低下や症状をもたらします。これらはいずれも老化にともなって現われる現象そのものです」 その他にも、治療薬としての成長ホルモンは、免疫力を高め、傷の治りを早めたり、カロリーを燃えやすくし、高血圧の抑制やコレステロールを正常に保つ、また、ペニスを増大させ、心臓や肝臓、膵臓、腎臓などを若い状態に戻すことができるとい さらに、勝開田院長はこう語っている。 「成長ホルモンを投与した臨床実験では、脂肪を除く体重の増加と、脂肪の低下、筋力の増加が認められているし、また骨密度の増加傾向も見られたと報告されています。 たとえば、中高年になってから筋力トレーニングをしても、なかなか筋肉がつきませんが、これは男性ホルモンであるテストステロンが不足しているためです。それに対してテストステロンを補うという方法もありますが、使用量を間違えて死に至るケースもあります。それが成長ホルモンによっても同様の効果が得られます。さらにヽ効果としては、シワの防止や、記憶力の回復などが挙げられます」 成人になると成長ホルモンの分泌が減少し、そのことがさまざまな生活習慣病の発症に関係していると考えられるがヽ因果関係は完全には解明されていない。成長ホルモンの低下は、年をとることにともなう脂肪の蓄積にも関係すると考えられるが、食事の量を減らしても、なかなか体重が減らないケースが少なくないのもこのためだろ 体の脂肪を減らすには、運動をして筋肉をつけることが重要であるが、年をとると筋肉がつきにくい。実際、中年からは、とくに男性に、肥満に高脂血症、高血圧、糖尿病をともなうケースが多い。 こういった老化にともなう症状に対抗するには、生活改善だけでは追いつかない場合が多い。それが、成長ホルモンを補うことで、体が若く保たれ、それらの症状が予防・改善できるというのである。このことからも、成長ホルモン補充療法は、医薬品を利用する老化防止の最も効果的な方法であると考えられる・ ただし、これだけ効果的な薬物療法であるから、乱用は危険であり、戒めるべきであろう。アメリカでは、ボディービル目的で成長ホルモンを使用することは禁じられている。また、成人になってから使用しても成長が進むということはない。 ちなみに、「死と老いへの挑戦」には、スウェーデンのゴテポーグ大学病院の研究の結果として、「成長ホルモンは、乱用または過剰に使用しない限り、長期に使用しても副作用をもたらすことはない」との報告が紹介されている。しかし、乱用すると、心臓の肥大、充血性心臓麻痺をもたらすほか、男性では糖尿病や骨粗しょう症の発症につながるという。 欧米では、老化にともなう病気の予防や改善にこの成長ホルモン補充療法が行なわれているが、わが国では認められていない。個人輸入して使用するしかないが、必ず医師の指導のもとに使用することが望まれる。

抗酸化療法が最善、確実な方法

ここでもう一度、人の寿命は遺伝子によってプログラムされているのか、という問題を持ち出したい。前にも述べたが、早老症など特定の疾患では、たった一つの遺伝子が老化や寿命を決定していることがある。 けれど、多くの場合、たった一つの遺伝子が寿命を決めることはない。数多くの遺伝子が関わっていることは明らかである。しかも、遺伝的に特定の病気の素因があっても、食事などの生活習慣を変えることで病気を防ぎ、老化の進行を遅らせ、それが長生きにつながることは、食事などの生活と病気や寿命の関係を調べた疫学的調査の結果からも明らかである。 もっとも、たった一つの遺伝子を操作することによって、誰もが健康で、若さを保ち、しかも二百歳まで生きられる時代がくれば、それはそれですばらしいことに違いない。けれど、それが実現しないからといって、悲観することもないだろう。 最先端の医学研究によって、老化や寿命について、さまざまなことが明らかになってきた・老化防止、長寿のために、それら最先端の医療を受けるのもよいし、食事・栄養面などで個人レベルで努力するのもよいだろう。また、あるがままに年をとればよい、あえてそれに逆らうことはしたくない、と考えるのなら、それも個人の自由であるが、個々人の生き方に合わせて自分の希望を選択できることに先端医学の恩恵があると思われる・ 前述のように、テロメア、テロメラーゼを利用する方法の研究も進んでいるが、老化を予防し、長寿を期待できる方法として、現時点で誰もが実行でき、しかも確実に効果が得られるものというと、抗酸化療法ということになるだろう・石川冬木教授は、こういう見解を示している。 「人間は、その最大寿命と考えられている百二十歳を超えることはできないのではないでしょうか。 普通は長生きをしても八十歳くらいです。病気でみると、主なものに、がん、動脈性の疾患、老化にともなう免疫不全による肺炎があります。 百歳を超えて生きるには、これらの病気をすべてクリアする必要があります。では、百歳まで生きられる人と、生きられない人とでは何が違うかというと、一つの遺伝子が決めているわけではありません。がん、動脈性の疾患、免疫不全ともに、それぞれ別の遺伝子が関係しているはずです。 テロメアに関しては、長い人と短い人がいますが、遺伝子に原因があるのかもしれません。また、長寿の人は、遺伝的、体質的に活性酸素がつくられにくいのかもしれません。 遺伝子の関係もありますが、計算上で120歳まで生きられるはずなのに、多くの人が長生きしても80歳程度であるのは、生活習慣などによって細胞に誤り(傷)が蓄積するからです。その最大の原因が活性酸素です。喫煙習慣や過剰に日光に当たることなどは、体内に活性酸素を増やすもとになり、細胞分裂の回数を無駄使いすることになります。積極的な方法としては、抗酸化作用のある食べ物をよくとるようにすることが重要です。そういったことを、しっかり認識しておいてほしいと思います」

抗酸化療法と長寿の食卓

自分で実践できる抗酸化療法
現在、老化を予防する方法で、自分で実践でき、確実に効果が得られるものが抗酸化療法である。これはつまり、老化の最も大きな原因と考えられている活性酸素を消去する作用のある抗酸化物質を摂取し、老化防止、長寿の実現に役立たせるものである。
活性酸素を消去する作用がある栄養素の代表的なものに、各種ビタミンがある・ビタミンやミネラルを、それらを抽出した栄養補助食品製品(サプリメント)で摂取する方法はアメリカで始まり、広まり、最近ではわが国でも実行する人が増えてきた。
ビタミンには、次のような抗酸化作用があるものが多い。

◆ビタミンC
抗酸化作用がある代表的なビタミンが、ビタミンC・活性酸素による細胞の損傷を防ぐ働きがある・それ以外にもさまざまな働きがあり、免疫システムでも重要な働きをする。免疫システムの主役は血液中のリンパ球であるが、ビタミンCはリンパ球の生産を刺激、促進し、その数を増やす。また、血液中の免疫細胞の働きを活発にし、免疫細胞がウイルスや細菌、がん細胞などを食べて排出するのを助ける。 一定量のビタミンCを服用した高齢の人では免疫の向上が認められており、また、心臓病などによる死亡率が四〇%低くなったという報告もある。 ビタミンCには、このほかにたくさんの作用があり、風邪からの回復を早くすることはよく知られているし、ストレスから心身を守るのにも役立つ。体全体の組織がうまく発育したり、修復したりするために欠かせないピタミンなのである。 ビタミンCは植物性食品に含まれ、グレープフルーツ、ミカン、パセリ、ブロッコリー、キャベツ、ニガウリ、シシトウ、レモンなどに豊富・ ビタミンCは水溶性なので、体で使われない余った分はすべて尿中に排出されるがヽサプリメントで大量に摂取すると、結果的に体内に活性酸素を発生させることにもなる。

◆ビタミンE
ビタミンEが欠乏すると、神経系および筋肉系が障害を受ける。体内でのビタミンEの主な役割は、活性酸素の害を防ぎ、免疫を強化することである。このため、ビタミンEが不足すると、老化が進み、寿命が短くなる。 抗酸化作用はビタミンCよりも強力で、さまざまな抗酸化物質の中でもトップランクと考えられている。ビタミンCと異なるのは、ビタミンEが脂に溶ける脂溶性であることで、そのため吸収率はCに比べて劣る。また、肝臓に高濃度に貯蔵されるので、過剰に摂取するとよくない。 ビタミンEは、動脈硬化にもよい影響を与える・動脈硬化症の患者に対し、ビタミンEの錠剤を投与している病院もあり、それによって「すでに酸化してしまったコレステロールを再び中和することも可能」というデータもある。 心筋梗塞が多いアメリカでは、心筋梗塞の発作がビタミンEの服用によって七七%も減ったというデータもある。動脈硬化対策としては、ビタミンCには高血圧を改善する作用があることから、EとCを併用したらよいと考えられている。 ビタミンEは、年をとるほど体内の量が少なくなるため、若い人よりも高齢者のほうがより必要なことがわかっている。 天然のビタミンEには八種類があるが、最も重要なものがトコフェロールで、そのうちのアルファ・トコフェロールというビタミンEの亜型は自然界に広く分布しているビタミンE化合物である。 最も理想的なのは、自然の食品や栄養源から摂取することで、純粋な物質として摂取するにはこの方法以外にない。 ビタミンEを多く含む食品には、アーモンド、小麦胚芽、あんこうの肝、ナッツ、ヒマワリの種子、うなぎ、鮎、たらこ、あじ、松の実、あこう鯛、きんかん、ピーナッツ、ししやも、ほたるいか、西洋カボチャ、はまちなどがある・ ビタミンEの作用は、体内のセレンの濃度と密接に関係している。セレンは、ビタミンEの重要な補助因子であり、このことからビタミンEとともにセレンも十分に摂取することが必要といえよう。 ちなみに、沖縄の長寿者の血液中のビタミンEの量は、ほかの地域に比べて多いという報告もある。

◆セレン
かつて、アメリカ西部の土壌中にセレンが多く、牧草にも含まれ、家畜がこれを食べてセレン中毒を起こしたことから、セレンは有害金属と見なされていた。しかし、一九五七年に肝細胞の壊死(組織の一部や細胞が死ぬこと)がビタミンEやセレンで防げることが発見され、必須金属(必須ミネラル)として認められることになった。 セレンは、私たちの体に多くの作用を及ぼす重要なミネラルで、体内に6〜21ミリグラム存在する。不足すると、がん、心臓障害、肝臓障害、筋ジストロフィー、関節炎、炎症、老化が早まる、といったリスクが高くなる。 そして今、セレンは、活性酸素を分解する酵素のグルタチオン・ペルオキシターゼを働かせるのに欠かせないミネラルであることから、重要な抗酸化物質とみなされている。また、セレンには、活性酸素を捕まえて排出するビタミンEの働きを高める働きもある。そのほかにも、抗がん作用のほか、蛋白の合成、消炎、重金属と結合し排泄する、前立腺の健康を保つなどの作用がある。このほか、甲状腺ホルモンの働きを高め、さらには、全身の免疫系を改善し、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患のリスクを減らす働きもある。 私たち日本人は、比較的多くセレンを摂取しているが、水銀が多い魚を食べている人では、セレンが水銀の中和に消費されるので必要量が増える。 セレンを多く含む食品には、毛がに、ほや、かつお、鰻、さわら、あじ、まぐろ、たらこ、帆立貝、うるめいわし、ししやも、すじこ、どじょう、いかなご、ほたるいか、さんま、牡蛎などがある。

◆ベータカロチンとビタミンA
古代ギリシアでは、夜間、視力が落ちる人に牛のレバーを食べるように勧めていた。1910年代に、卵黄やバターの中にラットの成長を促す栄養素が発見され、これを脂溶性Aと呼んでいたが、その後、ビタミンAと名づけられた。 ベータ・カロチンは、植物がつくる色素のカロチノイドの一種で、カロチノイド類は六〇〇種類くらい発見されている。植物がつくったベータ・カロチンを動物が食べると、体内でビタミンAに転換される・ビタミンAに変わるカロチンは五〇種類くらい知られているが、ベータ・カロチンが最もその力が強い。べー夕・カロチンなどのカロチノイド類は、野菜や果物などの植物性食品に多く含まれる・水に溶けるので、体内への吸収はよい。 一方、ビタミンAは脂肪の豊富な食品に多く含まれる脂溶性のビタミンであるから、脂肪と結合した状態でなければ体内へ吸収されない。 ビタミンAが多い食品には、うなぎ、鶏レバー、豚レバー、牛レバー、銀だら、あんこう肝、ほたるいか、レバーソーセージ、はも、鰻肝などがある。ベータ・カロチンを多く含む食品には、干し岩海苔、ニンジン、小松菜、ふだん草、マンゴー、ほうれん草、春菊、よめ菜、菜の花、からし菜、大根葉、パセリ、ひじき、明日葉などがある・ ビタミンAは、最も用途の広いビタミンの1つと考えられており、その役割は、たとえば、細胞膜を安定させる、副腎がコルチゾールという抗炎症性ホルモンをつくるのを助ける、甲状腺からの放射性サイロキシン(甲状腺ホルモンの一種)を正しく分泌させる、神経細胞の状態を良好に保つ、免疫システムの反応を助ける、赤血球をつくるのを助けるなど、さまざまある。 食品から摂取する場合は、ベータ・カロチンの形でとるのが効率がよい。しかし、ベータ・カロチンを摂取しても、体内でビタミンAにうまく変換されないケースもある・動物実験では、ビタミンAへの変換には、ビタミン、S(ナイアシン)、S(パントテン酸)とメチオニンを必要とすることがわかった・白米と野菜が中心の食事では、これらの栄養素が不足しがちになり、そのためビタミンAに変換されにくい。 ちなみに、かつてベータ・カロチンは、肺がんを予防すると考えられていたが、ベータ・カロチンのサプリメントによる実験では、喫煙者またはアスベスト(石綿)にさらされている人たちの肺がんに対する予防効果は証明されなかった・ この実験は、通常、食品から摂取する量よりはるかに多い量をサプリメントで摂取させている。しかし、このことは、サプリメントで大量に摂取することが危険であることを示しており、ベータ・カロチン自体が肺がんの予防に無効といいきることはできないだろう。

