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アナボリックステロイド

      2018/12/01

アナボリックステロイド

ステロイド・ホルモンとは、分子中にステロイド核を持つホルモンの総称で、本来は精巣や卵巣、 副腎皮質などで生合成される。男性ホルモンのアンドロゲン、テストステロン、女性ホルモンのエス トロゲン、エストラジオールなどの性ホルモン、副腎皮質ホルモンのコーチゾンなどが有名だ。 アンドロゲンは男性ホルモンで、睾丸と副腎皮質から分泌される。アンドロとはギリシア語で「男 性」、ゲンは「形成」を意味する。男性ホルモンの存在は早くから医学者たちの間で知られていたが、 化学合成が成功したのは一九三五年、ナチス政権下のドイツだった。人為的に作られたステロイド剤 には、性ホルモン作用を有するアナボリック・ステロイドだけでなく、炎症を抑えるものや、血液の 循環を維持するものもある。後者ふたつに筋肉増強作用はない。

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アナボリックは同化という意味を持つだけあって、このステロイド剤を服用すると体内で著しいタ ンパク質同化作用が起こる。筋肉をつくるのは何といってもタンパク質が重要なファクターだ。ステ ロイドは筋肉の成長作用を飛躍的に高めるだけでなく、水%多重に筋肉組織の中に蓄積され、筋肉 肥大が促進される。この薬が「筋肉増強剤」と翻訳される所以ともいえよう。

アナボリック・ステロイドは、主にホルモン代謝がスムーズにいかなくなった男性の性腺機能不全 や、造精機能障害による男性不妊症などの治療薬として用いられてきた。現在ではエイズ患者に見ら れる過度の体重減少や慢性的な栄養失調、骨粗髪症による自然骨折の痛みの緩和、貧血症、転移性乳 癌などの治療などにも応用されている。アナボリック・ステロイドはメタアンドロステノロン、ナンドロロンデカノエイト、スタノゾール、メチルテストステロンなどいくつかの属性に分かれ、それぞ れ別個の商品名をつけて各国の製薬会社が販売中だ。

アナボリック・ステロイドの薬効は筋肥大のほかにも多い。カルシウムを体内に貯蓄して骨組織の 生成を助長し、赤血球や白血球、血小板を増加させ、体内組織の回復能力を向上させる。また、カロ リー代謝を促進するので皮下や内臓に付着した脂肪を軽減させるダイエット効果もある。

アメリカで アナボリック・ステロイドがボディビルダーやアスリートだけでなく、一般人の減量やシェイプアッ プにもひそかに使用されているというのはそのためだ。 ステロイド剤の作用は精神面にも及び、服用によって性格が勇猛果敢、攻撃的になると言われてい る。ナチスが前線の兵士たちにステロイド剤を投与し、肉体と精神の強化に用いようとしたという話 もあるくらいだ。性欲が亢進するという作用も報告されている。 これらの顕著な効果に注目したのは、医療関係者ばかりではなかった。アスリートたちの間で、い つしかアナボリック・ステロイドは魔法の薬と呼ばれるようになった。

ステロイドは、まず旧ソ連を 筆頭とする東ヨーロッパの社会主義諸国で競技能力向上、を目的に使用され始めた。最初に手を染 めたのはウエイトリフターたちだというのが定説だ。 西側世界への流布は五四年にアメリカのジョン・ジグラー博士が果たした。アメリカのウエイトリ フティングチームのドクターだった彼は、社会主義諸国のリフターたちが次々に新記録を更新するの を目の当たりにし、その秘密のカギをアナボリック・ステロイドだと看破したのだった。

ジグラー博士はさっそく研究に着手し、メタアンドロステノロンという属名のアナボリック・ステロイド剤、通称「ダイアナボル」を開発した。ダイアナボルはアナボリック効果に加え強いアンドロ ゲニック効果(男性性徴増加作用)を持つ。ダイアナボルはアメリカの製薬会社シバ社が製法特許を 買い取り、以降60、70年代にわたり医療目的の化合ホルモン、のトップブランドとして君臨す る。もちろん、ダイアナボルの薬効を利用したのは、病人たちだけではなかった。