◆フラボノイド類
フラボノイド類は、植物に含まれる濃い色の色素で、柑橘類の果皮や果実、野菜、ナッツ類、種子、穀類、豆科植物、茶などにも含まれる。たとえば、ブドウ、ナスなどの色の濃い植物、花などの発色している部分にも含まれている。 ほかにも、ミカン、オレンジ、レモンなどの柑橘類の果肉部分、大豆、ブルーベリービール、ワイン、コーヒーなどにも含まれ、日本茶やソバにもフラボノイド類が豊富に含まれている。 フラボノイド類にはたくさんの種類があり、よく知られているものに、イチョウの葉に含まれるフラボノイド、緑茶のカテキン、タマネギのクエルセチン、ブドウの皮のアントシアニン、大豆のイソフラボン、紅茶のテアフラビン、赤ワインに多いポリフェノールなどがある。これらはみな、広義でのフラボノイド類に分類されている。 この中で、フラボノイドはビタミンではないが、ビタミンPと呼ばれることもある。一九三六年、モルモットのビタミンC欠乏症には、ビタミンCを単独投与するよりレモンの抽出エキスを一緒に投与したほうが治療効果が高いことが発見された・後にレモンからその有効成分が抽出され、ビタミンPと名づけられた。 イチョウ葉のフラボノイドはとくに抗酸化力がすぐれていることで知られ、イチョウ葉のエキスは、欧米では脳卒中や老人性痴呆症などの薬として盛んに用いられている。また、近年は、赤ワインに多く含まれるポリフェノールが善玉コレステロールを増やし、動脈硬化を予防するすぐれた効果があるとわかり、赤ワインブームがわき起こったことは記憶に新しい。
緑茶に含まれるカテキンも注目されているが、抗酸化作用はビタミンEの五〇倍もある。また、日本人になじみのある食品では、大豆の効用が見直されている。大豆には、抗酸化物質があるイソフラボンが含まれているほか、大豆エストロゲンが女性の骨粗しょう症などに非常に有効で、世界的にも注目されている。

フラボノイド類の作用には主に次のようなものがある。
1.活性酸素を消去する
2.毛細血管を丈夫にし、その透過性が高まるのを抑える
3.ビタミンCと共同で結合組織を健康に保つ
4.ビタミンCが酸化され、壊れるのを防ぎ、ビタミンCの効果を高める
5・更年期に起こる体のほてり、のぼせを緩和する

そのほか、ウイルスを撃退する、腫瘍ができるのを防ぐ、炎症を抑えるなどさまざまな働きがある。
フラボノイド類が不足すると、高血圧、動脈硬化、脳出血、歯茎の出血、鼻血、
、痔、紫斑病、習慣性流産、分娩後の過度の出血、皮膚障害、糖尿病性網膜症、重い月経などの発症に関係すると考えられている。
フラボノイド類は、先に述べたような植物性の食品に含まれるが、ビタミンCと助け合って働くことから、両者を合わせて積極的に摂取することが望ましい。

◆SOD酵素を強化する食品
スーパー・オキシドージムスターゼ(SOD)は、体内で合成される強力な酸化防止酵素のことである。
活性酸素などによる酸化が体内で進むと、それに応じて体内でのSODの濃度も高まる。しかし、SODをつくる能力は年をとるにつれて弱まるので、SODと同様の働きをする栄養素を積極的に摂取することが大切である。
体内でつくられるSODには、銅やマンガンなど多くのビタミン、ミネラルが複合体の形で含まれている。このSODが、免疫のシステム、細胞、神経系など、体のさまざまなところで重要な働きをしている。 SODは、酸素を利用する生物内に存在しており、酸素と接触する細胞にとって、欠かすことのできない強壮剤といえよう。酸素とさまざまな還元反応によって体内では活性酸素がつくられるが、その害を除去するのにSODは欠かせない。 SODの働きを最高のものにするには、SODがつくられるのを助けるものを体内に補給しないといけない。つまり、亜鉛、銅、マンガンといったミネラルを摂取することが必要となる。 SODは、別の酸化防止酵素と一緒に作用することがありヽともに体内のビタミンEの抗酸化作用を保ち、強化する・ SODの欠乏は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を引き起こすことが知られている・これは神経系が萎縮していく病気で、これだけでも抗酸化物質とSODの補給が必要だとわかる・ 要するに、SODは体内に存在し、さまざまな器官、神経、筋肉、細胞の保護に役立つ・食事でSODを摂取することはできないが、SODをつくるための栄養素を摂取することはできる。体内にたくさんSODをつくるために、亜鉛、銅、マンガンをはじめとするミネラルやビタミンを含む食品を積極的に食べるようにするとよいし、これらの栄養をサプリメントで補給する方法もある。

マルチビタミン・ミネラル剤などで数多くの抗酸化物質を摂取

以上挙げたように、抗酸化物質といわれるものには、ビタミン、ミネラルをはじめさまざまなものがある・問題は、何をどのように摂取するかであろう。 抗酸化物質といわれるものは、昔からの日本的な食材に非常に多く含まれている。穀類、イモ類、豆類、キノコ類、魚、海藻類などを多く用いる、いわゆる和食は、抗酸化物質の宝庫で、こういう内容の食事であれば活性酸素対策は十分可能である。しかし、今日では一般的に食事は洋風化し、抗酸化物質が不足する傾向が顕著になってきた。 そこで、栄養補助食品としてのサプリメントの利用が必要、という考え方が生まれてきた・では、さまざまある抗酸化物質のうち、何と何をどれくらいの量を摂取すれば適当なのだろうか。 アメリカの分子栄養学の専門家などは、一つひとつの成分について服用量を決めている場合もある。また、一人ひとりの条件、つまり、過去の病歴や現在の病気に応じて、必要な栄養素の必要な量を示している場合もある・しかし、活性酸素の害を防ぐためとなると、何と何の成分をどれだけの量を摂取すればよいかという基準はない。とくにヽわが国では、栄養学を治療に取り入れている医師は少なく、その点、アメリカなどに比べて遅れている。 いちばん安全で最も効果的な方法は、マルチ・ビタミン・ミネラル剤のように多種多様な栄養素を含んでいるサプリメントを服用することであろう。 かつて、米国国立がん研究所が、「がん予防に効果が期待されているベータ・カロチンの栄養補助食品は、効果がないだけでなく、肺がんのリスクを高める」と発表して話題になった・ 同研究所は、全米二五〇〇人の医師(平均年齢五十三歳)を対象に、ベータ・カロチンのサプリメントを毎日飲むグループと、飲まないグループに分けて十四年間にわたって追跡調査をした・その結果、がんと心臓病の発症率に差はなかった。 そればかりか、その調査の一環で、喫煙者やアスベストに関わった約一五〇〇人 (平均年齢五十八歳)を対象にした調査では、ベータ・カロチンの効果について否定的な結果が出た。ベータ・カロチンとビタミンAを毎日服用したグループのほうが、両方とも服用しなかったグループに比べ、肺がんの発症率が27%も高く、死亡率も17%も高かったのである。 この研究では、アメリカ人が通常の食事から摂取する量の6〜10倍もの量のべータ・カロチンを摂取させたという。ベータカロチンやビタミンCには抗酸化作用があるが、単一のものとして大量に摂取すると、活性酸素を大量に発生させることになる。 活性酸素には、いくつかの種類がある・活性酸素は酸素が物質と結びつく酸化反応によってつくられるが、それが還元されるとき、別の種類の活性酸素がつくられる・だから、抗酸化作用がある特定の栄養素をサプリメントで大量に摂取すると、結果的に多くの活性酸素を発生させることになってしまう。 実際の方法としては、現在では、一種類の栄養素を大量に摂取するよりは、なるべく多くの抗酸化物質をバランスよく摂取するほうが効果があると考えられている。さまざまな抗酸化物質を同時に摂取することで、マイナス面は捕われ、しかも抗酸化作用が高められると考えられているのである。 実際の方法としては、さまざまな食品を幅広く食べるようにして、各種のビタミン、ミネラルをバランスよく摂取するとよいし、不足しがちなものを捕うためにはマルチ・ビタミン・ミネラル剤といわれるものを利用するとよいだろう。 ビタミン、ミネラル剤には天然のものや天然型といわれるもの、さらには化学的に合成されたものがあるが、吸収率では天然がいちばんすぐれている。わが国でもつくられているが、天然で、しかも吸収がよいものはアメリカの製品に多い。

DHEAは痴呆、ダイエットにも効く

DHEAは腎臓の上にある副腎から分泌されるホルモンの一つで、その分泌は二十歳をピークに、その後は徐々に低下し、七十代ではピーク時の10〜20パーセントになる・ DHEAとは、どういうものなのだろうか。人間の皮膚以外の細胞はすべて体液に包まれている。DHEAは、その体液を正常に保つために必要なもので、ナトリウムやカリウム、カルシウム、マグネシウムなどといったミネラル・バランスを正常にする作用がある・ナトリウムなどの多くのミネラルが体液として細胞を潤しており、ペーハー(pH)七・四の弱アルカリに保たれている。 このバランスが少しでも崩れると人間は死んでしまう・DHEAは、この細胞内のミネラル・バランスを正常に保つことに働いている。 DHEAの作用には、免疫力の強化、がんの抑制、高血圧の抑制、アルツハイマー型痴呆や骨組しょう症の予防、インスリンヘの感受性を高めて糖尿病を抑制する、などがある・ また、脳細胞を若々しく保つため、フレッシュな精神力と決断力、ボケの予防にもよい。食欲を抑える作用もあることで、エネルギー摂取を控えさせ、同時にエネルギー代謝を促進、脂肪を燃えやすくすることでダイエットにもなるという。 現在、DHEAは、米国食品医薬品局(FDA)の認可を受け、アメリカでは一般の薬局で処方箋がなくても購入できる。わが国では現在、薬として認可されていないため、個人輸入して使用するしか方法がない。