こうしてステロイ ドは陸上競技やボディビル、アメリカンフットボールなどの競技者を中心に欧米で豪延していく。ち なみにアメリカ食品医薬品局(FDA)は、メタアンドロステノロンの強い副作用を懸念して製造中 止を指示し、八六年にはアメリカ市場からダイアナボルが姿を消したことになっている。

しかし ダイアナボルはインドや東欧で生産されているほか、大きな需要に応えるためメキシコやアメリカ国内でもアンダーグラウンドで精力的に製造されている。 アナボリック・ステロイドがどれだけ競技能力の向上に寄与してくれるのかーこの質問に対する 解答は、数々のスポーツシーンで展開されているユーザーたちの成績をみれば一目瞭然だ。だが最新 の科学的なデータはほとんど発表されていない。ステロイド王国といってもいいアメリカでも、研究 のほとんどがもっばら60、70年代に集中している。それはステロイド薬褐が紛れもない事実と判 明している以上、人体実験を行えないという事情があるからだ。60、70年代に研究機関が行った 実験結果を見てみるとー適切かつ時機を得たアナボリック・ステロイドの投与と、適度な運動、栄 養補給を満たした場合、著しい筋力と体重増加が認められることが報告されている。

国際オリンピック委員会(10C)は七六年のモントリオール・オリンピックから本格的なドーピ ングチェックを導入したが、それも強力な歯止めとはならなかった。ドーピングのドープ (dope)と は、麻薬や興奮剤と翻訳される。転じてドーピングは「禁止薬物使用」と理解されているが、さらに 「国際オリンピック委員会規約における禁止薬物使用」とすれば、なおさらわかりやすいだろう。

とりわけアナボリック・ステロイドの存在を全世界に轟かせたのは、カナダのベン・ジョンソンだ った。彼は八八年のソウル・オリンピック陸上100メートルで9秒79という驚異的な記録で優勝 したものの、ドーピング検査で失格し金メダルと世界記録、さらに名誉まで失ってしまった。世界中 の人々が、彼のビルドアップされた筋肉と、世界最速を実現した薬物の効力を痛感した。最近では九 四年の広島アジア大会で中国競泳陣が大量の違反者を出したこと、日本の陸上競技でもアトランタ・ オリンピックを前に抜き打ち検査で陽性反応者が出た事件などが記憶に新しい。

北米では低年齢のアマチュア選手への汚染が深刻な問題となっている。アメリカのハイスクールの 運動部員は、一割がアナボリック・ステロイドの経験者といわれているほどだ。ある学校では、アメリカンフットボール部のメンバーの八割が体験者だったという。九五年のカナダの例では、中学生の 運動選手の四・五パーセントが経験済みと報告された。 九八年には大リーグのホームラン記録を大幅に更新したマーク・マグワイア選手が使用していたア ンドロステンディオンがドーピングか否かとして論議を呼んだ。アンドロステンディオンは「アンド ロステイン%」などの商品名で、つい最近まで全米のビタミンショップで簡単に手に入った。

日本で も輸入代行業者が5,000円くらいで取引していた。アンドロステンディオンは1OCや全米プロフ ットボール (NFL)、全米テニス協会などが禁止薬物に指定しているが、大リーグは禁止していな いほか、FDAも九四年に「筋肉増強効果のある」栄養物質と公認し、規制を加えていなかった。F DAには化学合成物に厳しく自然物に甘いという伝統がある。アンドロステンディオンはヨーロッパ 赤松の根や一部の動物の体内で自然に、合成されるだけに、薬品ではなくサプリメント(栄養補助 食品)として認定されたようだ。

しかしアンドロステンディオンは、八○年代に東ドイツでステロイドと同じ効果を期待されて研究された物質だ。体内に入ると、テストステロン(男性ホルモン)レベ ルをステロイド並みに急上昇させる。当然アナボリック効果も高いわけで、それ以外にもカルシウム 蓄積作用、赤血球や白血球の増加、疲労回復作用などステロイドと同様の働きをする。副作用もステ ロイドと同じとする医療関係者が多い。