クロム(クロミウム)が体脂肪をすみやかに減らす

ダイエットの栄養補助食品としてアメリカで大ヒットしたものに、クロム(クロミウム)がある・すでにアメリカではサプリメント市場の一分野を築くほどになっており、約1,000万もの人が使用し、カルシウムを抜いてミネラル系の栄養補助食品の代表格になっているといわれている。 アメリカ・ミネソタ州立大学でウエイト・トレーニングのクラスに入会してきた新入生を対象にした実験でも、それは証明されている。 「だたかわないダイエット」(丸元淑生著、マガジンハウス)によると、実験は、学生を二つのグループに分け、一方にはクロムを一日に200マイクログラム摂取してもらい、他方には偽薬を服用してもらった。六週間、その方法を続けた結果は、クロムのグループは平均で筋肉が1.6キログラムついたのに対し、偽薬のグループは五四・五グラムしか増えなかった。 また、脂肪は、クロムのグループが三・四キログラム減少し、偽薬のグループは〇・九キログラムしか減らなかった。筋肉と脂肪の増減を差し引きすると、クロムのグループは体重がハキログラム減り、偽薬のグループは〇・八キログラム増えたと述べられている。クロムは、自然の食品の中にごく微量であるが含まれている。クロムを多く含む食品には、玄米(米ぬかや胚芽の部分)、イースト菌、海藻、乾魚、オレンジ、グレープフルーツ、ハーブ植物のタイムなどがある・日本人の現代の一般的な食生活では、こういう食品を食べる機会が減ってきているため、クロム不足に陥りやすい・ クロムが不足すると、肥満、高コレステロール、動脈硬化、糖尿病、精子数減少、角膜混濁、低体重児の出産、疲れやすい、スタミナ不足、不安、などを起こしやすい。 クロムは、肥満や糖尿病、動脈硬化など、複合して進む病態をトータルに改善するのに非常に有効であることがわかっている。 糖尿病は、血液中にブドウ糖が過剰にある状態で、つまり血糖値が高くなる。その理由としては、先天的にインスリンがまったく分泌しないケースがあるが、これはごく一部にすぎない。 糖尿病の大半は、膵臓からのインスリンの分泌が不足している場合と、分泌はしているが末端の組織でインスリンの効きが悪い場合で、日本人の場合、生活習慣病としての糖尿病としては後者が多くを占めている。 肥満がインスリンの効きを悪くすることは、今では一般の人にも比較的知られているが、インスリンの効きが悪いと、体脂肪が余計につくられ、コレステロールも高くなることは意外に知られていない。だから、肥満と糖尿病が重なると悪循環になり、ますます肥満がひどくなる。このことからも、糖尿病の治療は体脂肪を減らすことを第一の目的にしているのは理にかなっているといえよう。 それに対して、クロムは、すみやかに体脂肪を減らし、筋肉がつくのを助け、血中コレステロールを下げヽ血糖値を正常に保つことが証明されている。今日、多くの人が肥満しやすく、疲れを訴え、糖尿病や心臓病に悩むのは、クロムの不足が一因ではないかと指摘する専門家もいる。 ところで、なぜ太るかというと、摂取するエネルギーが消費するエネルギーを上回るからである。余ったエネルギーが脂肪(体脂肪)になって蓄積し、肥満になる。炭水化物や脂肪など、摂取したものが体脂肪となってたまる道筋にはいくつかあるが、クロムは糖質が体脂肪に変わるのを抑制する作用があると考えられている。 糖質は、消化・吸収されてブドウ糖の形で血液中に入る。血液中のブドウ糖はインスリンの働きによって筋肉細胞か脂肪細胞に取り込まれる。体のエネルギーが不足していれば筋肉に向かい、活動のためのエネルギーとして使われる・エネルギーが足りていると、脂肪細胞にためられる・つまり、脂肪に変わってしまう。 ブドウ糖が細胞に取り込まれるには、まず、インスリンが筋肉や脂肪にある受容体 (レセプター)と結びつかなければならない。 ところが、太っている人は、インスリンに応答するレセプターの感度が鈍くなっていて、ブドウ糖を取り込みにくくなっている。取り込む能力が極端に低下すると、血液中にブドウ糖があふれるが、この状態が糖尿病である。 肥満の人は、とくに筋肉細胞のレセプターの感度が悪い。そのため、摂取した糖質は筋肉細胞よりも脂肪細胞にたまりやすい。同じ食事をしても、太っている人は代謝の面から脂肪がたまりやすい体になっているのである。 クロムの薬理作用に詳しい、ライフクリニックの勝開田宏院長によると、クロムには次のような作用があるという。 「体のエネルギー源である糖や脂肪は、食事によって、いろいろな食品から得られます・そして、腸から吸収されたそれらの栄養素は血液中に取り込まれますが、一定量を超えると、細胞が受け取る仕組みになっています。細胞には、受け取るためのレセプターと呼ばれる扉があり、老化などの原因でその扉がうまく働かなくなると、さまざまな病気を引き起こします。 インスリンが分泌されているのに血糖値が高くなるのも、その扉が壊れていて、インスリンがうまく細胞に取り込まれないからです。これまで、糖尿病の治療は、インスリンをコントロールすることのみに専念してきましたが、それでは根本的な治療になりません。 クロムには、壊れた扉を修復し、細胞がもともと持っていた扉の数を取り戻す作用があり、インスリンのレセプターの感度を高めます。脂肪細胞よりも筋肉細胞の感度を高めるように作用します。つまり、食べた糖質を脂肪ではなく、筋肉のエネルギーになるように仕向けるので、脂肪を解消し、筋肉をつけ、しかも血糖値を下げるのに効果を発揮するのです。 ですから、中高年で、肥満で糖尿病がありヽしかもコレステロール値も高いという人には、動脈硬化や、それによる心筋梗塞、脳梗塞などの予防に、クロムはトータルに役立ちます」 糖尿病、肥満、高血圧、高脂血症が揃うと、「死の四重奏」といって、動脈硬化から狭心症、心筋梗塞などの冠状動脈疾患や脳卒中などの循環器系の重大な病気が発症するリスクが高くなる。これらは互いに影響し合って進行していく。 肥満で問題になるのは体脂肪である。体脂肪を減らすには運動することが大事・しかも、適度に筋肉がつくと、代謝がよくなり、炭水化物や脂肪の燃焼を高める。そして、運動をしなくても筋肉をつけ、体脂肪を減らす効果があるのがクロムで、クロムはダイエットの理想的なサプリメントであるといえよう。とくに、基礎代謝が低下している中高年から上の世代や、肥満の人にとって有効といえる。 アメリカのクロムの栄養補助食品は、ピコリン酸クロムの形で含まれているが、わが国では薬事法でピコリン酸が規制されているため、栄養補助食品として販売することはできなかった。
しかし、九九年から食品として解禁になり、サプリメントのクロム酵母として販売されている。前述したように、日本人はクロムが不足していると見られており、厚生省も栄養所要量として、クロムの所要量を決める作業を進めている。

世界の長寿者の食事

世界各国の長寿地域や短命地域の食生活を調べることからも、長寿の秘密が解明されてきた・ 京都大学大学院人間・環境学研究所の家森幸男教授(専門は循環器)のグループはヽ世界のさまざまな長寿、短命地域の食生活を調査し、長寿の地域には共通の因子があることを突き止めた。 長寿の秘訣を解明するには、老化のメカニズムを知らなければならない。老化のメカニズムの中でいちばん原因がはっきりしているのが循環器系の病気であることからヽ同教授のグループは、血管の老化のメカニズムを解明し、動物実験によって血管の老化を確実に予防する方法を突き止めた。 この実験には、同グループが作り出した、遺伝的にI〇〇パーセント脳卒中を起こす実験動物の「脳卒中易発症ラット、別名・脳卒中ラット」が使われた。このラットをつくるために、なんと十年以上の歳月を要したというのである。 この脳卒中ラットを使った実験で、さまざまなことを解明することができた。一つは、食塩が高血圧の原因になり、それがひいては脳卒中や心筋梗塞を起こすもとになるということである・一方、食塩を制限して、良質の蛋白質や食物繊維、さらにカリウムやマグネシウムなどのミネラルを与えると、遺伝的には100パーセント脳卒中を起こすはずのラットでも、脳卒中を起こさず、健康で長生きし、天寿をまっとうすることもわかった・遺伝的素因を持っていても、食物によって脳卒中の発症をコントロールできることが確認できたのである・ また、以前は、ヨーロッパでは、脳卒中の原因は、脂肪の取り過ぎで血中のコレステロールが高くなるためというのが定説だった。一方、わが国では、血液中のコレステロール値が低い秋田県では脳卒中が多く、比較的高い大阪府では脳卒中が少ないという、ヨーロッパとは逆のデータが報告されていた。 これについても、脂肪分の少ない食事をラットに与え続けると脳卒中が増えるという結果が得られ、事実関係が確認できた。しかし、これらはあくまで動物実験の結果であり、同じことが人間に当てはまるかどうかはわからない。といって、人間を相手に同様の臨床実験を行なうわけにはいかない。しかし、幸いにして、地球上にはさまざまな民族がいて、食事もバラエティに富んでいる。そこで、世界各国の食べ物と、それを食べている人たちの血管と病気の関係、そして寿命との関係を徹底的に調べてみたらどうか、ということになったというのである。 同教授のグループは、世界の人々と健康、長寿との関係について実地調査をするWHO循環器疾患予防国際共同研究を一九八五年にスタートさせた・以来、実に十年間にわたり、二五カ国六〇地域をフィールド・ワークした・その結果、さまざまなことが明らかになってきた。家森教授によると、「世界各地域の伝統的な食事の中には、遺伝子を超える知恵がひそんでいる」というのである。 長寿の典型的な例として、旧ソ連、黒海とカスピ海にはさまれたコーカサス地方は、長寿地域として世界中に知られているところ。百歳以上の高齢者がいきいきと暮らしており、長寿の里といわれている。このコーカサス地方でもとくに長寿の人が多いといわれているのがグルジア共和国である・ この国の農村の食事は、野菜、果物がびっくりするほどたくさん出てくる。主食はトウモロコシで、果物、野菜をたくさん食べ、さらにョーグルトを朝昼晩と飲む。食塩の摂取量は多いが、塩の害を打ち消すカリウム、食物繊維を含むプドウやプルーンなどの果物を大量に食べている。 ヨーグルトは自家製で、どこの家庭でもつくっており、いつまでも腐らないで良い菌だけを腸内に残すという。肉は、串焼きにしたり、ゆでたりして、脂肪を上手に落として良質の蛋白質をたくさん摂取している。こうした食事が高血圧を防ぎ、長寿に結びついていると考えられた。実際、グルジアでは心筋梗塞などの血管の病気が少ないことが確認できた。また、高血圧であっても、とくに病気といえる状態ではなく、元気に暮らしている人がいることもわかった。さらには、年寄りが尊敬され、大家族で暮らし、社会や家族の中で大切にされていることも、長寿の理由の1つとして同教授は挙げている。 南米のエクアドル共和国のビルカバンバも、コーカサスと並ぶ長寿の村として有名なところである。ここはコーカサスからは地球の反対側といっていいくらい離れているが、食生活に共通点が見られた。一年を通して果物や野菜が豊富で、また、ミルクがいつでも手に入るし、ケソというチーズをつくって食べていることも共通していた・ミルクやチーズは塩の害を打ち消すことができる。 主食もコーカサスと同じトウモロコシで、ほかに、ユッカというイモも主食にする・ビルカバンバで検診を行なった結果は、八〇人のうち高血圧はたった一人しかいなかった。しかし、その後、ビルカバンバが長寿の里で、ビルカバンバに来れば心臓死がなくなるという噂を聞いて、都市のロハからお金持ちが大挙してビルカバンバにやって来たため、同教授のグループが二度目の調査に行ったときには高血圧の人が増えていた。 都会の人は西欧化した暮らしをしており、西洋スタイルの食事をするため、脂肪や塩分が多い。そのため高血圧の人が増えることになる。こういう傾向は世界のどの地域でも見られた、と家森教授は報告している。 また、ハワイの沖縄県人会の日系人を調査したところ、七十歳以上の人たちの健康状態は良く、脳卒中を起こした人も寝たきりの人も少なかった。食生活では、食塩の摂取量が少なく、しかも、塩の害を抑える栄養素を十分にとっていた。果物や、沖縄から持ち込んだニガウリなどの野菜などをよく食べるが、これらの食品には、食塩のナトリウムの害を抑えるミネラルが豊富に含まれている。 蛋白質の摂取源としては、魚をよく食べ、沖縄豆腐などもよく食べていた。肉も同じくらい食べていたが、ゆでこぼしなどの沖縄伝統の調理法を行なっていて、脂肪を過剰に摂取することが避けられていた。 沖縄は世界的な長寿の地域として、世界の研究者から注目されている・沖縄の伝統的食事は長寿食とみなされているが、ハワイに移民した沖縄の人たちの間では、異国の地にあっても、沖縄の伝統食が廃れることなく伝わっていたというわけである。 家森教授は、世界中の長寿・短命地域を調査した結果から、長寿を達成するための条件として次の10ヵ条を挙げている

1.食塩を控える
2.動物性脂肪のとり過ぎに気をつける
3.野菜・果物をたっぷり食べる
4.牛乳やヨーグルトなどの乳製品をとる
5.魚・内臓肉・大豆で良質の蛋白質やタウリンをとる
6.いろいろな食材をバランスよく食べる
7.適度な運動を心がける
8.どの食品にどんな栄養素があり、どのような食べ方がよいかを学ぶ
9.友人や家族と一緒に食事をとる
10.小さなことにこだわらず、前向きに生きる