ただしー日本のボディビルダーたちのために明言しておくが、日本では大部分のボディビルダー がドーピングと縁のないところに身をおいている。まずこの点を強調しておかねばならない。北米で の数字がボディビルダーだけでなく運動選手全般にわたっている点と、アメリカの薬物に対する環境 が、マリファナやコカインなどのドラッグを例に出すまでもなく一般化、低年齢化している事実に着 目してほしい。

日本とアメリカでは、身体改造に対する価値観の違いも大きい。アメリカのタトウー やピアッシングなどに対する社会的認知度、美容整形に市民権が与えられていることなどはその証左 となる。

ボディビル界ではアナボリック・ステロイドを使用していないビルダーをナチュラルビルダーと呼 ぶ。ナチュラルの定義には、ドラッグフリー(一度もドーピング経験がない)やナチュラル(かつては 薬物体験があっても、現在は手を切っている)という細分化も試みられているが、とにかく薬物を使用 していないビルダーがナチュラルビルダーだと解釈してかまわない。 日本ボディビル連盟の野沢秀雄広報委員は、ドーピング検査の必要性を「競技の公正を図るためと、 選手の健康を守るため」と強調する。アナボリック・ステロイドの使用者とナチュラルの差は歴然と している。とても両者を同列では審査できない。

そして、この薬は卓越した効果とともに悲惨で深刻 な副作用も併せ持つ。アメリカには、ステロイドの乱用で命を落としたプロビルダーや副作用に悩む使用者が数多くいる。 近年、アメリカのボディビル界でも、ようやくアンチ・ステロイドキャンペーンが起こりつつある。 ナチュラル・コンテストも盛んになってきた。ステロイド剤を使ってつくった肉体の是非が問われつ つある気配だ。アナボリック・ステロイドの違法な売買はドラッグ売買と同じ罪となり、その取り締 まりは連邦麻薬取締局の管轄となっている。 しかしその一方で、アメリカでは、もはやアナボリック・ステロイドはドーピングの主役ではなく、 成長ホルモンや血液ドーピングにまでエスカレートしているという指摘がある。また、プロのビルダ ーに求められているのはナチュラルという範囲でつくられた筋肉ではなく、フリークスやモンスター の域に達した肉体であり、見世物としてのそれだという声も根強い。 プロビルダー欧米、特にアメリカには数十人だが男女のプロビルダーがいる。ナチュラルを標 傍する団体も小規模だがいくつかあり、そこにもプロは存在する。

だが、圧倒的なパワーを誇ってい るのは、世界最大のボディビル団体を自負する国際ボディビル連盟(IFBB)のプロ選手たちだ。 彼らはコンテストの賞金やセミナー、サプリメントメーカーのアドバイザーなどで生計を立ててい る。プロビルダー最高のタイトル、IFBBミスター・ミズ・マスターズなどのオリンピア大会の優 勝賞金総額は、九八年で四○万ドルだった。自身もかつてはオリンピア・チャンピオンの座に合計七 度ついた、アーノルド・シュワルツェネッガーが主催するコンテスト「アーノルドクラシック」は10万ドルだ。この他にもプロのコンテストは数多く、プロビルダーたちの貴重な資金源となっている。

当然のことながらプロを目指すボディービルダーの大半は、「金のため」「勝つため」という大義名分を振りかざしてアナボリック・ステロイドを服用する。九五年秋に、当時ミスターオリンピアの王座に四度連続してついていたイギリス人のチャンピオン、ドリアン・イエーツが来日したことがある。東京で行われた彼のセミナーでこんな質問が出た。

「あなたはドラッグを使用しているのですか」イエーツは表情ひとつ変えずに、通訳に質問した。「ドラッグだって?彼が聞きたいのは成長ホルモンの話か、それとも利尿剤のことか。あるいはアナボリック・ステロイドについてだろうか」通訳は、おそらくステロイドのことだと思うと答えた。