また、家森教授はその研究の結果から、興味深い教訓を導き出している。魚、大豆、海藻という日本の代表的栄養源を、短命地域であるブラジル内陸部のカンポグランテ在住の、生活習慣病のリスクの高い人たち100人に十週間食べてもらったところ、血圧や血中コレステロール値などが改善したという。日本の伝統的食品の良さが証明されたわけで、家森教授は、「このような結果をもとに、短命地域を長寿地域に変え、長寿地域の伝給食を守っていくための処方箋を地球規模で出していきたい」と語っている。 さらに、家森教授は、長寿ということに関し、「血管が寿命を決めているといっても過言ではない」と、血管の重要性を次のように強調している。 「テロメアが寿命を決めているという知見は、二十世紀後半における、非常に大きな学問的成果と言うことができます。しかし、現実的に何が寿命を決めているかというと、人が亡くなる主な原因となっているのは、脳卒中や心筋梗塞といった、脳と心臓の疾患なのです。脳や心臓の神経細胞は、一度なくなってしまったら、原則として再生しません。しかも、脳の神経細胞などは、たった四分間の虚血でも駄目になってしまいます。心臓の心筋細胞も、それが駄目になって心臓が止まってしまえば、血液循環が行なわれなくなり、全身が死んでしまいます。 この側面から見ると、脳卒中や心筋梗塞という疾患は、血管にかかわる疾患と言うことができます・しばしば「人は血管とともに老いる」と言われますが、まさに、
『血管が人の寿命を決めている』と言っても過言ではないわけです」(NHKスペ
シャル 驚異の小宇宙・人体ー 遺伝子・DNA「命を刻む時計の秘密—老化と死の設計図ー」より)
長生きの条件については、都内の七十歳の人を十五年間追跡調査し、分析した東京都老人総合研究所の調査がある。
それによると、長生きのための条件は、次のとおり。
1.血液中の蛋白質が多い
2.血色素が多い
3.太り方は中くらい
4.握力が強い
5.短期の記憶力がよい
6.運動の習慣がある
7.タバコを吸わない
8.お酒を少し飲む
9.社会活動性が高い
10.牛乳を飲む
11.油脂の料理をよくとる
また、同調査は百歳以上の人に関する食生活も調査しており、それによると、男性の100パーセント、女性80パーセント以上が、毎日欠かさず肉、魚などの動物性食品をとっていた。
前述したように、長寿者が多いことから、沖縄の食事が注目されている。沖縄は他府県に比べ、脳卒中、心臓病などの代表的な循環器系の病気が少ない。食事は、豚肉などの動物性蛋白の摂取量が多く、塩分の摂取量が少ない。また、ニガウリなどの野菜をたくさん食べる習慣もある・肉は一度、湯どおししてから使用するので過剰に脂をとることもない。このように、全般的に長寿地域や百歳以上の人の食事は、塩分の摂取が少なく、野菜、豆類などの植物性食品を多くとっており、しかも、肉、魚などの動物性食品を適度にとっているといえる。沖縄の長寿者については、今日では伝統的食事に変化が見られるようになったからだろうか。同じ長寿者でも、以前は元気があふれていたが、現在は百歳以上の人の数は増えたものの、以前よりも元気な高齢者は減ってきているようだ・沖縄の人たちの長寿と食生活などの関係を研究したきたヽ鈴木信・琉球大学名誉教授(現、沖縄長寿科学研究センター長)によると、 「百歳以上の人の総数は増えてきたが、そのうちで寝たきりの人が占める割合も高くなってきた」という。 同教授が百歳以上の長寿者の研究を始めた一九七六年頃、沖縄の百歳以上の人は三十人程度だった。そして、その九割以上が在宅で元気な、「かくしやくたる長寿エリート」だったという。しかし、百歳以上が四〇〇人近くに増えた今、六割が寝たきりか痴呆症だというのである。その理由について、 「沖縄に長寿の人が多いのは食生活の影響が強いのですが、そのほかにも、温暖な気候や自然に親しむ生活、また、家族と同居しているなど、さまざまな要因が関係していると考えられます・百歳の人は増えてきたけれど、元気な長寿者が減った背景には、生活環境の変化も関係しているのではないでしょうか」と語っている。

百寿者の遺伝子がわかってきた

世界の長寿地域の食生活の研究を背景に、さらに世界各国、長寿者に共通の遺伝子や因子を見つけようという研究が進んでいる。百歳を超えて元気に過ごしている高齢者を、センテナリアン(センチナリアン)といい、「百寿者」と訳される・ちなみに、センテナリアンは英語で、世紀を表わすセンチュリーという言葉から派生してできた言葉で、「一世紀を生きた人」の意味であり、百寿者は鈴木信名誉教授がつくったその訳語だという。 同教授は、沖縄の百寿者六〇〇人の遺伝子を二十年以上にわたって調べてきて、この人たちに共通した遺伝子があることを突き止めた。 その遺伝子とは、第六染色体にあり、病原菌などから体を守る免疫の機能に関係するHLA遺伝子の一つで、DR遺伝子と呼ばれる・この遺伝子には二〇種類のタイプがあり、それを父親、母親から一つずつ受け継ぐ。それらの組み合わせのうち、沖縄の百寿者に最も多い組み合わせが特定できたというのである。 その組み合わせは、DRIというタイプを持ち、DR9というタイプを持だない。
DRIは、外から侵入する細菌などの外敵に対抗できるのが特徴。DR9は、膠原
病などの自己免疫性疾患にかかりやすいという。
つまり、この組み合わせの遺伝子を持つ人は、外敵に対する抵抗力(免疫力)は強く、しかも、自分の免疫が自分の体を攻撃する自己免疫性疾患にはなりにくい。これらのことから、沖縄の百寿者たちは病気になりにくい遺伝的素因があることが明らかになったのである。
また、フランスの百寿者では、アルツハイマー型痴呆になりにくい遺伝子の型を
持っているという共通性があることが明らかになっている。

百寿者は動脈硬化になりにくい
以前から八十歳以上でも元気な人たちは動脈硬化が進んでいない、といわれていた。それを証明するデータは一部にはあったがヽ学会レベルでの報告はなかった。ところが最近、研究が進んできて、百寿者に共通する因子として、動脈硬化が進んでいないことが証明されるようになってきた。 慶応義塾大学医学部老年科の広瀬信義講師は、首都圏在住の百歳以上の人を実態調査しており、百寿者になるための条件を割り出している(次頁表参照)。それによると、百寿者には、心筋梗塞や脳梗塞などの致命的な動脈硬化性の疾患を持っている割合が低いと、同講師はいう。 「血液中の脂質を調べると、抗動脈硬化作用を持つHDL(善玉)2コレステロールの数値が高く、総コレステロール、LDL(悪玉)コレステロール、アポB蛋白などヽ動脈硬化の危険因子が低いことが明らかになりました」 HDLコレステロールは、大きくは2と3の二種類に分けられ、LDLコレステロールを抑制する働きが強いのがHDLの2のほうである。アポB蛋白は、悪いコレステロールのもとになる脂質で、これが多いと血中のLDLコレステロールの数値が高くなる。 また、遺伝的素因としては、百寿者には、アポリポ蛋白Eが2のタイプ(アポリポ蛋白E2)の人が多いことがわかっているという。アポリポ蛋白Eについては、アルツハイマー病の項でも触れるが、これにはE2からE4まで三つのタイプがあり、両親から一つずつ受け継ぐ。 E4を持っている人はコレステロールが高くなりやすく、動脈硬化が進みやすいし、アルツハイマー病になるリスクが高い。一方、E2の人は動脈硬化にもアルツハイマー病にもなりにくいと考えられている。広瀬講師は、若い人と百歳の人でEのどのタイプが多いかを比較調査した。その結果は、百歳の人ではE2を持った人は若い人の二倍、E4を持った人は若い人の半分で、百歳以上の人はE4の人は少なく、E2の人が多いことが判明している。 ちなみに、沖縄の百寿者でも、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の防御因子であるアポリポ蛋白E2を持っている割合が高く、アルツハイマー型痴呆の危険因子であるアポリポ蛋白E4を持っている割合が低いことが明らかになったという。 広瀬講師によると、百寿者には糖尿病の人が非常に少ないのも際立った特徴の一つであり、 「百寿者に糖尿病の人が少ないのは、フランスやデンマークでも同じです。糖尿病があると確かに寿命が短いという結果が出ています。現在百歳の人たちが五十、六十歳の時代には、食事療法などで血糖値をコントロールする方法がまだ普及していなかったので、血糖値のコントロールがうまくできていない人が多かったと思われます。現在はそれが広まり、血糖値がコントロールされるようになったので、今後は糖尿病でも百歳まで生きる人が増えてくるかもしれません」と語っている。 一方、遺伝的に長寿に不利な素因を持っている百寿者もいることから、環境因子も寿命に与える影響が大きいことがわかってきたという。 「遺伝的に悪い素因の人が、なぜ百歳まで生きるのでしょうか。環境因子の中で大切なのは栄養ですが、たとえば、栄養状態のよい百寿者は、栄養状態の悪い百寿者に比べ、日常生活の活動の度合いや認知機能が高いことがわかってきました。つまり、心身の活動性が高く、痴呆にならない、寝たきりにならないということです。 このように、部分的にはわかってきたこともありますが、しかし、遺伝的素因と環境因子の相互作用については、まだ完全には解明されていません。それを知るためには、ライフ・ヒストリー(生活歴)、たとえば、飲酒や喫煙、運動の習慣から家庭環境など、生活全般や気質、性格などを細かく分析していくことが求められます」
広瀬講師は長寿者たちの、さまざまな要因を探る研究を行なってきて、さらに、鈴木名誉教授とともに、アメリカ、スウェーデンなど世界六カ国で同様の調査をすることで、各国の百寿者を比較する国際協同研究を始めようとしている。
センテナリアンになるための条件

社会的背景
・高学歴
・経済的に豊か
・沖縄をはじめ温暖な地域に居住

遺伝的要素
・長寿家族
・アポ蛋白E2
・ADE DD型
・ミトコンドリアMt5178A

疫病
・糖尿病が少ない
・ガン、虚血性心疾患が少ない
・HDL2ーCが多角、アポBが少ない

性格
・明るく楽天的
・几帳面
・自立していて我が強い
(広瀬信義 監修)

食事制限が寿命を延ばす

食事量を制限し、食べ過ぎないようにすることは現在、唯一確実に寿命を廷ばす方法として医学界でコンセンサスが得られている。 昔から、長寿の人は長生きの秘訣の1つとして、必ずといってよいほど、「腹八分目の食事をこころがける」ことを挙げている。また、一般的にも、大食しないほうが健康にょいと考えられている。腹八分目は、胃腸をいたわることでもある。 一方で、いわゆる健啖家といわれる人たちにも長生きがいる。健啖家は胃腸が丈夫で、だから長生きに通ずる要素があるのだろうか・これについては明らかになっていないが、食事量を制限するということでは、食事療法として少食療法を指導して、難病をはじめさまざまな病気改善に成果を上げている医師もいる。 このょうに、腹八分目の食事や、さらに少食の習慣は、長寿に役立つと知られてはいるが、人間において、それらを実行して実際に寿命が延びたという確実なデータはない。しかし、動物実験では食事を制限すると寿命が延びるという確固たるデータがある。

コーネル大学のマッケイらのグループは、今から六十年ほど前に、ラットを非常に低カロリーの餌で飼育することによって、寿命を三年から四年へと、三三パーセントも延ばすことに成功した。 ラットだけでなく、低カロリー食にすると、原生動物、ミジンコ、サラグモ、グッピー、マウスと、幅広く、いろいろな種類の動物で平均寿命、最大寿命ともに大幅に延びることが確かめられた。 また、マウスの実験では、週単位のカロリー摂取量を40キロカロリーから120キロカロリーヘと段階的に増やしていくと、それにともなって平均寿命、最大寿命ともに著しく低下していくことがわかった・ 現在では、さらに人間に近い動物として、寿命が約四十年のアカゲザルを使った長期間飼育実験が米国老化研究所などで行なわれている。食べたいだけ食べさせる飽食群120匹と、食事量を制限する節食群120匹に分け、節食群では飽食群よりも摂取カロリーを三〇パーセント減らしている。 そして、これまでのところ、節食群では血液中の脂質や血圧が正常で、生活習慣病の兆候がないことが確認されている。一方、飽食群では、がん、糖尿病、心筋梗塞が明らかに多い。また、行動については、節食群のほうが飽食群よりも社会性がよいと報告されている。 少食にすると寿命が延びることは、わが国でも、九州大学心療内科の久保千春教授の動物実験で確認されている。 では、なぜ、カロリーを制限すると寿命が延びるのだろうか・それは、食事量を減らすことで体内で活性酸素がつくられる量が少なくなり、活性酸素の被害を最小限にできるからだとも考えられる・ 前述したように、細胞にあるミトコンドリアは、ATPを供給し、細胞はATPから活動に必要なエネルギーを得ている。つまり、ミトコンドリアは酸素の助けを借りて栄養素からエネルギーを引き出し、それから細胞の活動に必要なATPを合成する・このとき、私たちにとってある面、不幸なことに、ミトコンドリアは活性酸素もつくってしまうのである。 活性酸素はいったんつくられると、細胞内のどこであろうと、蛋白質、脂肪、DNAなどを傷つける可能性がある。 活性酸素によって障害をいちばん受けやすいのは、活性酸素がつくられるミトコンドリア白身で、ミトコンドリアで活性酸素はつくられ、活性酸素の害を最も受けるのもまたミトコンドリアなのである。そのため、ミトコンドリアには次第に活性酸素による傷がたまっていくことになる。 実際、動物実験では、年をとるとともに、ミトコンドリアでつくられる活性酸素の量が多くなり、ミトコンドリアの膜や蛋白質、DNAなどでの酸化障害も進んでいくことが確認されている。また、活性酸素がつくられる速度が速い動物ほど平均寿命が短いこともわかった。 動物実験では、食事量が少ないと体内の活性酸素の量が少ないことが確認されている・マウスを使って長期の食事制限を行ない、脳、心臓、腎臓からミトコンドリアを取って活性酸素の量を測定したところ、節食させたグループでは普通の量の食事をしているマウスに比べ、活性酸素の量が少なかった。また、年をとるとともに増えるミトコンドリアの蛋白質やDNAの傷が、普通の量の食事のグループのマウスに比べて低いこともわかった。 これらのデータから、食事制限をすると、体内に活性酸素がつくられる量が少なくなりヽしかも、ミトコンドリアが活性酸素によって傷つくことが少なくなると考えられる・前述したように、食事の量を制限し、たくさん食べないことは現在、唯一確実に寿命を延ぱすのに有効な方法として、学会レベルで認められている。 問題は、私たち人間の場合、長寿のために減食するとして、どの程度の摂取カロリーが適当であるかというスタンダードがないことである。少食を実践している食事療法の世界では、一日三〇〇〜四〇〇キロカロリー程度の食事で、がんなどの病気を克服し、元気に日常生活を送っているケースが実際にある。 食事と長寿ということでいえば、東京都老人研究所の調査の結果では、長寿の人の体格について、太ってもいなくて中程度という条件が挙げられている。このことと少食は矛盾するがヽどう解釈したらよいのか、まだ明らかになっていない。