「アナボリック・ステロイドについてなら、イエス、オフコースだ。プロとしてこの身体を維持し発達させるためには、ドーピングなしではやっていけない。また、自分のタイトルを狙うライバルたちもステロイドを使っている。ライバルたちが使っている以上は僕も使用する。プロは試合で勝たなければいけない。僕は家族を養っていかねばならない」イエーツは堂々と答えた。だがそのイエーツもオリンピア六連覇を達成後、九八年に引退している。理由は上腕三頭筋の断裂とされているが、多くのボディビル関係者は、ステロイドの過剰摂取による内臓出血が要因だと推測している。プロビルダーの牙城1FBBは、世間のアンチ・ドーピングの風に押されて何度かドーピング検査を実施しているが、その実態はザルに近い。

90年に入って早々、ニューヨークを根城にするプロレス団体WWFがボディビル事業に乗り出し WBFを発足させたとき、IFBBからスター選手が何人も引き抜かれた。あわてたIFBBはアンチ・ステロイドキャンペーンを実施する。それは、ボディビル界から薬物を一掃するという大義名分の下に行われた。だがIFBBのキャンペーンは露骨な新興団体潰しでもあったーWBFの親団体WWFでは、アルティメット・ウォリアーやハルク・ホーガンといったスターレスラーたちが、ステロイドを使ってつくり上げた筋肉美で人気を勝ち得ていた。WWFのドクター、ジョージ・ザハリオンがステロイドをレスラーに違法供与していた罪で懲役刑を宣告されたほどだ。ましてボディビル団体になるとIFBBはそこにつけこもうとした。 結果として、ボディビルがプロレスを上回る興行マーケットを持たなかったことと、組織運営のまずさからWBFは三年ほどで壊滅する。だがこのキャンペーンで、IFBBは自らの首も締めることになってしまう。ステロイドをやめた選手が軒並みサイズダウンし、見せる、要素が半減してしまい、観客動員に大きく響いた。特にプロの女子コンテストは参加者が激減し、大会開催自体が危ぶまれるという非常事態に陥った。 そんな背景からドーピング検査は有名無実になりつつあった。

しかし九二年にモハメッド・ベナジサ、九六年にはアンドレアス・ムンツァーといった有名プロ選手が死亡するー特にべナジサの場合は、ヨーロッパグランプリのオランダ大会で、コンテスト当日の食事中に死亡するというショッキングな事件だ。フォークを口に持っていったまま、彼は突然動かなくなってしまった。すぐに適切な救急措置が取られなかったことを指摘する声もあるが、結果として彼は死んだ。死因は利尿剤や興奮剤などの副作用による心臓疾患と判定されている。利尿剤は、ステロイドの服用によって、身体に多量に溜まった水分やナトリウムを抜く目的で使われることが多い。 利尿剤の副作用として、背中や脚などの筋肉が攣ることが知られている。

だが彼の場合は、心臓の筋肉、までもが犠牲になってしまった。ムンツァーは長期にわたる禁止薬物服用による内臓出血が死因だった。彼は八六年に初めて日本で開催されたアマチュア世界選手権(ミスターユニバース)の優勝者だ。試合後に義務づけられた尿検査で、ムンツァーは尿が出ないといって最後まで検査を拒否したエピソードを持っている。この大会では何と十三人もの外国人選手が失格した。

現役の有力選手を薬物で物故させ世間の非難を浴びたIFBBは、九六年から再びドーピングチェックを再開したものの、アナボリック・ステロイドをそのリストに入れていない。IFBBは興行面の利益を優先して、ステロイド剤の使用を見て見ぬふりをしているわけだ。それと比較すれば日本のチェックは実質的に世界一の厳しさだろう。世界で目覚ましい成績を残す日本人選手が少ないのは、このドーピングチェックのせいだといわれているほどだ。現在、日本にはJBBFを筆頭にJPC、NBBFなどのボディビル団体があるが、どれもが薬物汚染の一掃に専心している。特にJBBFは八六年から本格的にアナボリック・ステロイドなど禁止薬物の駆逐に着手し、薬物使用者に対して強い態度で臨んできた。未だにドーピング検査を実施していない団体が大多数を占める日本のスポーツ界にあって、最初にテストを実施した実績を持ち、世界中のスポーツ団体の中でも有数の厳しい態度で臨んでいることを自負している。連盟主催のコンテストでは、上位入賞者に必ず検査が課せられるほか、常時抜き打ち検査も実施されている。検査は10C公認機関で行われ、陽性反応が出た選手の氏名は公示され、一年以上のコンテスト出場停止、二度目からは永久追放となる。