今話題のライフデザインドラッグとは何か

生活の質を高める新ジャンルの薬

一九九八年から九九年にかけて、勃起不全改善薬のバイアグラや育毛剤のミノキシジル、うつ病の薬のSSRIなどが話題となった。とくに、バイアグラは従来は見られなかった勃起を促すタイプの薬で、勃起不全に悩む男性の人気を集め、バイアグラ騒動といってよいほどの旋風を巻き起こした・ これらの薬はアメリカで「ライフデザイン・ドラッグ」と呼ばれている。ライフデザインとは、自分自身の生き方、進む方向を考えることである。そのまま邦訳すれば生活設計薬となるところだが、言葉のセンスのある人が訳したのであろう、わが国では「生活改善薬」として普及してきた。また、出所は不明であるが、ライフスタイル・ドラッグという言葉も用いられるようになった。 ライフデザイン・ドラッグとか生活改善薬という名称は、何を表わしているのだろうか・二つの意味があると思われる・ 一つには、「生活や人生を豊かにしてくれる」という意味合いである。 たとえば、脱毛症に対しては、男性型脱毛症(成大型脱毛症)は遺伝や老化によるもので、一般的には病気とは認識されていない。インポテンスに対しても、明確に原因とわかる病気がある場合を除くと、大半は精神的なものや老化によるもので、病気とは認識されない。 ところがヽ脱毛症やインポテンスに悩んでいる大は多い。それが、黒髪が生え、精力がよみがえってきたら、その大の人生は明るいものとなるだろう・若くしてハゲているために、恋人もつくれない男性・男盛りというのに、インポテンスで情けない思いをしている中年男性・また、高齢者では、性に対する意欲はあるのに、精力が衰えていて、悲哀を感じざるをえないということもある。 ハゲやインポテンスが解消できたら、人生はバラ色になるだろう・その夢を実現させたのが、勃起不全治療薬のバイアグラであり、育毛剤のミノキシジルであった。大生や生活を変え、豊かにするという意味で、ライフデザイン・ドラッグなのである。 もう一つは、「実際に生活を改善する手助けになる」という意味合いである。 老化にともなって発症する病気や生活習慣病は、正しい生活習慣に改めることが治療や予防の第一歩であるといわれている。 老化にともなう病気・症状や生活習慣病は、基本的には老化や遺伝の関係によって発症する。高血圧や糖尿病にしても遺伝的要素が強く関係しているケースが多いし、脱毛症や白髪も遺伝的要素が強い。それと老化が重なって発症する。 しかし、これらの病気や症状は、正しい生活習慣を持つことによって、発症を防いだり遅らせたり、進行を遅らせたり改善できたりする。そのため、遺伝的要素があり、しかも年をとっていても、生活習慣を改めることが大事で、それが求められるということなのである。 ところが、生活習慣を改めても効果がなかなか得られない場合がある。また、生活習慣を改めたいと願っても、仕事などの事情や都合、性格などによっては、現実としては容易には改められない人やケースもある。 こういう場合、生活習慣を改めるきっかけとなる何かがあればよいが、それに相当するものとしてライフスタイル・ドラッグという発想が生まれてきたのである。 たとえば、ダイエットの方法は花盛りであるが、要するに摂取カロリーが消費カロリーよりも多ければ太る・肥満で健康上問題になるのは脂肪である。ところが、食べる量を減らしただけでは、筋肉は落ちても脂肪は減らなかったりする。そうならないためには、運動をして、適度に筋肉をつけながら摂取カロリーを減らすとよい。筋肉をつけることで脂肪の燃焼も高まる。 しかし、こういう理屈がわかっていても、そのとおり実行できるとは限らない。こういうときに役立つのが、ライフフスタイル・ドラッグというわけである。ダイエットのライフスタイル・ドラッグでは、ある種のものは脳の食欲中枢に働きかけて食欲を抑える。また、摂取した脂肪の吸収を阻害し、排出させたり、脂肪を燃焼させたり、筋肉をつけたりする作用があるものなどがある。 こういった薬や栄養補助食品としてのサプリメントを利用すればヽライフスタイルを変えなくても効果が得られる・さらに、この結果が励みになって、ライフスタイルを変えるきっかけにもなる。そういった意味から、ライフスタイル・ドラッグという名称が生まれてきたと思われる。 これらライフデザイン・ドラッグとかライフスタイル・ドラッグと称されるものは、大半がアメリカで開発されたもので、その背景には、医薬品開発の最先端の研究がある。 たとえばヽ育毛剤のミノキシジルは、もともとは前立腺肥大症の治療薬として開発されたし、バイアグラは心臓病の治療薬として開発された。それがミノキシジルには育毛の、バイアグラには勃起不全改善のすぐれた効果があることがわかって、事態が劇的に変わった。予期せぬ副産物であったわけだが、それが結果的にライフデザイン・ドラッグという新しいジャンルの薬を登場させることになったのである。バイアグラはアメリカで一九九八年には売上トップの薬となった。 勃起不全、脱毛症、肥満などの治療薬や栄養補助食品が異常なほどの人気を博すということは、それらにこだわり、その悩みを何とか解決したいと思っている人がかくも多いということの証明であろう。これらの薬が人気を呼んだことで、生活や人生の中で、多くの人にとってセックスに関すること、あるいは容姿に関することなどがヽ病気とは別であるが人生の重要な問題であり、強く意識されていることが浮き彫りになった。 これらの症状に対する薬は、従来はどちらかというと民間薬の守備範囲であった。それが最先端の医薬品開発から生まれてきて、しかも画期的な効果があることに意味があるといえるだろう・ さらに、新薬研究の奥には、遺伝子レベルの研究がある・そのことから、ライフデザイン・ドラッグは、最先端の研究の一環から生まれてきたともいえるだろう。そして、ライフデザイン・ドラッグと称するものの中には、結果的に生活習慣病の予防や改善に役立ち、長寿につながる効用があるものもある。 ライフデザイン・ドラッグやライフスタイル・ドラッグという名称は、法律に基づいた用語ではない。そういうこととは関係なく、こういった薬や栄養補助食品が登場してきたことは、セックスや容姿に悩む人たちにとって福音であろうし、また、それらを解消する方法の選択の幅を広げたということでも意義があると思われる。

自己の責任で選択、使用することが大事
ライフデザイン・ドラッグと称されるものには、薬もあれば栄養補助食品としてのサプリメントもある・外国では薬として承認されているが、わが国では未承認のものもある。承認されているものでも、処方箋が必要なものと、また、薬局で普通に購入できるものがある。さらに、バイアグラやピルがそうであるように、処方箋が必要な病院薬として承認されており、しかも健康保険適用の対象にならないものがある・健康保険が適用にならない理由として、個人の生活の質を向上させる目的の薬だからという考えがある。 これらライフデザイン・ドラッグは、個人の生活を豊かにしたり、生活の質を改善したりするもの。健康で長生きするという目的の中で、これらライフデザイン・ドラッグを上手に活用すれば、人生に彩りが生まれ、精神的にも豊かになるはずである。 ただし、生活の質を高める薬とはいえ、薬には違いないから副作用もある。実際、バイアグラを服用して死亡した人もいる。自分の責任のもとに選択し、使用するという意識を持つことが大切であろう。なぜ外国で認められている薬が国内で使えないのか バイアグラやピルは承認されたが、まだ、わが国で承認されていないものは多い。認可されていない薬を入手するには個人輸入するしか方法がない・ バイアグラやミノキシジルが話題になるや、個人輸入を代行をする会社が雨後の笥のように出現した・また、インターネットを利用して個人輸入代行を行なう会社も現われた。さらには、バイアグラを人手するためにハワイに行くツアーまで計画されたりした。 なぜ、欧米では認められている薬がわが国では認められないのか・認められないというより、正確には認可に時間がかかっているのだがヽそれはどうしてなのだろうか。 新薬が開発、販売されるまで、わが国では次のようなプロセスをたどる。 まず、新薬のもとになる新たな物質が発見されるか、あるいは合成、発酵、培養、バイオ・テクノロジーなどによってつくられる・そして、動物使って試験をした後、人を対象にした臨床試験が三段階に分けて行なわれる。 製薬会社は、これらの手続きによって医療上の有効性と安全性が確認された新薬について、製造承認の申請を厚生省に行なう。厚生省は中央薬事審議会(厚生大臣の諮問機関)に諮り、審査をパスした新薬の製造を厚生大臣が承認して、実際に販売される。 ただ、最近は、医薬品市場のグローバル化の影響で、変化も見られるようになった。たとえば、欧米の製薬会社が日本で新薬の販売をするとき、以前は、人種による効果や副作用の違いを調べる必要から、日本で改めて臨床試験をしていたが、日米欧の協議で海外での試験データが日本でも使えるようになったのである。バイアグラにはこの新ルールが適用され、日本での臨床試験を短くしたため、早期の発売が可能になった。 また、新薬の承認申請から承認までの事務処理期間は、これまでデータ不備による再試験がない場合でも最長一年半かかった。しかし、二〇〇〇年四月からはこれを一年に短縮することも決まっている。流れとしては、以前に比べて早くなったといえるだろう。

勃起不全改善薬・バイアグラ

米国・ファイザー社が開発したバイアグラを米国食品医薬品局が勃起不全(ED)に効く世界初の飲み薬として認可したのが、一九九八年の三月だった。そして、四月に発売されるやいなや、あっという問に広まった。 発売以来、半年で五倫五一〇〇万ドル(約六三三億円)という驚異的な売上を記録した。また、同年六月には、七十四歳(当時)のドール元上院議員が服用し、「グレート」と絶賛して話題になった。発売から九ヵ月間で三〇〇万人に処方され、「泌尿器科の治療薬の中で最も成功した薬」と評価されるようになったという。 わが国では一九九九年一月二十五日、厚生省によって承認され、三月二十三日から日本ファイザー製薬が「医師の処方を必要とする医療用医薬品」として正式に発売した・ このバイアグラは、もともとは心臓病の血管拡張剤として開発されていた薬だった・臨床試験で思ったほどの効果がないため、中止して薬を回収しようとしたところヽ応じない患者がたくさんいる。理由をたずねると、下半身に効果があるから服用を続けたいという。また、副作用として、勃起力が高まったという声があって、医療関係者が勃起不全に対する効果に気がつき、勃起不全改善薬として新たに開発されることになった。 この薬は、その気になっても十分に勃起をしない人や、勃起しない場合に非常に役立つ。物理的に無理やり勃起させるのではなく、性的な刺激があったときにペニスの正常な反応を助けるもの。勃起機能の促進をもたらすだけであって、脳に作用するわけではない。だから、飲むだけでその気になるというわけではない。射精後も勃起状態が続くこともあり、その効果に目を瞠ったというケースも多いらしい。 バイアグラの原理を簡単に解説すると、次のようになる。 性的に興奮すると、大脳からシグナルが発せられ、勃起に必要な化学物質であるGMPがペニスの中に分泌される・このGMPがペニスの筋肉細胞を弛緩させて、血液を流れやすくする。つまり、勃起状態になる。 一方、GMPが常に分泌されると勃起状態が持続するため、GMPを分解する体内化学物質のPDE5が存在し、調整をしている。このバランスが崩れてPDE5の力が強くなると、いくら興奮してもペニスの筋肉細胞が弛緩せず、勃起しなくなる。 バイアグラは、このPDE5の働きを抑え、GMPの減少を防ぐ役目を果たしている・この両者のバランスが崩れる原因はさまざまで、心因性ストレスもそのIつと考えられている。 勃起不全は、このGMPの分泌量が少ないか、あるいはGMPを破壊してしまう酵素の分泌量が多いために生じる症状と考えられている。なお、最近、医薬品業界ではインポテンスという言葉は使わず、勃起不全(ED)という用語で統一している。 バイアグラのこの原理を発見した米国の薬理学者三人は、九八年のノーベル医学・生理学賞を受賞した。この三人は血管拡張の研究を続け、一酸化窒素(NO)が血管を拡張させることを突き止めた。この仕組みは心臓病の治療薬を開発する基礎にもなっている。 バイアグラは女性が服用しても効果があるといわれ、人気に拍車がかかった。さらには、不妊治療に効果があるという報告も現われた・ 勃起障害が原因で不妊に悩んでいる男性は、勃起不全の人の約二割にも上るといわれている。 東邦大学医学部の永尾光一講師が、九九年三月下旬から五月下旬までのニカ月間に東邦大学大森病院を訪れたED患者一六七人を対象に調査した結果、不妊に悩む男性は三二人で、全体の一九・ニパーセントを占めた。 さらにヽ同講師は、不妊症のED患者のうち二七人にバイアグラを処方し、妊娠への効果があったかどうかを研究した。このうち、一ヵ月以上継続して経過を観察できた患者一〇組を対象に、服用前後で性交渉の改善について調べた。カップルの平均年齢は夫が三十七・六歳、妻が三十四・五歳で、不妊期間は平均で三年十ヵ月だった・ その結果は、実際に性交渉に成功した頻度をみると、平均で服用前の三八・ニ%から九一・二%ヘ大幅に改善され、射精できた頻度も二〇パーセントから七三・七パーセントまで向上した。中には、性交渉がまったく不可能で射精もできなかった男性が完全に改善した例も含まれているという。 さらに、七月の時点で、妊娠したカップルも一例あるという。永尾講師は、 「バイアグラは男性側の性的不能が原因の不妊には高い効果があることがわかった。胎児への影響がないことも研究でほぼわかっており、少子化対策にも貢献できるのではないか」と語っている。 これまでは、男性側に性的不能の障害があるカップルの場合は人工受精を行なうことが多かったがヽ自然な形での妊娠を望む夫婦にはバイアグラは福音となるのではないだろうか・バイアグラには、不妊治療薬としての効果もあったわけである。 前述したように、厚生省は、一九九九年一月二十五日、バイアグラの製造、輸入を承認した・申請から半年という異例の承認スピードの背景には、並行輸入による不適正な使用などで死者が出たことなどから、正規ルートで管理したいという厚生省の意向があったと見られている。また、医薬品の規制緩和ということで、欧米との摩擦を避けたいという、外務省の意向もあったといわれている。 そして、三月二十三日から、日本ファイザー製薬のバイアグラが、医師の処方を必要とする医療用医薬品として正式に発売された・アメリカで発売されているのは二五ミリグラム、50ミリグラム、100ミリグラムの三種類であるが、わが国で製造・処方されているのは25ミリグラムと50ミリグラムの二種類。 ところが、厚生省は八月三十日、バイアグラが一月に国内で承認されて以降、服用者が心筋梗塞などを起こしたケースが三三例あり、うち二人が死亡したと発表した。服用との因果関係は明確ではないが、三三人のうち、死亡した二人を含めて二五人までが医師の承認なしに、個人輸入などで薬を入手しており、同省は「安易な個人使用は危険」と注意を呼びかけた。 同省によると、死亡したのは七十代と四十代の男性・七十代のケースは、以前から胸痛があり、服用後に性行為をし、胸痛発作を起こして病院に運ばれた・心筋梗塞と診断され、十一日後に死亡。四十代の男性は二月、服用後に死亡したが、詳しい状況や死因は不明で、心筋梗塞などは認められていない。 三三人の症状は、心筋梗塞が10人で、心不全、低血圧、脳梗塞がそれぞれ二・三人いた。年代別では、五十代が一六人、四十代七人、六十代六人など。処方を受けたハ人のうち、心筋梗塞は三人で、性行為で胸痛などを訴えたが、入院治療などにより回復している。バイアグラを国内で販売しているファイザー製薬では、「正しく服用すれば決して危険な薬ではない。今回のケースも医師の処方を受けていれば死亡は避けられたかもしれない」として、服用者の自己責任を強調している。 バイアグラは血流の流れをよくするため、血圧の高い人が服用すると血圧が下がることがある・心臓病の治療に使われるニトログリセリンなどのニトロ剤(血圧降下剤)も同じような血管拡張の働きをするため、二つを併用するといっきに血圧が低下するおそれもある。 アメリカなどの死亡事故を見ても、それらの薬の併用によるケースが多い。同様の理由から、血圧が非常に高い人や逆に非常に低い人、また、それらの治療薬を服用している人はバイアグラを使用しないほうがよいといわれている。 米国食品医薬品局は、九八年末、「バイアグラ服用患者の中から130人の死亡が確認された」と発表し、「バイアグラが原因で死亡したという証拠はない・バイアグラ自身の危険性よりも、過度の激し過ぎる性交による心臓麻疹、もしくは心臓発作のほうが危険」とコメントしている。発売元のファィザー製薬でも、「たとえば、心臓疾患関係の病気や、その傾向のある人が、もともと何年もセックスをしていないのに、バイアグラを使ってセックスすれば、心臓発作を起こすことは十分考えられること。普段、ジョギングもしたことがない人が、いきなりマラソンをするようなものです」と、コメントしている。 「日経メディカル」の一九九九年七月号では、米国泌尿器学会からのスペシャルリポートとして、バイアグラのことを取り上げている。 それによると、ドミニック・J・カールポーンJr氏は、白身が泌尿器科部長として勤務するノースカロライナ州の病院で、勃起不全を訴えて来院した患者の一五%に泌尿器科系のがんが見つかったと発表した・同氏は、「バイアグラが安全だとわかると、泌尿器科以外の医師がバイアグラを処方し、勃起不全の背後に隠れる重大な疾患を見逃すリスクが増える」と警告したという。 日本でもバイアグラは認可されたが、インターネット上で個人輸入の代行を行なっている業者から購入するケースは依然多いらしい。病院にかかるといろいろと面倒な検査があるのでわずらわしいとか、医師にかかるのは恥ずかしい、などの理由によると見られている。 バイアグラは正しく使用すれば安全といわれているが、これだけ効果のある新薬であるからには、危険がともなうのも不思議ではない。医師にかかって処方してもらい、正しい使用法を知った上で使用することが望ましい。 勃起不全改善薬では、新規の製品も開発が進んでいる。 武田薬品工業は、三年後をめどに性的不能治療薬の開発に乗り出すと発表した。この薬は、アポモルフィン(薬品名)で、アメリカの大手製薬会社アボット・ラポラトリーズとの合弁会社、TAPホールディングス社を通じて一九九九年六月三十日、米国食品医薬品局に新薬申請をした・武田薬品工業は、欧州でも、九九年内にアポット社と共同で欧州医薬品庁(EMEA)に申請することになっている。アメリカやヨーロッパでは来年中にも販売を開始する予定だと報じられている。 わが国でもアポット社の日本法人と共同で、日本独自の臨床試験に着手し始めた。アメリカの臨床試験の結果とあわせて申請し、発売までの期間を三年に短縮する計算でいるという。 この薬は、脳の中枢神経に作用して、性的刺激を与え勃起する仕組みで、パイアゲラとは異なる作用を持っており、バイアグラの強力なライバルになると見られている。
アボット社のホームページによると、米国食品医薬品局に申請した商品名は「ユープリマ」・もともとはパーキンソン病の治療薬で、アメリカの臨床試験での勃起不全に対する有効性は最高六〇%だった。錠剤でニミリグラム,三ミリグラム,四ミリグラムの三種類があり、使い方は、性行為の前に舌の下に入れてなめて溶かすだけで、平均十五分から二十分で効果が出るという。