夕食の後片付けをしている妻を見ながら、彼は話すべき内容をもう一度反復した。なぜか、初めて 一緒にボディビル大会へ行ったときの、妻の困惑した表情が思い浮かんだ。ボディビルに対する熱意 はもう何度も語っている。それでも彼は、筋肉を鍛える行為の奥にある執念を理解してもらえるか不 安だった。
結婚前、彼は新生活のささやかな条件としてボディビルを続けること、できればアメリカに渡って プロ選手になることを挙げていた。彼女はトレーニングの継続を快く認め、プロになる話に関しては ただ笑っていた。
できることなら薬のことなど口にしたくはない。普段から、なるべく家庭にはボディビルの話を持 ち込まないようにしている。だが何種類ものアナボリック・ステロイドを服用しているのは現実のこ とだ。こんなものをジムのロッカーに隠しておくわけにはいかないから、錠剤はタッパーウェアに詰 めて家に置いている。もちろん妻は薬のシ当の意味を知らない。プロテインやビタミン剤、アミ ノ酸、クレアチンといった、彼が摂取する膨しい種類のサプリメントと同じと思っているはずだ。このままの状況を押し通してもかまわないのだが、なぜか妻には正直に告白しておきたかった。
彼女とは二十代半ばで結ばれている。まだ子どもはいない。彼女と出会ったのは中学時代だ。当時は単なる友人で、大学受験の頃から自然と疎遠になった。結婚する二年前に突然彼女から連絡が入り、 そのとき二人とも故郷を離れて東京で暮らしていることを知ったのだった。十年ぶりの再会で彼は、 彼女のおっとりした性格が変わっていないのをうれしく思った。驚いたのは彼女のほうだ。優に普通 人の倍はある身体の横幅と厚み、異形ともいえる彼の肉体に絶句した。彼女の知っていたのは、中肉 中背のハンサムな秀才だったはずだ。
彼は自分の肉体をことさら誇示しないかわりに、卑下したり恥じたりもしなかった。デートのとき は、なるべくボディビルにかかわる話をしないように心掛けたし、街で自分に注がれる無遠慮な好奇 の目はすべて無視した。やがて結婚を前提として交際するようになり、彼は家庭を持つだけの給料を得るために職を替えた。四六時中トレーニングできる環境だが、アルバイト扱いだったジムのインス トラクターを辞め、運動器具を輸入販売する会社の正社員となった。それらの姿勢が、彼女の、彼の 肉体に対する違和感を薄れさせていった。あるいは彼女の愛が、この膨れあがった筋肉をも受け入れ たというべきだろうかー。
彼はタッパーウェアを開くと妻を呼んだ。そこにはアナドロールやプリモボランと呼ばれるステロ イド剤が詰まっている。
「僕にとって、ボディビルが何よりも大切なものだということは知っているよね。身体を大きくする には、トレーニングや高い栄養価の食事だけでは不十分なんだ。場合によっては筋肉の発達を促す薬 を服用することもある」
「それってべン・ジョンソンが使ってた薬?」
彼女の表情が一瞬くもった。スポーツには興味のない妻が、筋肉増強剤の薬効や副作用について詳しく知っているはずがない。そう思ったにもかかわらず、彼はいっきにたたみかけた。
「そうじゃない。もちろん副作用はないし、子供を生んだときに悪影響を及ぼすこともない。いうな らば強力なビタミン剤みたいなものなんだ。全力を尽くしてトレーニングしても、いくら綴密な計算 でダイエットをしても、身体が大きくなるには限度がある。でも、この薬を飲むことで限界を超えた 肉体を手に入れることができるんだ。僕がどれだけボディビルにのめり込んでいるか、君ならわかる だろう」
「・・・・・・」
どうしてこんな説明をしてしまったのか。彼は自分の吐いた言葉を怪しんだ。でもすぐに、こう話 すことで彼女が安心してくれるのならそれでいいと考え直した。妻は要領を得ない顔で彼を見つめて いる。 「とにかく僕を信じてほしい。これは決して怪しい薬じゃないんだ。大きくなるため、ただそのため にだけ効果がある薬なんだよ」 妻は黙っていた。 妻とボディビル、どちらが大切かと言われたら 一瞬、彼は夢想した。そして、答えはすぐに浮かんできた。ボディビル・・・。

彼の名前を、仮に阿倍健(あべ・たけし)としよう。 阿倍がアナボリック・ステロイドを使用しはじめたのは大学生のときだった。現在の体重はオフシ ーズンで120キロ近くある。身長は175センチだ。巨大な筋肉群ー胸囲130センチ、腕回り50センチ、ふともも74センチというサイズは常人の域をはるかに超えている。
ステロイド服用に加え、 想像を超えた厳しいトレーニング、計算された栄養補給が巨大な筋肉を育成してくれた。もともと骨 太でがっしりした体格だったが、ステロイド服用5年で体重が40キロ、ベンチプレスで扱う重量は 60キロ、腕は10センチ増加した。 日本製の既製服はすべてサイズが合わない。アメリカンメイドのXXLサイズを愛用している。ボ ディビルダーの中には真っ黒に日焼けしたうえ、派手なファッションやアクセサリーで身を飾る者が いるが、彼は決してそのようなことはしない。たいていは地味なTシャツやトレーナーにジーンズと いう服装だ。それでもほとんどの人間が、彼の並外れたサイズに驚き振り返る。 阿倍の身体を「大きい」とか「遅しい」と形容するのは簡単だが、その筋肉の厚みや密度、太さを 説明するのは難しい。試しに彼の上腕を触ってみよう。彼の腕は、俗に「若い女性のウエストサイ ズ」と称される大きさだ。とても片手の手のひらではつかみきれない。どうしても両方の手で抱え込 むという形になる。
意外なのは、外見はボンレスハムのように固く締まった感じなのだが、その肉の塊をつかんでみる と、柔らかいことだ。彼は、牛の脂肪と赤身の肉に指を押し当ててみると、脂肪は赤身よりずっと固 いはずだと説明してくれた。筋肉も同じで体脂肪や筋中脂肪が少ないと柔らかな感触になる。