発毛剤・リアップ

バイアグラと並んで一九九八年から個人輸入して使う人が急増し、育毛剤として話題になったのが、ミノキシジルである。これは、薄くなったりハゲたりした部分に液体を振りかけ、頭皮に塗るトニックタイプ。 ミノキシジルは、八八年に米国食品医薬品局が国内で初めて育毛剤として承認した 「ロゲイン(製品名)」の主成分で、ファルマシアーアップジョン社が開発した。もともとは血圧降下剤として開発されたもので、臨床試験中、使用した患者の頭や顔から毛が生えるという副作用が続出し、急きょ、開発用途を変更したことで誕生したとねロゲインはすでに世界八五カ国で売り出されており、世界売上高は二億ドルにも達する。絶大な効果は証明済み・アメリカの臨床試験では、十八歳から四十九歳の男性三二〇〇人に試した結果、四ヵ月で五九パーセント、一年後には八四パーセントの人に効果があったと報告されている。 ただし、これは頭頂部から薄くなるタイプに対しての効果で、額のほうから薄くなるタイプヘの効果は確認されていない。 ミノキシジルには血管を拡張する作用があり、頭皮に塗ると栄養や酸素が毛根に行き渡るようになり、毛母細胞が活性化する。 もう一つのポイントは、ミノキシジルには毛根に付着する性質があること。そのため、同じように毛根に付着する性質があり、髪の毛の発育を妨げる男性ホルモンのテストステロンの動きをブロックする。この二つの作用によって育毛が促進されることがわかっている。 人の髪は約10万本ある。髪の毛は皮膚の一部で、その主成分は皮膚と同じケラチンという蛋白質・髪の毛の毛根部以外は、生命活動を中止した細胞の集まりである。 髪の毛を作る毛根部には、毛乳頭(毛球のくぼんでいるところ)があり、ここにも毛細血管が入り込んで酸素や栄養分、ホルモンを運んでいる。毛乳頭から栄養をもらった毛母細胞は、分裂して角質化しながら古い細胞を上へ上へと押し上げ、こうして髪の毛は伸びる・また、色素細胞(メラノサイト)ではメラニン色素が作られ、この色素の量が多いほど髪の毛の色が黒くなる・何かの原因でメラノサイトが作られなくなると白髪になる。 普通の髪の毛の太さは○・○ハミリくらいで、一本の毛髪の寿命は、男性で二・五年、女性で四・六年といわれる。一日数十本の髪の毛が抜けるが、二〜三ヵ月すると、抜けたあとの毛根部の毛母細胞が再び細胞分裂を始め、新たな髪の毛をつくり始めるので、普通は髪の毛の本数は減らない。ハゲは、毛乳頭の働きが衰え、毛が細くなったり脱毛が早くなったりして髪の毛が減り、やがては毛乳頭も消滅して毛がなくなる現象である。 ハゲが起こる仕組みは、おおよそ次のように考えられている。 精巣(睾丸)でつくられる男性ホルモン(テストステロン)は、毛乳頭に運ぱれるとヽ5 α ・リダクターゼという酵素によって、より働きの強い男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)に変わる。このホルモンは、髭や胸毛では毛母細胞の分裂を促進して毛を増やすが、前頭部と頭頂部の毛乳頭では、なぜか毛母細胞の分裂を抑制する・その結果、毛が細くなり、毛の寿命も短くなる。つまり、脱毛し、ハゲる・ 以上が、男性によく見られる、男性型(壮年型)脱毛症の起こる仕組みである。額の左右が剃り込みを入れたように薄くなるタイプとヽてっぺんから薄くなってくるタイプが代表的で、両方が同時に始まるケースもある。この男性型脱毛症は、医学的には女性にはないことになっている。 ミノキシジルは、わが国ではファルマシア・アップジョン社と技術導入契約を結んでいる大正製薬が一九九二年に大衆薬(薬局で買える薬)として申請した。それがようやく九九年になって認可され、六月に日本初の発毛剤「リアップ」として発売された。リアップの画期的なところは、効能・効果に発毛を謳っていることである。そのため、育毛剤ではなく、発毛剤として売られている。従来、脱毛予防や発毛促進を謳ったものはあったが、効能・効果として発毛を明記した製品はなかった。 新薬は原則として、医師の処方が必要な医療用医薬品として中央薬事審議会で審査されるが、大正製薬は「生活改善薬に医療保険はなじまない」と、大衆薬としての発売を強く主張・厚生省は、新薬を最初から大衆薬として売ることを初めて認めた。その分、誰でも買える大衆薬は安全性が重視されることから、リアップは九二年六月の申請から承認まで六年八ヵ月かかる異例の長期審査になったのである。 ロゲインに含まれるミノキシジルの含有量は、2パーセントのものと五パーセントのものがある・それに対して、大正製薬が権利を買ったものは2パーセントのもので、しかも同社は大衆薬として安全性を期するために、リアップは1パーセントにして発売した。 大正製薬の臨床試験の結果では、濃度一パーセントのもので二三・七%に中程度の改善効果があった。うぶ毛以上の発毛が見られ、そのうち、七・九%の人は剛毛まで生えてきた。また、四五・五%の人は発毛しないものの、抜け毛が減るなどの軽度の改善が見られたと報告されている。 ミノキシジルは濃度が濃いほど効果が高いといわれているが、2パーセントで効果がない人の場合、五パーセントでも毛は生えないともいわれている。とはいえ、1パーセントではあまり効果が期待できないのではないか、という見方があるが、それに対して大正製薬の広報部では、「リアップの臨床試験は八五年から九二年までの七年間行ないました。それも大衆薬としてではなく、より試験の基準の高い医療用としてです。濃度についても、いくつかのタイプで試験を行ないました。その結果、日本人には濃度1パーセントが最も副作用が少なく、効果が大きいことがわかりました」と答えている。 リアップは発売後、予想以上の売れ行きで、大正製薬は九九年八月三十一日、二〇〇〇年三月末配当を五円増し、二五円にすると発表したと、九月一日の新聞で報じていた。 ちなみに、ミノキシジルには血管拡張作用があり、アメリカでは八八年の発売以来、その副作用によって心筋梗塞の発症が四例あったことが報告されている・そのため、発売元の大正製薬では、使用説明書で、高血圧、低血圧、心臓や腎臓などに既往症のある人などは薬剤師に相談して使用するよう記載していた。 わが国でも、発売後半年経った九九年十一月、リアップの使用によって心筋梗塞などの副作用が起きたケースがあることが報告され、厚生省は医薬品等安全性情報を出し、使用者への注意を徹底するよう、発売元の大正製薬に指示をしたと一般紙に報道された。 厚生省によると、販売開始以来、三ヵ月間で副作用と見られる症状が約500人に表われた・発しんやかゆみ(約320人)、頭痛やめまい(約100人)、動悸や血圧上昇(約六〇人)などで、胸の痛みや心筋梗塞で入院した人がニ人いたという。 リアップの発売がきっかけで育毛剤市場は活性化している。化粧品メーカーのマンダムと呉羽化学工業は「活髪 ダブル発毛促進剤セット」を共同開発、九九年九月九日から発売した。リアップは国内で発売されたがヽ個人輸入代行も活発なようで、六パーセント濃度のものをフィリピンから輸入代行する業者も現われている。 一方、ミノキシジルほどではないが、飲む毛生え薬のプロペシア(製品名)も海外では人気になった。 プロペシアにはフィナステライドという成分が含まれていて、脱毛の原因になる男性ホルモンの分泌を抑制し、髪の毛を黒くする。頭頂部だけに効果があるミノキシジルと違って、前頭部の発毛も促し、効く範囲が広い。 男性型脱毛症の発症にはジヒドロテストステロン(DHT)というホルモンが関係していることは先に述べたが、男性型脱毛症の人の頭皮にこのホルモンが普通の人に比べて著しく増えているとわかったことが、フィナステライドという成分の発見に結びついた。DHTはテストステロンがレダクターゼという酵素によって変換されてできたホルモンで、このDHTこそが男性型脱毛症の真犯人であるとの仮説が生まれた。また、先天的にレダクターゼを持だない人では男性型脱毛症は発生しないということもわかってきた。 この仮説に基づいてさらに研究を進めた結果、DHTが毛母細胞の表面についている受容器(レセプター)に捕まえられると、これがシグナルとなって毛母細胞の成長・増殖がストップして毛髪が伸びなくなり、細くて短い毛が抜けていく、というメカニズムが解明された。 つまり、男性型脱毛症を防ぐには、テストステロンをDHTに変換する酵素・レダクターゼの働きを抑え、DHTの量を減らせばよい。 この事実に着目したアメリカの製薬会社メルク社がヽレダクターゼの働きを阻害するものはないかと探していたところ、前立腺肥大症の治療薬があった・それがフィナステライド(商品名、プロスカー)だった。 同社が十八歳から四十一歳までの男性型脱毛症の男性一五五三人を対象に、一ミリグラムのフィナステライドと偽薬を服用して効果を調べる臨床実験を行なった結果、フィナステライドを服用した男性は、偽薬を服用した男性よりも毛の生え具合に満足した。また、一年後には、服用した男性の毛は服用しなかった男性より、一平方センチあたり毛が二〇本も多くなっていた。 こうして、前立腺肥大症の薬がハゲの治療薬に転用されることになった・この薬は、ハゲが起きるメカニズムに基づいて開発されたという点でも画期的である・だが、多少副作用があり、服用者の約四%に性欲減退、勃起障害、精液の減少などが確認されている。 プロペシアは、アメリカでは医師の処方隻があれば購入できる。わが国では認可されていないので、使用するには個人輸入をするしかない。九八年あたりから、個人輸入代行で扱われており、マスコミでも話題になったが、ミノキシジルほど人気にはなっていない。ミノキシジルと併用すると前頭部にも発毛効果が期待できると、両方を使っている人もいるらしい。

うつ病治療薬・SSRI

アメリカで開発されたSSRIは、うつ病の画期的な薬で、一時は「奇跡の薬」と評され、またたくまにピジネスマンの間で大流行した。従来の薬とはまったく異なる効果を現わしたからだった。
アメリカのビジネスマンには薬という感覚はあまりなく、うつ病ではなくても、やる気、元気を出すためにSSRIを服用する。薬としてというよりも、栄養補助食品的感覚で日常的に使用していると伝えられている。
SSRIは、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」の略で、その代表的な製品がプロザック・ わが国でもSSRIは一九九九年六月に認可・発売されたが、マスコミでの扱いは小さかった。日本人は薬好きといわれるが、病気治療の目的ではなく、やる気や元気を出すのに薬に頼るということは馴染まないという見方をマスコミがしているからだろうか・ 今日、うつ病の原因としては、「遺伝や環境の相互作用による脳内の神経伝達物質系の失調が存在する」と定義されている。神経伝達物質の中でも最も重要なものがセロトニンで、気分や感情に大きく関与していることがわかってきた・そしてセロトニンの働きが悪くなると、脳の神経回路がうまく回転しなくなり、意欲が低下し、うつ的な精神状態を引き起こすのである。 脳は複雑なネットワークを構成する巨大なコンピューターにたとえられる・ 脳における情報伝達は、神経回路を走る電気信号によって行なわれているが、この回路網は神経細胞(ニューロン)と神経細胞が結び合わされているわけではない。神経細胞と神経細胞の間にはシナプス空隙という微小な空間があり、脳内の情報伝達は、神経伝達物質という化学物質によって行なわれている。神経伝達物質のやりとりによって、信号を送り、結果として電流が流れるのである。 神経伝達物質と呼ばれるものは、今までに数十種類が見つかっていて、これらの神経伝達物質がなかったら、神経組織は働かなくなってしまう。精神が健全に保たれるためには、神経伝達物質が正常に機能していることが重要なのである・脳の研究が進むにつれ、そういうことがわかってきて、脳は精密な電子機械というより、精密な化学工場とみなすべきだという考えに変わってきた。 代表的な神経伝達物質としては、セロトニンのほかに、アセチルコリン、ドーパミンヽアドレナリン、ノルアドレナリンなどがありヽ脳の神経伝達物質の異常と多くの精神症状との間に密接な関連があることが解明されてきた。それらのうち、最も注目されているものがセロトニンなのである。 セロトニンは脳内に広く分布している。セロトニンは5HTとも呼ばれ、セロトニンによる神経細胞と神経細胞の伝達をよくする薬がSSRIである・ 神経と神経との連絡が円滑に行なわれないと、回路はうまく働かず、その結果、精神状態に影響する。また、連絡がよすぎても、働きが過剰になって、精神状態に影響すると考えられている。 セロトニンが不足しているのなら、セロトニンを投与して補えばよいと考えるかもしれないが、そういう「外から補う」方法をとると、体は自分でつくらなくてよいと判断し、機能はますます低下してしまう。 セロトニンは、神経の末端から放出され、シナプス空隙で次の神経の膜の上にある受容体と結合して神経を刺激するが、作用が終わるともとの神経に取り込まれ、分解される・これを伝達物質の再取り込みという。 放出されるセロトニンの量が少ないか、あるいは受容体の数が不十分なら、セロトニンを介した情報の伝達はうまくいかない。 SSRIはヽセロトニンを選択的に再びシナプスに取り込むのを邪魔する薬で、さまざまな神経伝達物質のうち、セロトニンだけを、放出されてからもとに戻すのを妨害する。 再取り込みを阻害するので、どちらの膜の内側にも多くのセロトニンが存在することになり、より多くのセロトニンが受容体に到達して情報の伝達がすみやかに、かつ迅速に行なわれることになる。 セロトニンが関与するシナプスは数億から数十億はあると考えられているから、脳のさまざまな部分でセロトニンを介して働いている回路が円滑に働くようになる・ セロトニンを介した神経細胞間の伝達が脳内で十分に行なわれないと、気分が落ち込み、やる気が失われ、すべてのことに対して悲観的になってしまう。もし、こういう状態が長く続くと、慢性的に気分は鬱屈してしまう。そうなると、くよくよ考えてもつまらないとわかっていても、いつも同じ考えを繰り返し、社会的にマイナスな生活や行動を続けることになる。 逆に、セロトニンに敏感過ぎても突然強い不安感に襲われる・セロトニンは不安にも密接な関係を持っているので、深刻な心の傷はセロトニンを介した脳の回路に失調をきたし、気分を暗くし、自分に自信を失うことになると考えられている。 また、セロトニンは対人関係の感情や意思などの強さなどにも影響を与えると考えられている。 SSRIの一種のプロザックをある雄猿に投与したところ、その雄猿が猿の群れのボスになった。ところが投与をやめ、ほかの雄猿にプロザックを与えたところ、今度はその雄猿がボスになってしまったという、興味深い実験結果がある。 また、猿の母子の愛情についてもセロトニンが大きく影響し、セロトニンの働きが悪いと母猿が子猿に対してあまり愛情が注げなくなり、子猿は十分な愛情を感じることもなく育っていくという報告もある。 わが国では、不況を反映し、うつ病の人が増えている。不景気からくるリストラ、倒産、収入減などが精神的に影響しているというのがヽ精神科の専門医の一致した見方である・厚生省の調査によると、気分障害、軽症のうつの人が増加し、また、過食症などの心身症も激増している。 さらには、中高年の自殺が急増しているが、背景にリストラなどによるうつ病があるケースが多いと、精神科の専門医は見ている。 うつ病はもともと中高年から上の世代に多い病気であり、リストラなどが働き盛りの人たちの心を直撃しているようだ。 抑うつといって、精神的に落ち込む状態が続く病気がうつ病で、うつ状態だけが続くものと、うつ状態と精神的に高揚する躁状態を繰り返す躁うつ病とがある。精神科の病気としてのうつ病は、人格障害や分裂病傾向が現われるケースもある・ うつ病になると、意欲が低下し、集中力がなくなり、これまで楽しめた事柄にも興味が湧かなくなる。重症な場合は自殺を考えるようになる。 最近多いのは、このような本格的なうつ病ではなく、軽度のうつ状態を示すタイプで、これを軽症うつ病とか、軽症のうつ、と呼ぶこともある・世界的にも、うつ病は軽症化の傾向があり、わが国でも軽症のうつの人が増えてきた・ しかし、軽症だからといって軽視はできない。うつ病の怖さは自殺することにあり、軽症のうつであっても自殺するおそれがある・ わが国でもSSRIが認可され、一九九九年六月に「デブロメール」と「ハポックス」(いずれも製品名)の二種類が発売された・ うつ病の発症には、セロトニンだけでなく、ノルアドレナリンなども関係していることから、「セロトニンの働きを強める方法では改善しないケースもある」と、SSRIをさほど評価しない精神科の専門医もいる。また、アメリカでは前向きの精神をつくるために服用しているというのに、日本人は精神科の薬を服用するということ自体に抵抗感があるように思われる。こういったことから、アメリカでは画期的なうつ病の薬としてもてはやされているのに対し、わが国ではさほど人気は高まっていないようだ。
すべてのうつ病にSSRIが有効とは限らないが、治療の選択の幅が広がったことは幸いといえるだろう。