アナボリック・ステロイド使用者の話

何人ものアナボリック・ステロイド使用者と話す機会を得た。彼らは、全員 が過去にJBBFのドーピング検査で陽性と判断された者ばかりだ。自己の行為を正当化するためか、 皆おしなべて雄弁だった。死の危険をも含めた筋肉増強剤の副作用、反社会性、使用が判明したとき の罰則、世間の目・・・おそらく踏み越えなければいけなかったハードルは数多かったはずだ。彼らは 悩んだことだろう。あるいは取材を前に想定問答集よろしくエクスキューズを練っていたのかもしれ ない。最後に、彼らの多くはこう締めくくった。
「外国では常識だから」
「悪気はなかった。人にすすめられて、ついやってしまった」
「薬物使用は悪いことだ。もう二度と手を出す気はない」
だが、安倍はこう言った。
「自分はただひたすらに大きくなりたい。天から与えられた身体を、自分の意志の力で変えていく。 筋肉を一センチ肥大させることで自分が神に近づけるわけではありませんが、少なくとも自分の肉体 という小宇宙を創造することができる。たとえ後遺症が襲ってきてもかまわない。どんな手段を使っ ても、限りなく肥大した筋肉を手に入れたい。ただ、それだけなんです」
ボディビルダーたちは、筋肉を大きくすることに対して満足を知らない。筋肥大への想いが一線を 越えてしまうーそれがドーピングだ。 筋肉が劇的な変化を続けてくれるのは、おそらく三十二か三十三歳くらいまでだと、彼は断言する。
「それまでに、何とか究極の身体をつくり上げたい。そのことしか頭にありません」
阿倍に残された時間は決して長くない。筋肉のためには、すべてを捧げる覚悟だという。 「四十歳の自分を想像したことなんてありませんし、想像する必要もないと思います」
安倍の生まれ育った場所は太平洋に面していて、温暖な気候でスポーツの盛んな土地だ。一九七○年、彼は公務員の父と銀行員だった母との間に生まれた。母は教育熱心だった。その理由を彼は、父に学歴がないため職場で苦労したからではなしている。温和で優しかった父が春の昇進時期やボーナス時になると、決まって不機嫌にをよく覚えている。母も父の不遇をその学歴に求めていた。彼は小学四年になると塾へ行かされた。彼には、母の自分への期待が痛いくらいにわかったという。「その頃から高校を卒業するまで成績はずっと上位でした。得意科目は数学と国語、中学に入ってからは英語が加わります」彼のプライドの持ち方にはひとつの特徴がある。勉学の場でもそれは発揮された。「暗記科目は勉強する気にならなかった。暗記ですませる科目は、本当の知力を必要としないからす。そんなことより、数式を解析したり読解力を試される科目が好きでした」だから彼は、歴史の年号暗記などには本気で取り組まなかった。国語では漢字の書き取りなどには目もくれずに、ひたすら読解力に磨きをかけた。勉強でも運動でも彼は常にトップを目指している。トップというポジションがある以上、彼はそれを手に入れるのが当然だと考えていた。「目標を掲げそれに向かって一心に努力するというのは、素晴らしいことだと思います。だけど目標 に到達したときに自己満足してしまってはいけないんです。常に走り続けること。いつも理想を掲げて適進することが重要なんじゃないでしょうか」後にいくつかのボディビルコンテストで彼は優勝する。「優勝したときは確かにうれしかった。でも後に残るのはトロフィーだけです。そんなものより、自分の身体が最高に大きかったという事実がほしい。もし優勝しても、下位に自分より大きな選手がいては絶対に満足できないんです。逆に自分が下位であっても、その大会で最も巨大な筋肉を身に纏っていればいい」シジフォスの神話を例に出して、ボディビルに取り組む彼との共通性を指摘したとき、彼はすぐさま否定した。「自分は意味もなく日々のトレーニングを続けているわけではありません。それにトレーニングはせっかく頂上まで来て、また元の振り出しに戻るというものでもない。少しずつでも筋肉は大きくなり、それにつれて登る山も険しくなっていくんです」彼が筋肉を強く意識したのは小学校高学年の理科の時間だった。「筋肉の勉強をしてたんですが、このとき腕に力を込めたら、クラスで自分だけクッキリと力こぶが浮き出たんです。さっそく先生に呼ばれて教壇の前で、力こぶを披露しました。恥ずかしいような誇らしいような、くすぐったい気持ちだったのを覚えています」中学時代は陸上部に所属し、プロック大会で入賞したこともある。一方で彼は濫読を始めた。ゲーテやへッセを知ったのはこの頃だ。やがて彼は県下でも進学校として名高い高校へ進学する。外交官となるために東京大学を志す一方で、ラグビーにも熱中した。身長こそ高くなかったが、骨太で筋肉の質にも先天的に恵まれていた彼はプロップとして活躍している。このとき、彼は補助トレーニングとしてウエイトトレーニングを開始する。その成果は高校三年生でベンチプレスで最高一四○キロという、並外れた数値となって現れた。いつしかラグビーよりも、身体を鍛えることとパワーの増大、筋肉の成長が同一のベクトルとなって彼を引き付け始めた。ボディビル雑誌を手に取るようになったのもこの頃だ。東大受験に失敗した彼は、東京に出て予備校に通う。予備校の近くには雑誌で知っていたボディビルジムがあった。古びたビルの一室にあるジムの窓をあけると、山手線の高架が見える。そのとき、彼はすでに筋肉肥大への強い想いを抱いていた。ボディビルの頂点は、さまざまな要素を天分として持ち合わせ、それを不断の努力で補強できた者だけが極められる。幸い自分には天賦の才があるようだ。ひと握りの人間だけに許された喜悦を味わい尽くしてみたい。「ボディビルはおもしろいんです。ボディビルは数学の方程式を解くのに似ている。正しいやりかたで順序だてて解析すると、必ず正解にたどりつく。ボディビルは化学でもありますね。いろんな要素を化合させると、まったく新しいものが現れる。知識を実行に移す喜びは学問と同じことだと思います」ジムはお世辞にもきれいとは言えず、バーベルには錯が浮いていた。シャワーやトイレの水回りも清潔とは言い難い。同じ会費を払えば最新のマシン、プールやジャクジーまで完備したフィットネスクラブに入会できた。「自分にとっては、フィットネスクラブでなくボディビルジムでなければいけなかった。ファッショ ン性やお手軽な気持ちでウェイトと向かい合うような人たち、またそんなムードが寛延している空間でトレーニングしたくなかったんです」翌年彼は再び東京大学に落ちてしまう。浪人中は一所懸命に勉強したつもりだった。でも行きたい大学には入れなかった。安倍は滑り止めの早稲田大学政経学部に入学する。偏差値でいえば、この大学と学部は私大文系ヒエラルキーの頂点に位置している。だが彼にとって大学は魅力の少ない場所だった。何人かの友人もできたが、居酒屋をハシゴしたり、文学論を戦わせることにそれほど喜びは感じられない。落ち込んだというより、気持ちに空いた穴がなかなか埋まらない状態だった。あるいは軽い五月病みたいなものだったのかもしれない。次第に彼の足はキャンパスから遠のくようになる。空しさを紛らすため、彼は再びウエイトに向かう。バーベルを握っている間は余計なことを何も考えない。頭の中はカラッポなんです。

ただ重いものを挙げようとしているだけ。これが自分を救ってくれたと思います」大学のボディビル部ものぞいてみたが、彼には物足りなかった。部員たちの筋肉に対する知識は浅く、何より身体が貧弱だ。浪人時代に週一、二回しかバーベルに触れていなかった彼のほうがよっばどパワーも筋肉も発達していた。彼は単独で本格的なトレーニングをすることにしたーボディビルに仲間はいらない。身体はひとりで鍛えられる。最初は筋肉の大きさよりパワーに対する思い入れが強かった。「垂直上昇志向というか、どれだけ他人より優れた力を持っているか、重いものを挙げられるかに興味が集中しました。数字というのは便利なもので、大きな励みになるんです。偏差値を競う受験勉強と同じですね。思い返せば、小さな頃から力に対する信仰のようなものがありました。腕相撲なんか でも絶対に負けたくなかった。当初はボディビルより、パワーリフティングの試合にでも出てみようかなと考えたほどです」 練習で扱う重量がアップするにつれ、久しく忘れていた達成感と充実感が思い出されてきた。身体も確実に変化していく。そうなると、徐々に視点が、力だけでなく肉体と身体を鍛えるという行為の精神性に移っていった。 「ただやみくもに大きくなる、強くなるだけではない。自然の産物である肉体を、各自の理想に向か って自分の意志の力でデザインしていくーボディビルは精神作業でもあるわけです。そういう意味で変身願望は強いですね。とにかく、意志の力を働かせて今とは違うものになる。このあたりはモダニズムの在り方と似たところがあります」 ボディビルが欧米で盛んだという事実のバックボーンを、古代ギリシア神話の肉体礼讃やルネッサンスでの復古主義に求める人は多い。確かにそういう側面はある。だが、自然回帰という部分だけでなく、近代主義的な考えー与えられた肉体を自己の意志で改造する、つまり人知の力で自然を克服しようという試みも、ボディビルの根源となるものだ。今日より明日は筋肉を大きく発達させたいというスタンスは、マックス・ウェーバーが指摘した、「明日は今日よりも多くの利潤を得なければいけない」という近代資本主義の特質に似ている。 筋肉の発達は、トレーニングに栄養と休養を加えた三つの歯車が完璧に噛みあう必要がある。そして、その成果を劇的に倍増させるのがステロイドだといえよう。ただし、「ただアナボリック・ステロイドを多量に飲みさえすれば力がつき、大きくなれるわけではない」と安倍は強調する。

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