肥満治療薬・ゼニカル

ダイエット薬として注目されているものに、スイスのホフマン・ロッシュ社が開発した「ゼニカル(商品名)」がある。一般名はオリスタット。ヨーロッパで先行して売られていて、話題騒然となった。これまでのダイエット食品といわれるものや、肥満治療の医薬品とは作用が根本的に異なるからだった・その評判はアメリカはもちろん、わが国にも届き、インターネットで輸入代行を行なう業者から購入して使用する人が増加した。また、インターネットには体験談が紹介されていて、脂肪の多い食事をとった後、ゼニカルを服用したら、翌朝、便器が詣でギトギトになった、と報告していた。脂肪が排泄され、ダイエット効果を実感したというのである。 九九年四月に米国食品医薬品局はオリスタットを認可し、ゼニカルはアメリカでも発売されることになった。 その前にアメリカで流行したダイエット薬の代表的なものは、脳の食欲中枢に働きかけて食欲を抑えるもので、「メリディア」という製品名で九七年にアメリカで発売された。 この薬には食欲を抑える効果があるが、人によっては高血圧を促進し、心臓病を起こしかねない。また、ダイエットに関してはさほど効果が得られないと下火になった。 ゼニカルは、腸において体内に吸収される脂肪をカットし、排泄物として出すという、きわめて合理的なメカニズムを持っている。脂肪は蛋白質や炭水化物に比べてカロリーが高い。ゼニカルを服用すると脂肪を吸収せず、そのまま体外に排出させることからダイエット効果は高い。 脂肪は、小さな脂肪酸がつながってできている大きなかたまりのようなもので、小さな脂肪酸が集まって大きなかたまりになり、それが脂肪と呼ばれている。したがって、そのままでは大きすぎ、人間の体に吸収することができない。脂肪は腸で吸収されるが、実は脂肪自体は直接体内に取り込まれるわけではない。脂肪のサイズは、そのまま人間の体が吸収するには大き過ぎるということだが、実際には、リパーゼと呼ばれる脂肪分解酵素の働きで、脂肪を細かい脂肪酸に分解する。要するに、脂肪はリパーゼによって、腸で吸収できるように小さいサイズになる・ 単純に考えればヽこのリパーゼの働きをストップさせればヽ脂肪は分解されず大きなかたまりのままで、そのまま体外に排出される・この理論に立って、リパーゼの酵素の働きを抑制する薬として開発されたのがゼニカルだ・実に簡単明快である。 前述したように、アメリカでは九九年の四月、米国食品医薬品局がオリスタットを認可、ゼニカルが販売されることになった。医師の処方箋が必要な病院薬の扱いである。 ゼニカルには、肥満の原因となる脂肪分を三〇パーセント減らせる効果がある。たとえば、脂肪を多く含むカロリーの高い食品を六〇グラム摂取した場合、四〇グラムだけが体内に吸収されるというのである。アメリカでは、ゼニカルは適性体重を二〇〜三〇パーセント、オーバーしている人を対象に処方される・ 体内の過剰な脂肪や、その結果としての肥満は糖尿病などの生活習慣病を引き起こす誘因になるがヽゼニカルは脂肪の摂取を妨げることで、生活習慣病の予防や改善にも役立つことになる。 ゼニカルには副作用はないと考えられているが、注意したいのは、脂肪を吸収しないのと同時に、ビタミンA、ベータカロチン、ビタミンD、E、Kなどの脂溶性ビタミンも吸収が阻害されるおそれがあること・ゼニカルを使用するときは、これらのビタミンを多く含む食品を意図的に多くとる必要がある・栄養補助食品で補給するのもよいだろう。 アメリカでは、ゼニカルを常用すると乳がんの原因になるという専門家も一部にいるようだが、大勢としては根拠はないといわれているようだ。 わが国では、ゼニカルは薬として認められている。入手するには病院に行くか個人輸入をするしかない。インターネットで、医薬品の輸入代行を行なっている業者のサイトを検索してみると、ゼニカルを扱っているサイトが非常に多いことから、人気のほどがうかがえ、使用している人が多いことがわかる。 けれども、ゼニカルはアメリカでは医師の処方箋が必要な薬である。もし個人輸入をして使用する場合は慎重を期したい。とくに高脂血症や糖尿病の人は、使用にあたっては主治医に相談することも必要と思われる。

経口避妊薬・ピル

低用量の経口避妊薬(ピル)が、わが国でもようやく一九九九年六月に承認を受け、九月二目から発売された。病院薬で、使用するには医師の処方慢が必要であり、健康保険は効かない。 低用量のピルはアメリカでは六〇年に認可され、それ以後多くの国で認められるようになり、世界で九〇〇〇万人の女性が使用しているといわれる・国連加盟国の中で日本だけで認められていなかった。アメリカではピルが最も一般的な避妊法で、九八年の一年間で1,800万人が服用した。 アメリカで認可されてから、わが国でも、ウーマン・リブの運動の中でピルの認可を求める活動があったものの長年認められず、ようやく申請から九年経った九九年に急に承認された・その背景にはバイアグラの認可があった・パイアゲラが短期間で承認されたのに、女性が自発的に避妊できるピルを認めないのはおかしい、との論調が高まったからだった。 これまで、わが国では、高用量のピルが月経困難症の治療薬として認められており、医師の裁量によって避妊薬に代用されていた。低用量のものは認可されていなかったがヽ高用量のものは実際には避妊薬として利用されていたわけである。 今回、わが国で発売されたのは10種類で、製品名が違うだけで成分は同じものもあり、月経周期の各段階で含有ホルモン量を変化させるかどうかで三タイプに大別される・「一相生」は一周期分が全錠同じであるが、「二相生」は時期によって卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の配合パターンが二段階に、「三相生」は三段階に変化する。きちんと服用すれば避妊の失敗はほぽない、と考えられている。「ピルが使用できるなら、女性が自分の意思・判断で避妊ができるから、使用したいが、副作用が心配」という女性もいる。しかし、高用量のピルに比べて、低用量のピルは副作用は少ないといわれている。短期的には、飲み始めのときに吐き気や不正出血があることがある・乳房痛、無月経や破綻出血が起こることもある・また、長期的には血栓症が発症するおそれもあるがヽ一般的には安全と考えられている。 また、乳がんを増やすといわれていたが、最近では、月経痛を軽くして貧血を防ぐ、骨組しょう症や卵巣がん、子宮がん、子宮内膜症になりにくくするという、副作用ならぬ、副効用もあると見られており、こちらのほうがクローズアップされているようだ・ アメリカの研究報告では、服用していない人に比べて卵巣がんが五〇パーセント、子宮体がんが四〇パーセント、それぞれ危険が抑えられるというデータもある・乳がんに関しても、乳がんの発生との関連性は認められないという結果も出ている。 ただし、三十五歳以上で、タバコを1日15本以上吸う人、乳がんなど女性ホルモン依存性腫瘍のある人、重い肝障害のある場合などは、性器からの出血、乳がん、肝臓障害などのリスクがあるため使用してはいけないことになっている。 また、ピルではエイズ、クラミジアなどの性感染症は予防できない。ピルの普及にともなって性感染症が増加するのではないかと懸念する声もある。

アルツハイマー病の新薬・アリセプト

アルツハイマー病の唯一の治療薬である「アリセプト」が、わが国でもようやく、九九年八月、中央薬事審議会によって承認された。アルツハイマー病の薬はライフスタイル・ドラッグに属するものではないが、アルツハイマー病になると生活の質も著しく低下する。そういう而もあって、この章の中で取り上げることにしたい。 たとえテロメアの短縮を防ぐ方法が開発されて長寿が実現したとしても、脳の老化をどうするかという問題が残る・脳の神経は五・六歳にかけてと十歳過ぎに急成長するが、十二歳を過ぎると目立った成長はしなくなる。そして、二十歳を過ぎると一日平均10万個ほど死んでいくといわれている。脳の神経細胞は、一度作られると細胞分裂をしないので、再生することはない。 老人性痴呆症には、脳動脈硬化による血管型と、もう一つ、アルツハイマー病がある。痴呆症は老化なのかどうかという問題があるが、痴呆症が老化と関連していることは明らかである。老化の終着駅が痴呆症というわけではなく、老化にともなって起こりやすくなる病気が痴呆症で、年をとればとるほど痴呆症になるケースは現実に多い。 とはいえ、痴呆症のうちでもアルツハイマー病となると、脳の老化かどうなのかについては、専門家の間でも意見が分かれている。脳の老化現象の一つであり、長く生きれば誰でも発症するおそれがあるという意見がある一方で、普通の老化とは異なる病的な変化が脳に起こり、それによって発症するという見方もある。 アルツハイマー病の特徴はヽ大脳の萎縮と、老人斑と神経原綿維変化という病変が見られることにある。老人斑は細胞外の沈着物で、主成分はアミロイドβ蛋白質であり、神経原綿維変化の主成分は、異常に過リン化されたタウ蛋白質であることがわかっている。 六十五歳までに発症するのをアルツハイマー病、それ以後に発症するのをアルツハイマー型痴呆と分類する場合もある。 原因も完全には解明されていないが、遺伝的に発症するタイプがいくつかあることが解明されてきた。 ある遺伝子に異常があると必ず発症するタイプのアルツハイマー病はきわめてまれで、わが国ではアルツハイマー病全体の二〜三パーセント以下と推定されている。これに該当する遺伝子には、PSI遺伝子(プレセニリンアミロイド前駆体蛋白遺伝子、タイプー)、PS2遺伝子(プレセニリンアミロイド前駆体蛋白遺伝子、タイプ2)、APP遺伝子(アミロイド前駆体蛋白遺伝子)の三種類がある・ これら遺伝子に異常がある場合はいずれも、若い年代で発症するのが特徴であるが、前述したようにアルツハイマー病全体の中のごく一部にすぎない。さらには、確実に子孫に伝わっていくものとなると、確率はもっと低いといわれている。 それらとは別に、アポリポ蛋白E遺伝子が関係して発症するケースがあり、アルツハイマー病全体の約六〇%を占めている。アポリポという蛋白は、第一九番目の染色体上にあるコレステロールを運ぶ蛋白で、この蛋白は血液検査で検出して調べることができる。 アポリポ蛋白には2から4までの三種類があり、両親から一つずつ受け継ぐので、E2‐E2、E21E3、E2‐E4、E3‐E3、E3‐E4、E4‐E4の六通りの組み合わせがある。 このうち、アルツハイマー病の発症に関係すると考えられているのがE4で、4を持たない人に比べて、4が一つあるとアルツハイマー病になりやすいし、二つならなお、なる確率が高い。しかも、五十代、六十代のとくに高齢ではない世代で発症しやすいという。 アポリポ蛋白E4が血液中に流れていると、脳にアルツハイマー病の病変が蓄積しやすいことがわかっている。また、アルツハイマー病が発症する以前から脳の血流が低下している、という報告もある。 ちなみに、日本人の七パーセントあまりは4以外のタイプ・九三%の人は、4を1つまたは2つ持っているが、第一九番染色体はアルツハイマー病を発症しやすくする危険因子にすぎないし、アポリポE4があると必ずアルツハイマー病になるというわけではない。 アルツハイマー病の発症には、また、活性酸素が関係していると考えられている。アルツハイマー病の人の脳では、神経細胞が小さくなっていたり、リポフスチンという物質が増え、特有の線維が増加したりしていることがわかっている。リポフスチンは脂質が異常な酸化をしたもので、脳の酸化を防止すればアルツハイマー病の発症が予防できるのではないかとの観点に立って、アポリポ蛋白E4を持っている人を対象に抗酸化剤を服用させる方法も一部で行なわれている。 脳はほかの臓器や器官と比べて酸素の消費量が極端に多いし、酸化されやすいドコサヘキサエン酸という脂肪酸も多い。脂肪酸ということでは、肉の脂の摂取が多く、魚の脂の摂取が少ないとアルツハイマー病になりやすい傾向があることが明らかになっている・ わが国でもアルツハイマー病の薬がようやく使えることが決まった・アルツハイマー病の治療薬としては唯てアリセプト(製品名)がある・わが国では認可されていなかったが、一九九九年八月になって、中央薬事審議会がようやく、国内での製造を認める決定をした。正式承認後、二〇〇〇年早々には発売される予定で、アルツハイマー病の治療に使えることになる。 アリセプトは、アルツハイマー病の予防や進行防止に効果のある薬で、日本の製薬会社のエーザイが十数年をかけて二〇〇憶円の研究費を投じてアルツハイマー病の新薬として開発し、アメリカで承認を得たもので、アルツハイマー病の薬としては世界で二番目になる。同薬は、軽度と中度のアルツハイマー病に対して、記憶障害や日常動作を改善する効果があると認められ、最大の特徴は副作用がほとんどないことにあるといわれている。アルツハイマー病を根本から治療する薬ではなく、この病気による記憶・学習機能の障害を緩和するもの。 わが国でも使用できるようになったことは喜ばしいが、アルツハイマー病には遺伝的要素が関係しているケースもあり、治す方法となると遺伝子レベルでの治療薬の開発を待たなければならないだろう。

 

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